化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

【理系就活・技術面接】技術プレゼンテーションのポイント・準備方法・コツ

 はじめに

理系の学生は、企業への就職のための就活を行うと、技術面接と呼ばれる研究紹介のプレゼンテーションを行うケースが多いと思います。この技術面接は同じ研究の内容を発表する卒論発表や修論発表、学会発表とは異なる点があります。

なぜなら学会発表は研究内容を紹介することが目的であるのに対して、技術面接は研究内容の発表を通して自分を紹介する(自己PRをする)ことが目的だからです。また聞き手も学会発表では専門の近い教授やポスドクなどの研究者ですが、技術面接では専門分野外の技術者や人事の方が面接官となる場合があります。専門分野外の人にも分かりやすく伝えることも重要です。

ここでは、理系の学生だった私が実際に就活を行い大手メーカーの技術職の内定を獲得した経験をもとに、技術面接の技術プレゼンテーションについてまとめました。(あくまでn=1の意見ですので、良いなと思った部分は参考にしてください)

資料の形式

私が経験した技術面接は研究内容の資料について以下の3つの形式がありました。

  • 資料の準備は必要なく、当日に口頭で研究内容を紹介する形式
  • 事前にA4で1~3枚程度に研究概要をまとめた資料を送付し、面接官は手元に印刷した資料がある形式
  • プレゼンテーションソフトのスライド共有などを行い、研究内容をスライドを見ながら(共有しながら)発表を行う形式

また、私が就活を行った2022年卒就活では新型コロナウイルスの影響もあり、すべてオンラインで行われました。今後についてはオンラインで実施されるか、対面で実施されるかわかりませんが、どちらも行われる想定をしておくといいと思います。

発表時間(面接時間)

研究紹介の時間ですが、「研究内容の概要を5分程度で発表してください」といわれるケースが一番多かったです。学会発表と比べると5分という時間は、学会発表よりも少し短い時間だと思います。

また、研究内容の発表時間は長くても5~15分程度でした。短い時間でも研究内容を的確に伝える準備をしておくといいと思います。

一方で質疑応答の時間は30分~1時間というケースが多かったです。これは学生の学会発表と比べると非常に長い時間だと思います。様々な質問を想定して準備をしておくことが必要です。

研究発表の構成

まず、研究の発表でも学会発表と技術面接では目的が違うということを意識する必要があります。そのため、学会発表や卒論発表、修論発表などで用いたスライドや資料を使い回すのではなく、技術面接用に再構成して資料を準備するといいと思います。

ここからは、スライド形式での5分の発表を想定して説明をしていきます。基本的にどの発表形式でも構成は同じで問題ないと思います。

5分での発表ということでスライドは4枚で構成しています。スライドの枚数は発表時間が長ければ、もう少し増やしていいと思います。また、研究内容を視覚的に伝えることができるイラストポンチ絵イメージ図などは積極的に使ったほうがいいと思います。さらに、実験結果などについて深く質問された時を想定して、補助資料も準備しておいていいと思います。

スライド1枚目:研究背景・研究目的・研究目標

f:id:syerox:20210517231811j:plain

研究テーマ

スライドの一番上には研究テーマ自分の所属、名前を入れています。この研究テーマは研究内容を一言で伝えるように設定するといいと思います。この一言で分かりやすく伝えるという点を意識して相手の印象に残るように準備をしておくといいと思います。

研究背景

 研究背景は誰もがニュースなどで耳にしたことのあるような社会問題や課題新しい技術などから紹介するといいと思います。学会発表では、もう少し研究内容に近い部分から紹介するケースも多いと思いますが、面接官は専門分野外の人である可能性も考慮して研究背景を紹介するといいと思います。

研究目的

ここから具体的な研究の目的を紹介します。ここでも技術面接であることを研究背景を踏まえて、どういった研究を行うのかの紹介や、研究を行う意義、研究が達成されると社会でどのように役に立つのかといった点を意識して研究目的を紹介するといいと思います。自分の研究が産業的、社会的、学術的にどういう位置づけなのか一度整理して、アピールする点を選びましょう。また企業では製品化を行うためや製品によって利益を上げるために研究が行われています。そのため、企業の研究者はコストなどを意識して研究を行っています。研究によって生み出される技術によって、従来よりもコストが抑えられるといった場合は、そういった話も交えると企業の方から研究の意義について深い共感を得られると思います。

また研究目的を話すときも専門用語を噛み砕いて説明したり、具体例を交えるなど、専門分野外の人でもわかるように説明するという点は意識しておくといいと思います。

研究目標

どういった目的で研究を行うのかということを踏まえた上で、具体的に研究をどこまで到達することを目標にするのか紹介します。ここではどういった目標を設定するかという課題設定力も問われていると思います。また、その目標を設定した理由や根拠があるといいと思います。

学会発表の研究目標では数値目標を設定するケースは少ないと思いますが、技術面接では数値目標を設定するという手法もあると思います。なぜなら、数値目標はどのくらい達成できたかが専門分野外の人でも評価しやすいからです。ただし、数値目標もその数値の理由や根拠は必要だと思います。

行っている研究の背景や研究の目的は自由に変えることは難しいですが、研究目標は実際の卒業論文や修士論文で到達する研究目標とは異なる研究目標を設定するということもできると思います。自分の研究遂行能力課題解決力を効果的にアピールすることができる研究目標を設定するという考えもあると思います。

スライド2枚目:アプローチ

f:id:syerox:20210518001345j:plain

アプローチ

スライドの2枚目ではどういった方法や手法で研究を進めたのかを紹介します。学会発表では、研究を行う中でオリジナリティを発揮した部分や工夫した部分を細かく紹介しないケースも多いですが、技術面接ではどういったアプローチで研究を進めたのかを話すといいと思います。これによって、企業に入社した後にどのように研究や開発に携わっていくかを相手にイメージさせることができます。

