化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【理系研究発表】卒論発表のスライド具体例とポイントをわかりやすく解説

大学の理系の学部4年生は1年間程度研究室に配属され、卒業研究を行い、卒業論文を執筆し、その内容を審査する教員の前で発表することが多いと思います。

この記事では、参考文献のnature communicationに発表されている論文を題材に使用して、卒論発表(研究発表)のスライド例と、意図やポイントを解説します。

ここでは、卒業論文を提出した学生が、その内容について10分間で発表し、5分間質疑応答を行うという設定でスライドを作成しました。(もし学部や研究室でテンプレートが決まっている場合は、それを使いましょう。今回はテンプレートの指定はないという想定です。)

また、本記事で使用した論文にはCC BY 4.0のライセンスが付与されています。

タイトルスライド

スライドの表紙です。発表題目と発表者の名前以外に、学部や学科、研究室名、学籍番号などを載せています。

卒論発表では、所属している大学名は明らかな場合が多いので、省略しています。

研究背景

研究の背景です。今回は背景をスライド2枚でまとめています。

卒論発表は、発表者がきちんと研究背景を理解していることを示す目的もあります。また、卒論発表は学部単位や学科単位で行われる場合、学会発表と比べると比較的分野の幅広い先生が聴衆であることもあります。

そのため、比較的基礎的な背景から説明を始めています。

上段は金属有機構造体(MOF)とは、どういうものなのか、その特徴や注目されている理由を説明しています。

下の段では、注目するMOFナノアレイに利点や期待されている点を説明した後、既存の合成方法の課題を示しています。

このスライドでは、前のスライドのMOFのテンプレート合成方法に代わる、新しいテンプレート合成方法としてliving CDSA法の説明を行います。

CDSA合成法とliving CDSA合成法の特徴や、本研究で注目した理由などを示すことで、研究の目的へと繋げます。

研究目的

ここで、卒業研究はどういったテーマのものか、どういった目的で行ったかを説明します。

また、研究目的は、実際の当初の研究テーマや、初期の研究目的と異なる目的を書いても、一般的に問題はありません。

それよりも重要なポイントは、その後の研究発表のストーリーの流れが、聴衆に分かりやすく話せるか、研究の目的に対応した結論やまとめが示せるかだと思います。

例えば、「当初は基板に担持させたMOFを触媒に用いて、高活性を狙うことを目的としていたが、高活性が出なかったため、このテンプレートを用いる方法を検討した」といった経緯があった場合でも、このように研究の目的をテンプレートを用いたMOFの合成を発表の目的にしても一般的に問題はありません

特に発表時間10分程度であれば、発表時間としては短いので、研究の目的やストーリーが二転三転するようなストーリーは、説明が難しくなります。

実験内容、結果と考察

こういう実験の方法の書き方などに関しては、分野や研究室によって、ローカルルールや暗黙のルールがある場合もありますので、そういった点にはご注意ください。

ここでは、PFS-b-P2VPなどの材料が、どういう流れで合成されて、次のステップで使われたかを示すために、文字に色をつけて示してみています。

また、右の段のPFS-b-P2VPの文字にも赤紫の色をつけていますが、これは後半でこれが重要となるためです。発表のセリフでも、強調することで、この伏線が後半で回収されることを分かりやすく示すことができます。

スライド6の実験方法では狙い通りに合成がいかなかったので、スライド7の実験方法に工夫をして実験を成功させたという流れです。

スライド6とスライド7は、少し変化を加えるために、アニメーション風にしています。記事では分かりにくいですが、Powerpoint上で連続してみると、左の流れの一部の内容が切り替わったように見せることができます。

スライドを切り替える際にも、セリフなどで強調することで、発表者の工夫やアイデアをアピールすることにも繋がります。

また、この研究ではMOFを合成したのですが、発表で示した結果の、この時点、つまりSEM像だけでは、MOFを合成したとは結論づけられないため、"試料の合成に成功"という書き方に留めています。発表者が正しく理解していることを示すためにも、発表したスライドの時点までの内容で、結論や文言が、科学的に、また論理的に間違っていないかは気をつけながら、作成しましょう。

ちなみに、スライド6と7をアニメーションを利用して1枚にまとめても悪くないのですが、質疑応答で前のスライドに戻って説明をしようとした時に、いちいちアニメーションが表示されて戻るのに手間がかかったりするため、アニメーションは必要最低限に留めておいたほうが無難です。

