化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

用語解説

セリワノフ反応(アルドースとケトースの識別テスト)と反応機構について

セリワノフ反応 セリワノフ反応 (Seliwanoff's test or Seliwanoff's reaction) はケトースとアルドースを識別する呈色反応である。 セリワノフはロシアの化学者 Feodor Feodorovich Selivanovに由来している。 糖のうち、ケトン基を含む糖はケトースであり…

【分析化学】測容ガラス器具(メスフラスコ・ホールピペット・ビュレット)

試薬を実験に用いる際や、未知試料の分析を行う際には、正確な濃度の測定が重要となる。この決まった濃度の溶液を調製するために、欠かせないものが測容ガラス器具である。ここでは、精密な測容器であるメスフラスコ、ホールピペット、ビュレットについて解…

【量子化学基礎】エネルギー遷移とボーアの振動数条件

基底状態と励起状態 水素原子のスペクトルを観測すると、飛び飛びの波長のスペクトル線が観測される。これは、原子のエネルギー準位によって考えることができる。 エネルギー準位のうち、量子数の状態はエネルギーが最低の状態である。これを基底状態という…

【量子化学基礎】ボーアの原子模型とボーア半径(電子の円運動の軌道半径)

ボーアの原子模型 ボーアは1913年に原子模型(ボーアの原子模型)を提案した。 ボーアは水素原子のスペクトル線の波長が飛び飛びの値で観測されることから、原子の構造を解明しようとした。このとき、ボーアが着目した原子模型は1911年にラザフォードが提案し…

水素のスペクトル線とバルマー系列

水素原子のスペクトル線 水素ガスを入れた放電管に高電圧をかけると、放電して光が放出される。この光を分光器で波長毎に分けると、飛び飛びの波長のスペクトル線となっていることが観測される。これは、水素原子のスペクトル線であり、この波長は以下の式に…

1eV (電子ボルト)について

1eV (電子ボルト) 1eV (電子ボルト) は、電子1個分の電気量をもつ電荷を1V(ボルト)だけ電圧 (電位差) の高いところへ移すために必要な仕事 (エネルギー) である。 電子が関連するエネルギーには単位にeVが用いられる場合が多い。 具体的には、電子1個が1Vの…

【量子化学基礎】光電効果と仕事関数・光量子説

光電効果 光(電磁波)が物質に当たったとき、物質から電子が飛び出る現象を光電効果という。またこのとき飛び出した電子は光電子という。 光電効果を起こす限界となる波長を限界波長という。限界波長に対応する振動数を限界振動数という。この限界波長や限界…

【量子化学基礎】エネルギー量子と電磁波の基本式

エネルギー量子 プランクは、熱放射のスペクトルと温度について研究を行い、電磁波(光)が物質に出入りするときのエネルギーの受け渡しの大きさが光の振動数に比例する、飛び飛びの値しか許されないと仮定すると、実験結果と一致することを発見した。つまり、…

熱放射・キルヒホフの法則・ウィーンの変位則・シュテファンの法則

熱放射と3つの特徴 熱くなった物質が出す電磁波(光)は熱放射といわれる。この熱放射には3つの特徴がある。 1. 熱放射のスペクトルの形は温度のみで決まる。そのため、物質の種類によらない。これをキルヒホフの法則という。 2. 熱放射のスペクトルの最大値を…

【錯体化学】配位子場遷移と電荷移動遷移・分光化学系列

配位子場遷移と電荷移動遷移 遷移金属錯体は特有の色を示すものも多い。そのため、可視吸収スペクトルなどを測定すると、可視領域に特有の吸収が表れる。吸収は錯体の分子軌道では、電子によって占有されたエネルギー準位から空のエネルギー準位へ電子が可視…

【錯体化学】遷移金属錯体のσ結合とπ結合

遷移金属錯体の結合 金属d軌道と配位子軌道の相互作用の結果、結合性、非結合性、反結合性の錯体分子軌道が形成される。一般に配位子軌道の方が金属結合より低いエネルギー準位にあるため、結合性軌道は配位子性が大きく、非結合性および反結合性軌道は金属…

【錯体化学】配位子場理論と6配位正八面体型錯体・平面正方型錯体・ヤーンテラー効果

配位子場理論 配位子場理論は錯体の電子構造の理論として知られているものであるが、もともとはイオン結晶に関する理論である結晶場理論を錯体系に適用したものである。 6配位正八面体型錯体 遷移金属の陽イオンの5つのd軌道は縮退している。そのため、5つの…

立体異性体(エナンチオマー・ジアステレオマー)とは

立体異性体とは 化合物の物理的な性質や反応性は、分子の立体的な形によって決まるものも多い。この記事では、この立体化学の概要について説明をする。 同じ分子式をもつ2つの構造があるときに、その2つの構造を重ね合わせることができる場合と、重ね合わせ…

低速電子顕微鏡(LEEM)の解説

低速電子顕微鏡とは 低速電子顕微鏡はLEEM (Low Energy Electron Microscopy)ともいわれる。 透過型電子顕微鏡(TEM)は高速の電子を用いて観測する試料を透過して像を得る。一方で低速電子顕微鏡は、表面試料に数~数十 eV程度の低エネルギーの電子を照射する…

低速電子回折法(LEED)の解説

低速電子回折法とは 低速電子回折法はLEED (Low-Energy Electron Diffraction)ともいわれる。 この手法ではまず、10~200 eV程度の低速の電子線を試料に照射する。このとき、表面原子によって後方散乱を起こした電子を蛍光板に叩きつけることで、発光をカメラ…

