化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【学振申請書】令和5年度(2023年度)DC1・DC2記入例

博士課程に進学を予定している学生であれば、日本学術振興会 特別研究員(DC1・DC2)(通称 学振、がくしん)の申請書を申請すると思います。

学振に絶対採択される方法は存在しませんが、採択される可能性を上げる方法はあります。それは、早めに申請書を書いて、周りの人(友達、先輩、ポスドク、指導教員)にコメントをもらい、推敲を繰り返すことです。

そこで、とにかく早いうちに申請書の草稿を作り上げられるかが重要になります。この記事では、令和5年度(2023年度)の草稿の記入例を執筆できた部分から順次公開していきます。誰かの参考になればと思います。なるべく、最後まで執筆する予定です。

草稿なので、反面教師にするくらいの気持ちで見ていただければと思います。「自分なら、こう書くのに」と思ったことを、申請書に活かしていただければ幸いです。

【研究計画】(1)研究の位置づけ

特別研究員として取り組む研究の位置づけについて、当該分野の状況や課題等の背景、並びに本研究計画の着想に至った経緯も含めて記入してください。

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(2) 研究目的・内容等
 ① 特別研究員として取り組む研究計画における研究目的、研究方法、研究内容について記入してください。
 ② どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのか、具体的に記入してください。

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3.人権の保護及び法令等の遵守への対応 ※本項目は1頁に収めてください。様式の変更・追加は不可。
 本欄には、「2.研究計画」を遂行するにあたって、相手方の同意・協力を必要とする研究、個人情報の取り扱いの配慮を必要とする研究、生命倫理・安全対策に対する取組を必要とする研究など指針・法令等(国際共同研究を行う国・地域の指針・法令等を含む)に基づく手続が必要な研究が含まれている場合、講じる対策と措置を記入してください。
例えば、個人情報を伴うアンケート調査・インタビュー調査、行動調査(個人履歴・映像を含む)、国内外の文化遺産の調査等、提供を受けた試料の使用、侵襲性を伴う研究、ヒト遺伝子解析研究、遺伝子組換え実験、動物実験など、研究機関内外の情報委員会や倫理委員会等における承認手続が必要となる調査・研究・実験などが対象となりますので手続の状況も具体的に記入してください。
 なお、該当しない場合には、その旨記入してください。

 

4.【研究遂行力の自己分析】※各事項の字数制限はありませんが、全体で2頁に収めてください。様式の変更・追加は不可。
 本申請書記載の研究計画を含め、当該分野における(1)「研究に関する自身の強み」及び(2)「今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」のそれぞれについて、これまで携わった研究活動における経験などを踏まえ、具体的に記入してください。

筆者注

(1)の自身の強みに具体例を加えて文量を増やし、(2)の今後研究者として発展のため必要な要素は、要素のみを記入し、申請者が努力する項目は5.の目指す研究者像に記入したほうがいいかもしれません。

5.【目指す研究者像等】※各事項の字数制限はありませんが、全体で1頁に収めてください。様式の変更・追加は不可
 日本学術振興会特別研究員制度は、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的としています。この目的に鑑み、(1)「目指す研究者像」、(2)「目指す研究者像に向けて特別研究員の採用期間中に行う研究活動の位置づけ」を記入してください。

筆者注

(1)の目指す研究者像に特別研究員の採用期間中の活動内容を記入しましたが、これらは区別して(2)に加えたほうが適切かもしれません。

本文

以下にそのまま本文も掲載します。

【研究計画】(1)研究の位置づけ

CO2の電気化学的還元反応の研究の状況

 私は高指数面である{311}面が露出した酸化銅(Cu2O)を二酸化炭素(CO2)還元に用いることで、高指数面とCO2還元反応の特性の関係の解明に取り組むという計画を立てた。大気中のCO2を電気化学的還元反応でエチレンなどのC2+化合物に変換することで、再生可能エネルギーを有効活用し、地球温暖化の原因であるCO2の回収を行うことが期待されている。このCO2の電気化学的還元反応を効率的に行うためには、最適な電極触媒の設計が必要不可欠である。様々な触媒材料の中でも銅系材料、特に銅酸化物はC2+炭化水素など16種以上の生成物を合成することが報告され、有望な触媒材料として盛んに研究が行われている。[1]近年では、ナノサイズのCu2O粒子などにより活性が向上し[2]、計算化学的な観点から、その反応機構についても研究が進められており[3]、触媒の反応のエネルギー効率が高く、さらに化合物の選択性も高い触媒の設計と開発への期待が高まっている。