実験結果のスライドです。

特に卒論発表などで、グラフを示す際には、

「左の図は試料のXRDパターンであり、横軸に2θ、縦軸に強度を示しています。下から、シミュレーションパターン、MIL-100(Fe)の粉末のパターン、MIL-100(Fe)ナノアレイのパターンです。MIL-100(Fe)ナノアレイのピークを見ますと、・・・」

というように、丁寧に軸や、どの試料の測定結果かなどを、ポインターなども活用して説明してから、結果を説明し、考察を話すように心がけておいたほうが確実です。

また論文やレポートでは、グラフや図のタイトルはグラフの下、テーブルや表のタイトルはテーブルの上が原則ですが、研究発表のスライドではグラフの上にタイトルがあるように示しても、咎められないケースが多いです。

聴衆は基本的に、上から下、左から右にスライドを見るため、ここではタイトルを上に示しています。

ここは、研究背景のスライドやスライドの5の伏線の回収場面となります。

研究背景のスライド3にて説明したサイズの制御ができるという利点の内容を示すことで、ストーリーを繋げています。

さらに、MIL-100(Fe)ナノアレイが触媒としても優れた材料であることを結果を用いて説明します。

結論スライド

結論やまとめのスライドです。発表目的と対応をしている結論になっていることが好ましいです。

謝辞スライド

謝辞を示すスライドです。特に卒論発表であれば、別の研究室や、別の大学の先生に、実験装置を借していただいたなどの場合は、一言謝辞を述べておいたほうがいいと思います。

ただし、発表が終わったら、司会者が「では、質疑応答に移ります。」のように質疑応答に移ると思いますが、その際には、このスライドよりも、研究発表で重要な一つ前の結論スライドを示した状態で質問を待ったほうが、聴衆に対して親切です。

補助スライド

補助スライドは発表時間中には、説明しない質疑応答対策向けのスライドです。様々な実験を行った方は発表中に触れない実験結果も補助スライドに準備しておくべきです。またスライドの構成を考える際には、最初から補助スライドも作るという前提で、どの結果に注目して発表するかを考えると、無理のない構成が作れます。

補助スライドは使わないこともあるため、一般的に本番のスライドと比べると、例のようにスライド中に空白部分が多かったりしていても大丈夫です。補助スライドにこだわる時間をかけるよりは、まずは発表するメインのスライドのクオリティを上げることを優先するべきです。

全体的なポイント

1スライド 1分・1メッセージ

よくいわれる話として、"1スライドにつき1分"というものと、"1スライドにつき1メッセージ"というものがあります。

今回のケースでは、10分の発表時間ということで、9分30秒~10分程度で発表を終えるために、トータルで12枚で作成しています。表紙と謝辞に1分間ずつかけるケースは少ないため、12枚の枚数で発表時間におさまることを想定しています。

基本的に1スライド1メッセージを意識していますが、特に研究背景などは説明するべき内容が多くなるため、いくつかの説明内容を詰め込んで作成しています。枚数を分割すると、研究背景も1スライド1メッセージで作成できますが、スライド枚数が多くなると、聴衆が1枚あたりを見る時間が数十秒になるため、スライドを表示する時間を優先した配分です。

スライドサイズ(縦横比)

今回は、16:9のワイド画面でスライドを作成しています。

比較的新しいプロジェクターやZoomなどでのオンラインの発表の際には、16:9で問題ありません。古いプロジェクターの場合は、画面サイズが4:3のみに対応している場合があります。この場合が表示がうまくいかなくなることがあるので、当日の発表環境に合わせて、確認しておきましょう。

フォント

原則として、ブロック体サンセリフ書体といわれる (ゴシック体やメイリオ、arial)などの、文字の端まで太く表示されるフォントを用いることが推奨されます。

逆に明朝体やTimes New Romanのようなセリフ体のような、文字の先端が細くなるようなフォントは長い文章を読む際にはいいのですが、スライドでは見づらくなるため、推奨されていません。

これが、これまでの原則でした。こういう指導を行う先生も多くいらっしゃいますし、間違いはありません。

ただし、最近の流れとして、ユニバーサルデザインフォント (UDフォント) を採用する流れがあります。詳しくは調べていただきたいのですが、様々な人に対して"見やすく""読みやすく"を目的に開発されているフォントです。

本スライドもWindows10に標準で搭載されている"UD デジタル 教科書体 NK-B"を用いて作成しています。

フォントに関しては、指導教員の考え方に合わせておくのが無難です。

フォントのサイズ最低20ptで作成しています。また、結論などの強調する部分は28ptや32ptで作成しています。フォントを小さくすると、文字数(情報量)は増やせますが、読みにくくなるため、推奨しません。