【化学基礎】水和のシンプルな解説

水和 物質が水に溶ける場合、その物質の周りには水の分子(H2O)が存在します。この時、水よりも量が少ない方の物質は溶質といいます。溶質と水分子が静電的に引き合って、その溶質分子を取り囲むように水分子が結合する現象を水和といいます。 水は分子全体で…

【化学基礎】疎水性と親水性疎水性相互作用のシンプルな解説

極性分子とは 正電荷と負電荷が偏った分子は極性分子とよばれる。水分子は極性分子の代表例である。極性分子が集合した場合、プラスとマイナスを帯びた部分が引き合うことによって、一定の構造を形成する。特に水分子の場合は、水素と酸素が互い違いに水素結…

【錯体化学】錯体・中心金属・配位子・配位数と構造の解説

遷移元素または遷移金属、は中性および陽イオン状態で不完全なd殻、またはf殻を有する金属元素である。これらの遷移元素はScからCuまでの3d元素、YからaGまでの4D元素、HfからAuまでの5d元素のdブロック元素がひとまとめになり、LaからLuまでのランタノイド…

酸化数と酸化・還元・ラティマーダイアグラム(ラチマー図)

酸化数 化合物、もしくはイオン中において、元素の電気陰性度の大小に応じて、電荷の偏りを極端にした場合の各構成原子の荷電を酸化数という。同じ原子の場合は電荷の偏りがないとみなせるため、酸化数は全体の荷電を原子数で割ったものとする。異なる原子か…

【化学基礎】分子の結合と構造に関わる有効核電荷・イオン化エネルギー・電子親和力・電気陰性度

化合物の結合や構造は、構成している原子の引き付けやすさや、電子間反発、価電子が占める分子軌道などの電子は関与する性質によって決定される。立体因子も電子間相互作用に含めることができるため、電子因子ということもできる。 有効核電荷 一般的に価電…

【物理化学】蒸気圧降下とラウールの法則・浸透圧とファントホッフの法則

蒸気圧降下とラウールの法則 溶媒に不揮発性の溶質を溶かすと、溶媒の蒸気圧が降下し、その降下率が溶質のモル分率に等しくなる現象をラウールの法則という。 純溶媒および溶液の蒸気圧をそれぞれ、、とし、溶質のモル分率をとする。は溶質の分子数÷溶質の分…

【物理化学】相と分留・蒸留の仕組みについて解説

相 明確な境界によって、他と区別される物質系の均一な部分を相(phase)という。相が気体、液体、固体の状態であるのに対応して、それぞれ、気相、液相、固相と呼ぶ。 純物質の相を純相、2つ以上の成分を含む混合物の相を溶相という。 ただ1つの相からなるも…

【物理化学】凝固点降下と沸点上昇の原理をわかりやすく解説

凝固点降下 溶質が溶媒に溶けて、溶液の凝固点が降下する現象を凝固点降下という。希薄な溶液の凝固点降下度(K)は溶媒固有のモル凝固点降下定数(K/質量モル濃度)と質量モル濃度(mol/溶媒1 kg)の積である。 上の関係を式にすると下のようになる。 溶媒1 kg中(…

炭素のβ崩壊と放射性炭素年代測定

炭素のβ崩壊と放射線炭素年代測定 14Cは放射性の不安定元素である。そして、14Cはβ線(電子線を放出して14N(が14N++ 電子)になる。この原子核の変化は1次反応として解析することができる。半減期は5730年である。 大気中の二酸化炭素の同位体14CO2は地球に…

【電気化学基礎】標準水素電極と標準還元電位

標準水素電極 25℃において、電池内のすべての物質が105Paで活量が1、電流が流れていない状態を標準状態という。H+イオンが関与する反応では pH = 0 (近似的には1 mol の酸)の条件である。 電極の電位は標準電極を基準として、測定される。電極電位の基準とし…

熱力学の用語をシンプルに解説(エンタルピー・エントロピー・ギブズの自由エネルギー)

エンタルピー エンタルピーは定圧下における系の熱含量を表す値である。エンタルピー変化が負である場合は発熱反応、正である場合は吸熱反応である。標準反応エンタルピーは標準状態(105 Pa, 298.15 K)において、反応物が生成物になるときの値である。 元素(…

【分子軌道論】結合性、反結合性軌道の解説と窒素、酸素の分子軌道例

分子軌道論の結合性軌道や反結合性軌道の意味や考え方について解説しています。 さらに窒素や酸素の分子軌道を示しています。

27Al MAS NMRの配位数とケミカルシフト

27Al MAS NMR アルミニウムは地中殻中に最も多く存在する金属であり、そのため多くの化合物に含まれています。 このアルミニウムの局所構造の解析において強力な方法の一つが27Al NMRスペクトルの測定です。特に固体では、NMRはX線回折や電子線回折、赤外分…

金属光沢が起こる理由(金属光沢とプラズマ振動)

金属光沢とプラズマ振動 金属光沢は、金属に入射した光が金属内部を透過せずに、表面近傍から反射するために起こる現象です。金属結合している金属は光を内部に通すことはありません。一方で、イオン結合や共有結合している物質である金属酸化物や金属塩は光…

合金の作製方法の解説と共晶合金・包晶合金

合金・固溶体 複数の金属元素を混ぜ合わせて、均質に溶かし込んだ状態の固体金属を合金、もしくは固溶体と呼びます。このとき、混ぜ合わせる金属の量を変化させて、合金の組成を0%から100%まで変化させることで、用途に応じた性質を発現させることができます…