当該分野の課題

 銅酸化物触媒によるCO2の電気化学的還元反応の現状の課題を挙げる。
1.    CO2の電気化学的還元反応は多くの電子移動過程を経て生成物が合成されるが、その際の大きな過電圧によって、CO2の電気化学的還元反応での高いエネルギー効率が達成できない。
2.    触媒反応の活用においては、特定の化合物を選択的に合成できることが重要であるが、既存のCO2の電気化学的還元反応触媒による生成物の選択性は低く、工業利用価値の高い化合物を選択的に合成することが難しい。
3.    触媒の不安定性による触媒活性の低下が深刻であり、長時間反応を行うと不安定な中間生成物や触媒表面に触媒毒となる副生成物が析出し、長い触媒寿命を達成できない。
4.    基礎理論や実験系の最適化が不十分であり、特定の電極触媒の性能を予測することができない。

本研究計画の着想に至った経緯

私は修士課程の研究で、形状を制御することによって表面に露出している結晶面を制御した酸化銅(Cu2O)を用いたCO2の電気化学的還元反応とその触媒特性について研究を行ってきた。この研究においてエチレンなどのC2+化合物の合成には、Cu2Oの{100}面が有利であることがわかった。(査読付き論文投稿中[4])一方で、{311}面のような高指数面は触媒反応の吸着サイトとなりうる原子レベルの段差が多く存在する。そこで、これまで着目されていなかった高指数面を露出した酸化銅を合成し、触媒として用いることで、高指数面特有の原子レベルの段差にCO2が選択的に吸着し、電気化学的還元反応が進行することで、生成物の選択性が大きく向上すると考えた。

①    研究目的、研究方法、研究内容

研究目的 本研究では、高指数面である{311}面が露出した酸化銅(Cu2O)を合成し、二酸化炭素(CO2)の電気化学的還元に適用することで、CO2還元反応のエネルギー効率と選択性の向上を達成することを目的とする。さらに、触媒の高指数面とCO2還元反応の特性の関係の解明を目指す。
研究方法・研究内容 以下の4つの項目に従って研究を実施する。
(1)    高指数面である{311}面が露出した酸化銅(Cu2O)の合成条件を様々な試薬を用いて検討し、触媒の合成を達成する。
(2)    効率よく、触媒活性を調べるために、フロー型のCO2電気化学的還元反応を行うセルを開発する。これは(4)in situ IR測定も行うことができるものを開発する。
(3)    フロー型セルを用いて、Cu2Oの触媒活性や生成物の選択性、エネルギー効率などを調べ、さらに最適な条件がないかを調べる。
(4)    反応の状況をその場観察できるin situ IR測定を行うことで、CO2が吸着するときの向きや、反応機構の解明を目指す。

②    どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのか

研究方法(1) 高指数面である{311}面が露出した酸化銅(Cu2O)の合成 (採用前~1年目)
 私は修士課程でポリビニルピロリドン (PVP) を用いることによって、形状の制御したCu2Oを合成した。この知見を活用し、クエン酸やグルコースといった結晶の成長方向を制御する界面活性剤を20種類以上検討し、さらに合成時の溶液のpHや温度、界面活性剤の濃度を検討することによってCu2O粒子の形状制御のパラメーターを明らかにする。合成した粒子はXRDやSEM観察によって、その形状を評価する。さらに機械学習を用いてXRDパターンとSEM画像をクラスタリング分析し、決定木を作成することによって、効率的に形状を制御する合成条件を探索し、{311}面などの高指数面が露出したCu2O粒子を合成する。

 