例外は、参考文献のフォントサイズで、適切な参考文献を示すことは非常に重要なのですが、スライド内の文字数が多くなってしまうため、バランスを考えながら今回は14ptで調整しています。

文字の色

文字の色を様々な色を使うとカラフルというわずかなメリットよりも、どこが重要なポイントかが分かりにくくなるデメリットのほうが大きいので、考えながら使いましょう。

その色を使う意味も考えながら、適切に色をつけていきましょう。

また黄色やオレンジなどは、見づらくなるケースが多いので、注意が必要です。

強調するポイントに赤文字を用いるケースも多くありますが、世界的に見ると必ずしも赤は重要なポイントではなく、赤はネガティブ、青はポジティブといった使い方をしているケースもありますので、大切な文字は赤と必要以上にこだわる必要はありません。

重要なことは、文字の色について、ある程度スライドの中でルールを統一しておくことです。

イメージ図・イラスト

今回は、論文中の3Dのイメージ図を多く使わせていただきました。ただ、基本的にはPowerpointなどで図形を組み合わせてイラストを作るのが、まず1つの手法になると思います。慣れていけば、これだけでも充分なイメージ図は作成することができます。

またOffice365などの場合であれば、アイコンも比較的便利です。

例えば工業的製法を示すために工場のフリー素材の写真を貼り付け、ラボスケールでの実験を示すために"いらすとや"の実験のイラストを貼り付けるなど、統一感のない多数のイラストを貼り付けると、あまり好印象は与えられません。それであれば、シンプルなイラストなどを活用したほうが、まとまりのあるスライドが完成します。

時間が確保できるのであれば、フリーのソフトウェア (例えばBlenderなど) でも、この論文の図のような3Dイラストを作成することもできます。ただし3D関係は、Powerpointなどと比べて操作が複雑であったり、パソコンのメモリーなどもある程度以上のものが要求されることもあるため、誰でもハードルなしでできるとはいいません。しかし最近はwebサイトやブログなどの他に、3Dモデルを作成する方法をYoutubeなどの動画サイトに投稿しているケースも多く、英語の解説も含めると、かなり充実しているため(英語の動画も、操作を見れたり、字幕も表示できるため高校レベルの英語スキルでも充分理解できます)、昔と比べるとハードルは低くなっていると思います。

配置 (位置揃え)

Powerpointであれば、オブジェクトを選択した状態で、配置やオブジェクトの位置から、オブジェクトを揃えたり、整列させたりすることができます。

こういった機能を活用して、文字の位置や、図の位置を上下左右で揃えたり、整列の間隔を揃えておくかどうかで、スライドの印象は変わります。

基本的に、キレイに揃えた状態で完成させることを意識しましょう。

1ランク上のレベルを目指すには

今回は、ほとんどの大学の卒論発表で合格点を超え、充分な評価が得られるものを意識して作成しています。このスライドで不合格をつける先生は、ほぼいないと思います。

ただし、優秀賞のような表彰がある場合には、賞をもらうことを狙うならば、まだまだ改善点がいくつかあります。

文字が多い

今回は、記事の読者が、スライドを見てある程度内容を理解できるように、実は少し文字を多めに書いています。実際には、口頭での説明があるため、もう少し文字を減らし、重要な部分の文字を残すことで、さらに分かりやすくできます。

また文字を、質の高いイラストやイメージ図に置き換えると、差別化できます。ただ"いらすとや"のような非常に有名で多くの方が使っているイラストだと差別化ができないため、基本的には自分で質の高いイラストを作成することが必要になりますので、時間はかかります。

発表者の考察を充実させる

発表者の考察が少ないと感じた方も多いと思います。例えば、この研究内容であれば、

  • スライド6, 7のMOFナノアレイの合成が失敗した理由を反応のメカニズムの点やギブズエネルギーのような物理化学の点から理由を考察する
  • スライド9のモノマーの溶液量とサイズ制御の関係のメカニズムを考察する (溶液量とナノアレイのサイズが単純な比例ではないことも見て取れます)
  • スライド10の触媒活性が向上した理由や選択性が向上した理由を考察する

などの考察のポイントがあります。

考察は、明らかに実験結果から矛盾のある内容を考察結果として発表するのは問題ですが、証拠はまだ無いという考察や、人によっては反対意見がある考察であっても、一般的にその内容を発表することに問題はありません。むしろ、卒論発表や学会発表などでは質疑応答などを通して、考察について議論を深めることのほうが重要です。

