化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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論文の回答レターの形式や具体的な参考例

研究活動の1つとして、学術論文を投稿し、査読を経て、論文を論文誌に掲載させ、研究成果を世に公表するというものがあります。
特に査読付きの論文は、研究者の業績の1つともされる重要な内容です。
この論文を出版(publish)した研究者の100人中99人は対応しているだろうという過程が(データはないですが)査読者からのコメントへの回答です。

この回答レターはResponse letter(回答レター)やRebuttal letter(反論レター)と呼ばれます。この回答レター次第で、論文が採択(accept)されるか、却下(reject)されるかが決まるというケースもあるでしょう。

回答レターでまれに見る場面

さて、大学生や大学院生が論文を投稿した場合は、責任著者は指導教員などであることが多く、査読のコメントは教員に、まず届きます。
そして大学の研究室では査読者のコメントが届いた後に、まれにこういうことが起こります。

指導教員「学生さん。回答レターが届きましたので、転送します。まずは自分なりに回答を準備してみてください。それができたら一緒に回答をブラッシュアップして、回答を返信しましょう。」

指導教員も時期によっては申請書などで忙しかったり、学会に参加しているといったこともあります。また、査読の結果とコメントについては、いつ返答があるかはある程度は予想はできても、実際にはわからないものです。すぐに一緒に回答レターの準備ができるというケースばかりではないかもしれません。
また、教育的な観点から、一度は学生だけで回答レターを作らせるというケースもあるでしょう。

さて、学生が筆頭著者の場合は、その学生が主体的に査読のコメントへの回答を用意することはあるべき姿ですが、特に初めての論文投稿の学生には、ハードルが高く感じることもあるでしょう。

また、論文は形式(フォーマット)が指定されていることも多いですが、回答レターには期日はあっても形式などは決まってないというケースも多いですので、余計にとりあえず作るということにハードルを感じることでしょう。

回答を準備する前の注意点

まず、査読者のコメントが届いたら、文章をしっかり読み込みましょう。ほとんどのケースで、コメントは英語ですので、丁寧に読み込み、意味を確実に確認しましょう。

また、追加の実験が必要と判断した場合は、早急に関係者と相談し、計画を立てましょう。場合によっては、投稿時点では共著者に入ってない研究者に協力を求める必要があるかもしれません。

また、回答の提出の期限の確認も忘れずに行いましょう。
例えば、追加の実験を行うことを予定していて、示されている期日では間に合わない場合は、早めに教員にそのことを伝えおくと、然るべきタイミングで、追加で回答が期日に間に合わないので延長するように編集者に交渉するケースもあるでしょう。

回答レターの例

論文誌や分野にもよりますが、論文と一緒に回答レターも公開されているケースが多くあります。
もし、これまであまり意識していなかった人は、投稿した論文誌や、同じ分野の論文誌を見てましょう。もちろん、それらは採択(Accept)された論文の回答なので、中途半端なアドバイスよりは、その文章の方が価値があるはずです。
ここでは参考文献欄に挙げた、Nature Communicationsの論文の例を紹介します。

まずは参考文献1より、Reviewer(査読者)のcommentsの紹介です。ここではReviewerが3名いるようです。
流し見してみてください。査読者からの各コメント(指摘や質問)があります。

査読者によってコメントや指摘の形式や数も全然違うことがわかります。

さて、ではどのような回答を用意するか?ですが、ここで使われているPoint-by-Point Responseの形式は、わかりやすく、おすすめできる方法の1つです。
Point-by-Point Responseは各問いや指摘、コメントへそれぞれ返答していく形式です。

下に実際のPoint-by-Point Responseの例を示しています。
まずは、どのような形式かを説明しています。
査読者のコメントを各質問や指摘事項の単位にわけて、赤文字でコピー&ペーストして掲載する。
次に上の赤文字のコメントに対して、論文の著者の回答を青文字で記載しています。
論文を修正する場合は、論文の修正と同時に、修正箇所を緑文字で、コピー&ペーストし、修正箇所は太字や下線などで強調されています。

 

さて、実際の回答を見てみましょう。
ほとんどの回答は、査読者への感謝の意を示すところから始めます。査読者した研究者も忙しいなか時間をかけて査読を(ほとんどのケースで無償で)行っています。どのようなコメントでも感謝の気持ちは忘れないようにしましょう。

次に筆者の主張や意図など(緑のハイライト部分からの文章)を示しています。
そのうえで、コメント受けて、どのように対応するかを示しています。この回答では、査読者の指摘を受けて修正を行っています。

このように査読とは、現役の研究者の指摘を受けることで、論文の質を担保するだけでなく、修正をすることによって読者へ誤解を与えたりしないよう修正するといった、論文の質を高める過程です。

指摘事項を全て対応しないといけないわけではない

場合によっては査読者の指摘やコメントに全て対応しきれないケースもあります。参考文献2に示す別の論文の回答レターから紹介します。

こちらのコメントでは、中盤から、フィルムの寿命に関して指摘がされています。最後には、新規性が欠けるというコメントも出ています。どちらかというと、今のコメントは論文の採択に否定的と思っていいでしょう。

さて、ではこういったコメントには、論文の著者はどう回答したかを見てみます。

査読者の指摘を認めたうえで、追加実験の内容などを踏まえて回答しています。
ただし、元々の回答に対して完璧に返答したかというと少し怪しいケースでしょう。
そもそも論文は、研究者の行いたい研究や実験をすべて完了して報告するものとは限りません。論文は、世界に公表する価値のある新規性のある発見と、その主張を裏付けるデータをまとめて報告するものです。
そのため、1つの論文に含める実験内容や実験結果を区別するという主張も認められることがあります。また、相手も研究者ですので、そのことは充分に理解しています。

実際に、この回答に対する査読者の返答を見てみましょう。

これに目を通すと、この論文の目的について納得し、この論文の採択に異論はないという回答となっています。

参考文献

参考文献1

Zhang, X., Zhang, X., Duan, Y. et al. All-optical geometric image transformations enabled by ultrathin metasurfaces. Nat Commun 14, 8374 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-43981-x

参考文献2
Lee, T.H., Lee, B.K., Yoo, S.Y. et al. PolyMOF nanoparticles constructed from intrinsically microporous polymer ligand towards scalable composite membranes for CO2 separation. Nat Commun 14, 8330 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-44027-y