研究方法(2)フロー型のCO2の電気化学的還元反応セルの開発(採用前~1年目)
 電気化学的還元反応では反応の電位によって水からの水素発生のような副反応が起こり、触媒活性が変化する。そこで、触媒反応を反応溶液が流通式のフロー型セル中で行い、反応電位を変化させる度に逐次反応溶液を採取、分析できるようにすることによって、触媒活性の電位依存性を効率よく調べることができる。1電位を10分で測定することを目標にして、製作を行う。さらに研究方法(4)でのCO2の吸着向きを測定するために、赤外線を透過できる窓を設計する。また、修士課程の時点で合成した酸化銅試料を用いることで、フロー型セルの再現性や最適条件の検討を始める。
研究方法(3) {311}面の露出した酸化銅(Cu2O)の活性評価(1年目~3年目前半)
 研究方法(2)で製作したフロー型セルを用いて触媒活性の評価を行う。研究方法(2)で得られた知見を活用することで流通速度などの反応条件の最適化を迅速に行うことが可能である。得られる生成物はHPLCとGCを用いることによって、生成が想定される有機化合物および副反応で生成する水素などの気相成分、液相成分両方の定量を行うことで、反応に用いられた電子の効率であるファラデー効率を90%以上で評価できることを目標とする。
研究方法(4) CO2還元反応と結晶面の関係および反応機構の解明 (2年目~3年目)
 合成した触媒とフロー型セルを用いて、反応中のその場測定であるin situ IR測定を行う。これによって、触媒反応中の触媒表面でのCO2の吸着状態を観察する。CO2の吸着状態や反応中の状態を観察する。さらに、理論計算によって、吸着状態について理論的な側面からも研究を行う。これによって、Cu2O上でのCO2還元反応の反応機構や、さらに吸着状態と触媒の結晶面の活性の関係について実験、理論の両面から解明を行う。
研究の特色・独創的な点
本研究の特色 本研究の特色は以下の3点である。
1.    触媒活性の向上が見込まれる高指数面を反応場として、触媒設計を行う点。
2.    これまで活用されていない機械学習を活用することによって、触媒の合成を迅速に行う点。
3.    触媒のin situ IR観測を行うことによって、触媒反応の反応機構の解明に取り組む点。
先行研究との比較
 これまでに、高指数面を露出したCu2O触媒とCO2の電気化学的還元反応の反応機構の解明が行われた研究は存在しない。低指数面である{111}面や高指数面である{002}面の露出したCu2Oを用いた研究は存在する[5]が、露出した結晶面は平坦な面に留まっており、また触媒活性の評価までであり、その反応機構の解明には至ってない。そのため、吸着サイトとなり得る原子レベルの段差が多く存在する{311}面のCu2Oによる触媒反応の活性や、その反応機構は未解明である。
予想されるインパクト・将来の見通し
 本研究の機械学習を活用した迅速で効率的な触媒合成の手法は、本研究で触媒とするCuO2や電気化学触媒のみならず、光触媒として活用が期待されているSrTiO3やBaSnO3などの触媒の効率的な合成に応用できることが予想される。そのため、本研究で確立する合成手法は電気化学触媒、光触媒、熱触媒など様々な触媒の迅速で効率的な合成に寄与する可能性がある。また、本研究で明らかにしていく触媒上での反応機構などは、CO2還元反応の基礎研究分野としての知見に留まらず、将来におけるさらに反応効率が高い触媒や選択性の高い触媒の合成に繋がる。
申請者が担当する部分
 研究方法(1)~(3)の実験について申請者が全て担当する。研究方法(4)の実験については申請者が担当し、理論計算については、化学大学の固体先生と協力して研究を行う。

3.人権の保護及び法令等の遵守への対応 

 