また、考察も同じく文字だけでなく、イメージ図やイラストを作成できると、レベルがあがります。慣れないうちは、イメージ図を作るのは大変だと感じると思いますが、イメージ図を作ることで理解が深まることも多いです。

セリフやポインターなどを活用する

スライドを準備することに精一杯になって、発表の原稿を用意しなかったり、発表の練習が少ないと、スライドのレベルが高くても、全体の評価は低くなる可能性が高いです。

wordなどで原稿を作成して、実際に読んでみて、しゃべりにくいところなどは、単語を変えるなど工夫してスムーズに発表できるように練習をすると、いい発表に仕上がります。

発表時間調整テクニック

卒論発表や学会発表などの多くの方が発表する研究発表では、周りに迷惑をかけないためにも発表時間の調整は重要です。基本的に発表時間内におさえましょう。

発表会場側の準備やPowerpointの発表者ツール画面で時間が表示されていることもありますが、もし無ければスマートフォンのストップウォッチなどを発表の前に表示させておいて、発表直前に押して手元に時間を表示させておきましょう。常に見ておく必要はありませんが、数スライドおきに、スライドを切り替える際に時間を確認して、練習よりもペースが早ければ、気持ちゆっくりめに話すなど工夫しましょう。

発表時間は、緊張して早くなったり、言葉が出なくなって遅くなることがあります。

30分や1時間以上の招待講演や特別講義などでは、先生が時間が足りないので、この実験結果はスキップするというような発表を見たことがある人も多いと思いますが、スライドをスキップするのは短い発表時間の学生が行うことは推奨できません。

発表時間の調整は結論のスライドで行ってしまうのが、無難な手段です。

発表時間が短く終わってしまいそうならば、

  • 結論のスライドの文章内容を丁寧に読み上げる
  • 結論に入る前に、スライドは戻さずに口頭で「本研究の目的は○○であったが」などを付け加える
  • 大学院に進学し、同じ研究室に引き続き所属する場合の卒論発表や、学会発表であれば、今後の計画や展望を口頭で付け加える

発表時間が長くかかってしまったなら

  • 結論の文章を要約でまとめる
  • 時間がオーバーしそうならば、「結論は、このスライドに示した通りです」などで切り上げる

などで、30秒~1分くらいならば調整ができます。結論の部分だけでも、発表時間に合わせてセリフを調整するパターンを練習しておくと、少ない労力で充分な発表ができます。

スライドを付け加えるならば

発表時間がもう少し長い場合や、卒業論文の提出が無く、卒論発表のみの場合は、

  • 2枚目に発表の流れの説明(目次・アジェンダ)のスライドを挟む
  • 研究目的の後に、実験に用いた試薬や純度、測定や分析に使用した機器の名前やメーカーなどをまとめたスライドを挟む (全てを読み上げる必要はありません)
  • 10枚目の触媒評価の結果の前に、触媒反応の反応装置のイラストや反応条件を示すスライドを挟む

などのスライドを付け加えると丁寧です。

今回は、卒業論文を提出しているという前提で、発表時間とのバランスを考えて、いくつかの測定機器の詳細や実験条件を省略することにしました。

学会発表に転用する場合

特に学部4年生などであれば、卒論発表が終わった後に、3月に開催される春季学会で卒論発表の内容を発表するというケースは、よくあると思います。

その場合は少なくとも、表紙のスライドは、以下のような学会発表に合わせたものに変えましょう。

 

 

発表者を共同発表者(共同研究者)を加えたり、所属も大学名や研究所名などを記入するようにしましょう。この書き方は、学会発表で規定があったり、要旨 (アブストラクト)の提出の際に規定があるため、それに合わせておけば問題ありません。

また共同発表者である場合は、謝辞のスライドは省略しているケースも多いです。

また、発表時間も卒論発表と学会発表で1~3分程度の違いがあることはよくあります。3~5分以上の大きく異なる場合は、スライドを増やしたり減らしたりして、調整しましょう。

そうでなければ、学会発表の聴衆は卒論発表の聴衆の先生よりも分野が近いことが想定されるので、その辺りを意識して、研究分野で常識的なことは簡略化するなど、発表の原稿量で調整すれば、比較的労力は少なく対応できます。

参考文献

Wang, S., Xie, W., Wu, P. et al. 
Soft nanobrush-directed multifunctional MOF nanoarrays. 
Nat Commun 13, 6673 (2022). 

https://doi.org/10.1038/s41467-022-34512-1

www.nature.com

本研究スライド例の作成には、上記の論文の図を使用しています。また、当論文には、CC BY 4.0のライセンスが付与されています。