化学徒の備忘録

化学系の用語や記事や論文をわかりやすく紹介します

王水と逆王水について

王水とは

王水 (aqua regia) とは容積比で濃硝酸1と濃塩酸3の混合物の通称である。"いっしょうさんえん"などの語呂合わせで覚えている人も多いだろう。硝酸の塩酸の混合物の総称を王水といっている場合もある。他に希釈した王水のことを希王水ともいう。

希王水は試料を溶解させる際に加熱などが必要な場合に用いられることが多い。

また、王水はあまり安定でないため、使用時に調整する場合が多い。

 王水では、塩酸や硝酸のみなどの通常の酸で溶けない金や白金といった貴金属も溶解する。また金や白金などを溶解させることが、王水の名前の由来となっている。また、金属を溶解させたとき、金属イオンはその金属の最高原子価を示す。

また、王水は強酸化剤である。この王水の酸化作用は次に示す反応の平衡が右へ行くことによって生じる発生時の塩素と塩化ニトロシル(NOCl)の反応性によるものであると考えられている。

HNO3 + 3HCl → Cl2 + NOCl + 2H2O

逆王水とは

逆王水 (inverse aqua regia) とは、王水と酸の混合の容積比が逆であり、容積比で濃硝酸3対濃塩酸1の混酸である。

逆王水は黄鉄鉱中の硫黄を酸化溶解し、硫酸イオンにする場合などに用いられる。

ボイル・シャルルの法則と導出の解説

ボイル・シャルルの法則とは

ボイルの法則シャルルの法則(ゲイリュサックの法則)を組み合わせた法則のことをボイル・シャルルの法則という。

気体の体積は圧力に反比例し、絶対温度に比例するという法則である。

圧力をp、体積をV、絶対温度をTとすると、次のように表される。

 \displaystyle \frac{pV}{T} = (一定)

ボイル・シャルルの法則は実在の気体では、圧力が低く温度が高い場合に成り立つ。厳密には理想気体で成り立つ。

物理的なボイル・シャルルの法則の導出

(I) 圧力p_0、体積T_0、温度T_0の1つの熱力学的な系を考える。

これを温度をT_0のまま、圧力をp_1、体積をV'に変化させる。

このときボイルの法則pV = (一定)より次の関係が成り立つ。

p_0 V_0 = p_1 V'

(II) 次に圧力p_1、体積V'、温度T_0の熱力学的な系を、圧力をp_1のまま、体積をV_1、温度をT_1に変化させる。

このときシャルルの法則\frac{V}{T} = (一定) より次の関係が成り立つ。

 \displaystyle \frac{V'}{T_0} = \frac{V_1}{T_1}

上の式を変形すると次のようになる。

 \displaystyle V' = T_0 \frac{V_1}{T_1}

これを(I)で得られた式に代入する。

 \displaystyle p_0 V_0 = p_1 T_0 \frac{V_1}{T_1}

整理すると次の関係が得られる。

 \displaystyle \frac{p_0 V_0}{T_0} = \frac{p_1 V_1}{T_1}

よって、ボイル・シャルルの法則 \displaystyle \frac{pV}{T} = (一定)が導ける。

数学的なボイル・シャルルの法則の導出

ボイルの法則は温度Tが一定のとき、pV = (一定)が成り立つ。

そのため、ボイルの法則の右辺は温度Tによる関数f(T)である。

pV = f(T) (f(T) \gt 0)

シャルルの法則は圧力pが一定のとき、\frac{V}{T} = (一定)が成り立つ。

そのためシャルルの法則の右辺は圧力pによる関数g(p)である。

\frac{V}{T} = g(p) (g(p) \gt 0)  

ここで、g(p)を1対1対応の関数とすると逆関数が存在する。そのため次のように表すことができる。

 \displaystyle g^{-1} \left ( \frac{V}{T} \right ) = p

ボイルの法則より得られたpV = f(T) (f(T) \gt 0) を変形すると、p =\frac{ f(T)}{V} (V \gt 0) となるため、これを上の式に代入すると次の関係が得られる。

 \displaystyle g^{-1} \left ( \frac{V}{T} \right ) = \frac{ f(T)}{V}

ここで、 \displaystyle g^{-1} \left ( \frac{V}{T} \right ) = h \left ( \frac{V}{T} \right )とおくと次のように表すことができる。

 \displaystyle h \left ( \frac{V}{T} \right ) = \frac{ f(T)}{V}

\frac{V}{T} = xとおくと、f(T) = \lambda T(\lambdaは定数)の場合のみ、h(x)h(x) = \frac{\lambda}{x} となって、 x \left ( = \frac{V}{T} \right ) の関数となる。