また研究のアプローチが論理的であるか、柔軟な発想があるかといった点も評価されていると思います。

研究の方法や手法、アプローチは「こういった過去の失敗があったが、このように工夫した」といった具体的なエピソードも交えながら説明すると、相手の理解もさらに深まると思います。

スライド3枚目:研究結果

f:id:syerox:20210518001523j:plain
研究結果 

スライドの3枚目では実際の実験の結果などを示します。ここで自分のもっている技術力や専門性もアピールできるといいと思います。学会発表と大きく異なる点は必要最小限の要点となる結果を示すことだと思います。

まず、学会発表などでは、グラフの見方などは相手も知っているものとして発表することも多いと思いますが、ここでは専門分野外の人がいるケースも想定して説明を行うといいと思います。 またグラフや図のどこに着目したのかも説明するようにしましょう。例えば顕微鏡などは比較的専門分野外の人でもわかりやすいと思いますが、様々なスペクトルなどはどこが大事なのかも伝える必要があると思います。

また、基本的に紹介したグラフや図は全て説明することになると想定しましょう。学会発表では聞き手が実験結果の見方についてわかっているため、実験結果の図やグラフをいくつも紹介しながら、研究の考察につなげていくケースが多いと思いますが、技術面接では一つ一つのグラフや図を丁寧に説明すると時間がかかってしまいます。そこで必要最小限の図やグラフの紹介に留めておくといいと思います。全体で5分の説明だと多くても図やグラフは4枚が限界ではないかと思います。

スライド4枚目:考察・まとめ・展望

f:id:syerox:20210518002721j:plain

考察

実験の結果からどのように考えたのかを説明します。ここでも考察を通して論理的思考力などが問われていることを意識して説明するといいと思います。

まとめ

まとめでは実験や計算といった研究の結果についてまとめるだけでなく、1枚目のスライドで設定した目標に対してどの程度達成できているのかといった評価も加えるといいと思います。

展望

最後に今後の研究の展望です。この項目は無くてもいいかもしれません。今後どのように研究を進めていくのかといった部分を簡潔に紹介するといいと思います。いつまでに何をするのかを簡単な図で示すとひと目で分かりやすいと思います。

よくある質問・質問例

技術面接では学会発表よりも長い質問時間が設定されているケースが多かったです。質問は大きく以下の4パターンに分類することができると思います。

  • 専門性技術力、研究の理解力を問う質問
  • 研究に対する個人的な興味関心意欲態度を問う質問
  • 研究結果に対する個人的な経験思考判断を問う質問
  • 企業への入社後を想定した質問

これらに加えて技術面接でも志望動機や就活状況、逆質問などが聞かれるケースもあります。

専門性や技術力、研究の理解力を問う質問

これは研究結果について深堀りをする質問です。この質問に回答するには日頃からきちんと研究内容について勉強し、理解しておくことが必要だと思います。またこれまで行ってきた研究だけでなく、今後の発展や応用、実用化も問われることがあります。よくある質問としては以下のような質問です。

  • この研究の意義はなんですか?
  • この研究は社会でどのように役立ちますか?
  • この研究のオリジナリティはなんですか?
  • 先行研究はどの程度行われていますか?
  • 研究成果はどのような利益を生みますか?
  • あなたの研究の実用化までの課題はなんですか?
  • あなたの研究はどのように発展しますか?
  • どういった実験や測定を行いましたか(どういったスキルをもっていますか)?

研究に対する個人的な興味や関心、意欲、態度を問う質問

研究へ向き合う姿勢といったこれまでの個人的なことが聞かれる質問です。研究と書きましたが、研究室に入るまでの学部や学科を選んだ理由から聞かれることがあります。自己分析と合わせて質問対策をしておくといいと思います。よくある質問としては以下のような質問です。

  • なぜその学部、学科、研究室、研究テーマを選んだのですか?
  • なぜ修士課程、博士課程に進学したのですか?
  • 研究テーマに興味や関心を抱いたきっかけはなんですか?
  • 研究する上で意識したことはなんですか?

研究結果に対する個人的な経験、思考や判断を問う質問

研究の過程に関することを問う質問です。研究のなかでどのように考えて研究を進めていったのか、どのように対処していったのかということが聞かれます。よくある質問としては以下のような質問です。

  • 研究で得たものはなんですか?
  • 研究で気づいたことはなんですか?
  • 研究で困難なことはありましたか?
  • 困難な状況になったときにどのように対処しましたか?

企業への入社後を想定した質問

この質問はこれからのことを問う質問です。特に企業に入社した後のことを意識して聞かれる質問です。よくある質問は以下のような質問です。

  • 研究した経験は入社後どのように活かされると思いますか?
  • アカデミックの道ではなく企業へ就職する理由はなんですか?
  • 入社後はどのような仕事をしたいですか?
  • 今後どのような研究、開発がしたいですか?
  • 入社後はどのようなキャリアを歩みたいですか?

技術面接のコツ

 これは学会発表とも似ていますが、技術面接のコツは"聞き手のことを考えて準備をする"ことと"準備に充分な時間を用意しておく"ことだと思います。

技術面接では学会発表と違って聞き手が専門分野外の方であることも想定して準備をしておく必要があると思います。もちろん、学会発表と同様に聞き手が研究内容について豊富な知見をもっているパターンも想定して準備をしておく必要はあります。

また、技術面接は学会発表と異なる点があるため、学会発表の資料の使い回しではなく、資料を再構成して用意する必要があります。また質問なども想定して、回答を準備しておく必要があります。研究とも両立しながら、この準備する時間を確保しておくことが大切です。