化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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博士はいらない:博士号は専門性でもイノベーション力の指標でもない文部科学省のメッセージ

博士人材活躍プラン~博士をとろう~ 』はご存知だろうか?

令和6年3月26日に文部科学大臣を座長とする「博士人材の社会における活躍促進に向けたタスクフォース」において、「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」を取りまとめました。
文部科学省としては、博士を目指したい方が安心して学修できる環境を整え、高い専門性と汎用的能力を有する人材として生き生きと活躍することを後押ししていきます。
引用: 文部科学省 webページ

博士号をもつ博士人材を、社会にイノベーションをもたらす人材として、博士のキャリアパスをアカデミアだけでなく、様々な分野に広げるために、日本の文部科学省・大学関係者・産業界で意識を変えていこうというメッセージが発せられた。
学生への「博士を取ろう」、企業や省庁への「博士を採ろう」という熱いメッセージと捉えた人もいたことだろう。好意的に受け取ったアカデミア関係者も多かったはずだ。

 

『核融合の挑戦的な研究の支援の在り方に関する検討会』はご存知だろうか?
文部科学省 研究開発局が主導した核融合の未来の可能性を拓くイノベーションへの挑戦的な研究の支援の在り方に関する検討会である。

こういった検討会は、実際には、その分野のアカデミア関係者でも注目していないこともあるが、この検討会はSNSなどで大いに注目されていた。
その要因の1つは村木風海氏が委員に選出されたことにあるだろう。
これに違和感を覚えたアカデミア関係者も少なくなかったようだが、その影響もあってか、あるサイトで公文書開示請求による関連文書が公開されていた。

ここでは、

①令和5年4月11日打合せ資料
②令和5年5月15日打合せ資料
④核融合の挑戦的な研究の支援の在り方に関する検討会の設置案及び委嘱依頼文書案の決裁文書 (5文科開第356号)

を見比べてみたいと思う。これらの資料は参考サイトより引用している。

 

①令和5年4月11日打合せ資料

要約すると、イノベーションへの挑戦的な研究の支援の在り方を検討するために、核融合に関する専門家の協力で進めるということが読み取れる。
検討会の委員案には、黒塗り部分があることから、他にも候補者がいたことが推察できる。

また、委員として
1. ビジョナリーな人
2. 核融合の専門家
3. 核融合以外の分野、産業界、一般市民
という観点で選んでいったことがわかる。

ここでいったんおいておいて、次の資料を見てみる。

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②令和5年5月15日打合せ資料

次の5月の時点でも、趣旨などは変わっていないが、委員の案の部分は間違い探しのような変化があることがわかる。

「ビジョナリーな人」は文部科学省的には良くなかったのか、「フュージョンエネルギーが実現する未来社会の観点」と観点に置き換わっている。

デジタルグリッド株式会社の豊田祐介氏が追加されているが、これは4月のビジョナリーな人で選んでいた人物を何らかの事情で選ぶことができなかったために代わりの候補として提案しているくらいのものであろう。

「核融合の専門家」は、「核融合技術、核融合産業の観点」に置き換わっている。
ここはおもしろいことに各候補者の説明が若干変化している。
武田 秀太郎氏には、4月時点にはなかった 「核融合×計量サステナビリティ学×スタートアップ×若手」という説明が資料に加えられている。

吉田善章氏にも、「ITERで取り組むトカマク型以外の炉型も含めて幅広い視点」という説明が追加されている。

飛田健次氏にも、「アカデミア」と加えられている。

最後に「核融合以外の分野、産業界、一般市民」も「社会受容性の観点」に置き換えられている。

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④核融合の挑戦的な研究の支援の在り方に関する検討会の設置案及び委嘱依頼文書案の決裁文書 (5文科開第356号)

最後に決済文書を見ても、5月の内容と選任理由で進められたことが読み取れる。

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博士号っていらない?

今回の委員を見ると、イノベーションの観点や、専門家の観点など役割やバランス等を考えながら選んでいったことが想像できる。
さらに、検討内容も核融合の研究支援の在り方の検討であれば、まさに博士人材の活躍の場であったということができるだろう。
ところが興味深いことに、検討会の委員選任の理由書を見ていくと、博士という単語は出てきていないことがわかる。

さらに、4月と5月の打ち合わせ内容を比べればわかるように、書類には委員選任の理由が修正されており、「若手」や「アカデミア」などの文言を追加しているので、今回の委員が博士号を持っているかどうかが重要な指標であれば、おそらく博士(工学)といった文言が追加されてもおかしくなかったのではなかろうか?

たしかに、大学教授や大学准教授であれば、博士号は持っていて当たり前なので、わざわざ書くことではないという意見もあるだろう。

しかし、「フュージョンエネルギーが実現する未来社会の観点」の委員はどうであろうか?

例えば、堀場製作所の足立 正之氏は博士(工学)を取得しているはずだが、 選任理由には特に記載されていない。重要な理由の1つになるのであれば、修正するチャンスもあったことから、追加されたことだろう。

やはり博士号をもっているかどうかは、文部科学省がイノベーションな人材や専門家を選ぶうえでは、重要ではないと捉えていると読み取る方が自然ではなかろうか。

つまり結論として、
「文部科学省の実情としては、博士号はイノベーションな人材や専門家の指標として不要である」
ということはできるだろう。
いいかえると、専門家だろうが、イノベーションな人材だろうが「博士だから、とるということはない」ということである。

「博士をとろう」とアピールする人たちが、私たちが人を選ぶ時は「博士かどうかは興味がない」という実態は、村木風海氏などが選ばれたことからアカデミアの人たちは薄々分かっていたことではあろうが、こういう形で確認できてしまえることは、大変残念なことである。

結局、「博士をとろう」というのは2枚舌を使っているだけというのが、本音なのであろう。

ちなみに……

ここまでは、村木風海氏には、ほとんど触れなかったが、村木風海氏の専任理由には、「ムーンショットアンバサダー」や「世界を変える30歳未満の日本人の受賞」や「総務省異能vation採択者」とわざわざ書かれているので、内閣府や総務省のプログラムで選ばれているといったことは、重要視されているようである。

内閣府や総務省が採択したから、文部科学省も委員に選ぶという専任理由を示して、省庁内で委員に選任していく。おそらく今後もまた、ここで有識者として選ばれたことを選任理由に挙げて、別の委員であったりに選ぶということも行われていくのではなかろうか?
村木風海氏に限らず、あの人物は省庁のいろいろな委員などに選ばれているという人は、こういったサイクルにのっかっているだけなのかもしれない。

しかし、採択歴や受賞歴や起業歴に価値がないとはいわないが、そこから読み取れる情報はそこまで多くはないであろう。有識者などを選ぶ際には、本人の能力や資質などを評価して、吟味するのが本来のあるべき姿ではないのだろうか?

そのような自分たちで吟味や調査をする時間がないのか、それともそもそも調査する能力がないのかはわからないが、誰かが高評価をしているから自分たちもこの専門家を選ぶという姿勢であるうちは、文部科学省の支援から日本で破壊的イノベーションが生まれるなんて話は、夢物語で終わってしまうのではないかとも思う。

参考サイト

・文部科学省 「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」についてhttps://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/1278386_00002.htm

・若き天才化学者 村木風海 を、なぜ文部科学省が委員に選んだのか?行政文書開示請求してみた
https://note.com/nora73/n/nf7f5c4674781
https://note.com/nora73/n/n0494a224ddf8