よって、 \displaystyle h \left ( \frac{V}{T} \right ) = \frac{ f(T)}{V} を満たすf(T)f(T) = \lambda T のみである。

f(T) = \lambda TpV = f(T)を代入すると次のようになる。

pV = \lambda T

ここで。T \gt 0より、両辺をTで割ると次の関係が得られる。

\frac{pV}{T} = \lambda

よって、ボイル・シャルルの法則 \displaystyle \frac{pV}{T} = (一定)が導出できる。

走査型トンネル顕微鏡・原理・測定試料について

走査型トンネル顕微鏡とは

試料表面に鋭くとがった針 (探針、プローブ) を1 nm以下に近づけて、試料と探針の間に流れるトンネル電流が一定になるようにし、原子レベルの試料表面の立体像を観察する顕微鏡のことを走査型トンネル顕微鏡 (Scanning Tunnelling Microscope, STM) という。

一般的に、縦方向で0.01 nm、横方向で0.1 nmの解像度がある。また、開発された当初は真空中で測定が行われていたが、溶液中でも測定が行われるようになり、in situ測定が可能であるという利点がある。一方で、表面の化学分析や組成分析が出来ないことや、観察面積が狭いという欠点もある。

 走査型トンネル顕微鏡の原理について

探針と試料との距離が1 nm程度になると、探針を構成する原子と試料表面の原子の波動関数が重なる。そのため、両者間に電位差をかけると、トンネル電流が流れる。

このトンネル電流はWKB近似では次のように表すことができる。

 \displaystyle I(V) = \int_0^{eV} \rho_s(E) \rho_t (-eV+E) T(z, eV, E) dE 

ここで、\rho_sは試料の状態密度関数、\rho_tは探針の状態密度関数、Tはトンネル遷移確率、zは試料と探針の距離、Eは電子のエネルギーである。

また、mを電子の質量、\phiを試料と探針の平均の仕事関数、ℏを換算プランク定数とすると、Tは次のように表すことができる。

  \displaystyle T(z, eV, E) = \exp \left ( -\frac{2z \sqrt{2m}}{ℏ} \sqrt{\phi + \frac{eV}{2}-E} \right )

この式からトンネル電流の大きさは試料と探針の距離zに敏感であり、指数関数的に応答することがわかる。

実際に、探針と試料との距離が1 nm程度の場合、数 mVの電位差をかけると1 nA程度のトンネル電流が流れる。トンネル電流は、探針と試料の距離に敏感であり、探針と試料の距離が0.1 nm程度増減すると、トンネル電流の値は一桁変わる。

そのため、探針を試料上で走査 (スキャン) して、トンネル電流を測定し、トンネル電流が一定になるようにフィードバックをかけて探針と試料の距離を一定に保つ。これによって、原子レベルでの表面の凹凸を観測することが可能である。

探針は圧電素子で駆動させており、電圧により上下左右に走査可能である。

実際には、探針を構成する原子と試料表面の原子の波動関数の重なりを追跡しており、幾何学的凹凸を直接見ているわけではない。電気的、または機械、光学的に得られた情報をコンピューターなどで処理を行い凹凸の情報としている。そのため解釈には注意が必要である。

走査型トンネル顕微鏡で測定可能な試料

測定可能な試料は、導電性をもつ試料に限られる。

実際に、金属表面に吸着された原子や分子、高温超伝導体や半導体結晶の表面構造、DNAの二重螺旋、ウイルスの構造などの観察が行われている

シャルルの法則 (アモントンの法則・ゲイリュサックの法則)の解説

シャルルの法則

圧力pが一定のとき、体積Vと温度Tは比例する。

\frac{V}{T} = (一定)

他に、次のような式で表される場合もある。

0℃での気体の体積をV_0t℃での気体の体積をV_tとすると次の関係が成り立つ。

V_t = V_0 (1+\alpha t)

\alphaは、すべての気体について一定である。現在はこの\alphaの値は\frac{1}{273.150}となっている。

この法則は温度があまり低くなく、圧力があまり高くない実在気体については近似的に成り立つ。厳密には理想気体にのみ成り立つ。

シャルルの法則の歴史的経緯

シャルルの法則は1787年にフランスのシャルルによって発見された。しかしシャルルの報告の前である1703年にフランスのアモントンによって発見されていたため、アモントンの法則ともいわれる。

その後、気体の膨張率は温度に正比例し、その膨張係数(\frac{1}{273})は気体の種類に関係なく一定であるという法則に一般化された。これは精密な実験を行い、1802年にゲイ=リュサックによって一般化されたため、ゲイリュサックの法則 (ゲーリュサックの法則) ともいわれる。

 

ボイルの法則の解説

ボイルの法則とは

ボイルの法則は低圧力で密度の小さい希薄な気体の熱力学的な系で成り立つ法則である。

温度Tが一定のとき、圧力pと体積Vは反比例する。

式で表すとつぎのようになる。

pV = (一定)

よって、圧力pを上げると、それに反比例して体積Vは収縮する。圧力pを下げると、それに反比例して体積Vは膨張する。

また、反比例であるため、ボイルの法則をpV図で表すと次のようになる。

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pV図

ボイルの法則の歴史的経緯

ボイルの法則はイギリスのロバート ボイルによって、1660年に実験的に発見され、1662年に発表された。これとは独立に、フランスのマリオットが1676年に報告した。そのため、ボイルの法則をマリオットの法則、ボイル-マリオットの法則ともいう。特にフランスではマリオットの法則という名称が記されている場合が多い。

ボイルの法則の成立条件について

ボイルの法則は理想気体では厳密に成立する。しかし実在気体では、圧力が大きい場合はボイルの法則からずれ、pVは圧力の関数として変化する。これは、実在気体には分子に大きさがあることや分子間相互作用が無視できないからである。

しかし、低圧下では圧力によらず、ボイルの法則どおりの変化を示す温度が現れる。この温度のことをボイル温度という。

フェルミ準位の解説

フェルミ準位とは

熱平衡の状態にある物質中のエネルギー準位を考えたときに、電子がもつエネルギーの上限値の準位のことをフェルミ準位という。

フェルミ準位に電子がはいる確率は0.5であり、フェルミ準位よりも上のエネルギーの準位にはほとんど電子は入らない。

アマルガム・アマルガム法・歯科用アマルガム・アマルガムの合成について

アマルガムとは

水銀と他の合金の総称をアマルガム (amalgam) という。ギリシャ語の"柔らかいもの"という意味のmalagmaが由来である。汞和金 (こうわきん) ともいわれる。

金属の含有量によって、液体、ペースト状、固体などと変化し、一般的には水銀の分量が多くなると液状になる。

 アマルガム法とは

アマルガムは加熱すると水銀が揮発し、放出される。そのため、合金金属のみが残る。これを利用して金属を精錬する方法をアマルガム精錬やアマルガム法、混汞法 (こんこうほう) という。

まず金や銀などの鉱石を粉末にした後、水銀とのアマルガムとして抽出する。このアマルガムの水銀を蒸発させることで、金や銀などを回収できる。

歯科用アマルガムとは

歯科用アマルガムはAg-Sn-Cu合金粉末と水銀の合金である。歯科用アマルガムは、歯科用の充填修復物として使われてきた。

アマルガムの混和直後は流動性があるため、歯の欠損部に充塡することが可能である。しかし水銀は速やかに銀などとAg2Hg3などの金属間化合物を形成する。そのため速やかに硬化する。

水銀の毒性が懸念されるが、硬化後の歯科用アマルガム中では水銀は安
定な金属間化合物を形成し、遊離水銀は非常に少ないためアマルガムの毒性は低いと考えられている。

日本ではコンポジットレジンなどに置き換わりほとんど使用されなくなったが、耐久性が優れているため海外では現在でも使用している場合もある。

アマルガムの合成方法について

ナトリウムアマルガムの合成

ナトリウムを不活性液体 (パラフィン油) 中で加熱して、ナトリウムを融解させ。そこに水銀を加える。最後に静置して、上澄みのパラフィンを取り除く。こうすることで、固体のアマルガムが得られる。

水銀を40度程度に加熱し、ナトリウムを加えて反応させると、ナトリウムが1%程度のナトリウムアマルガムが得られる。

亜鉛アマルガムの合成

亜鉛を水銀と少量の希硫酸とともに加熱する。得られたアマルガムは、水で洗い、分液漏斗で分離する。

カドミウムアマルガムの合成

亜鉛アマルガムと同様の方法で合成できる。カドミウムを水銀と少量の希硫酸とともに加熱する。得られたアマルガムは、水で洗い、分液漏斗で分離する。

ビスマスアマルガム

亜鉛アマルガムと同様の方法で合成できる。ビスマスを水銀と少量の希硫酸とともに加熱する。得られたアマルガムは、水で洗い、分液漏斗で分離する。

鉛アマルガムの合成

濃塩酸で、鉛を洗い表面の塩化鉛を取り除く。この鉛を水銀に加え、均一な液体になるまで加熱する。最後に冷却し、水で洗い、分液漏斗で分離する。