本研究では該当しない。

4.【研究遂行力の自己分析】

(1)研究に関する自身の強み
研究における主体性
 申請者は大学学部4年から修士2年の現在まで、主体的にCO2の電気化学的還元反応について取り組んできた。申請者は大学学部3年次の講義で現在所属している研究室で行われているCO2の電気化学的の研究を知り、その基礎研究としての面白さと、この研究が進展した際のエネルギー問題や環境問題などの現代の社会問題への解決に繋がることに興味をもち、自分から研究室を選択した。研究室に配属された後は、最初は指導教員からCO2の電気化学的還元反応とその触媒合成についてアイデアの提案をいただいたが、その後は自分自身で先行研究の論文調査を行い、触媒を合成する方法は自分で主体的に提案を行い、合成を行った。また、目的とする触媒の合成の手法についても、申請者自身から積極的に改善を提案し、より目標の形状に近い触媒の合成を達成した。実際の触媒活性の評価においても、最初は所属研究室の博士研究員から実験方法を教わったが、現在では触媒反応の実験から、生成物の定量までの一連の研究活動において、自分1人で実験からデータの解析までをすべて行っている。さらに自分自身で実験スケジュールを自主的に提案し、プランを作成したことで、大学院での講義や学会発表と並行して、効率的に実験を行っている。
発想力
 申請者は研究室に配属された当初は、Cu2O触媒に対して、AgやAuを担持することで触媒活性を向上するテーマに取り組んできた。しかしながら、触媒反応実験を行うなかで、触媒の形状が重要な要素である点に気づいた。そこで、本実験系について触媒表面の結晶面の重要性を気づくに至り、触媒表面の結晶面を制御することによって活性を向上させる研究を発想した。この発想は申請者が触媒形状の観察や触媒反応の実験結果を丁寧に解析を行ったこと、自身と関連する文献のみならず、幅広い分野の文献調査を行ってきたことに由来しており、これらが土台となっている高い発想力は申請者の強みであると考えられる。
問題解決力
 申請者が当初取り組んだ触媒反応は、反応効率が不安定であり、再現性の高いデータを得ることができなかった。さらに反応セル中で生成した物質のなかでも気相成分は、すべて採取できておらず、電子の使用効率であるファラデー効率が70%を超えていなかった。そこで申請者は、触媒量、反応を行う際の温度、反応の溶液の拡散方法などを比較し、その結果を検討することによって、触媒反応の生成物の再現性が高いデータを得られるようになった。
知識の幅・深さ
 申請者が取り組んできた研究は、触媒合成においては無機化学、有機化学、触媒の物性の測定には固体物理学、触媒反応においては電気化学、生成物の分析には分析化学と幅広い知識が必要となる。申請者はこの研究を進めるために、基礎的な教科書から論文までを幅広く読み、そこで得られた知見を自分の研究に応用してきた。さらに、積極的に勉強会や学会に参加し、最先端の研究を得るために常に努力を行っている。
技量
 申請者は、触媒合成、触媒反応、生成物分析などの実験操作において充分な技量を有していると考えられる。触媒合成は、試薬の扱い方により触媒の収率は大きく低下することがよくある。しかし申請者は適確に実験操作を行うことによって、触媒の収率も理論値に対してい80%を超える収率を得ることに成功している。また、触媒反応や生成物の定量においても操作によってはファラデー効率が低下することがあるが、申請者はその技量によって、80%を超える高いファラデー効率を得ることに成功している。これらの結果は、申請者が実験操作に対して、高い技術力を有している結果であると考えている。
コミュニケーション力
 申請者は、指導教員だけでなく、同じ研究室の先輩や同期、後輩と積極的にコミュニケーションをとってきた。このコミュニケーションによって、実験結果についての議論や、後輩への実験方法の指導などを行うことで、研究室全体の研究活動の活発化に貢献してきた。さらに、学内、学外の共同ゼミや研究会にも積極的に参加することによって、触媒分野の研究者と盛んにコミュニケーションを交わしている。こういった申請者のコミュニケーションへの努力によって、化学大学の固体先生との共同研究なども進めることができるようになっており、申請者は研究を進めるにあたり充分なコミュニケーション力を有している。

プレゼンテーション力
 申請者は、学内での研究発表および学会発表に積極的に演題投稿を行い、プレゼンテーション力の向上に努めてきた。(成果学会発表1、2) 申請者はこれら発表に対して、1ヶ月前から資料の作成と、発表練習の繰り返しを行い、聴衆に分かりやすいプレゼンテーションが行えるように準備を行ってきた。その結果、発表を聴講した先生から、「とても分かりやすい発表だった」と評価されている。
成果 国内学会(口頭発表・査読無し)
1.    化学勝夫 et al. Cu2Oを用いた二酸化炭素の還元反応 化学産業会第83回 春季年会 C-13 東京 2021年3月 
本学会発表では、申請者が液相法によって合成したCu2Oナノ粒子を電極触媒として用いたCO2の触媒反応における触媒活性の向上について発表を行った。申請者は触媒の合成から触媒活性の評価までを行った。
成果 国内学会(ポスター発表・査読無し)
2.    化学勝夫 et al. Cu2Oナノ粒子の液相合成 化学産業会第81回 春季年会 CP-8 東京 2020年3月
本学会発表では、申請者が新規の液相法によって合成したCu2Oナノ粒子について、その合成条件と得られたナノ粒子の物性について評価を行い、発表を行った。
(2)今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素
 申請者は今後研究者として発展していくために必要な要素として、広い分野における高い専門性、イノベーションを起こすための柔軟な発想力と問題解決力、異分野や専門外の方と連携していくコミュニケーション力の3つの要素が必要であると考えている。以下にその理由を示す。
1 広い分野における高い専門性
 申請者が取り組んでいるCO2の電気化学還元反応の研究は、無機化学、有機化学、分析化学、電気化学、物理化学などの幅広い分野の知識が必要となる分野である。一方で、現状の触媒の活性では、その活性や選択性、耐久性が低いことから、工業化を目指すにはいくつもの課題が存在している。そこで現状の触媒の活性を大きく向上させるためには、これまでの1つの分野への高い専門性によるアプローチでは非常に長期の研究が必要となる。また、いずれか1つの分野の専門的な知見だけでは既存の触媒活性を大きく超えるブレイクスルーを起こすには不十分であり、多角的な視点から触媒について検討することが必要であると考えている。そこで申請者はこれまで積極的に行ってきた論文や学会参加によるインプットのみならず、他の研究室との共同での勉強会やゼミを継続的に開催することを予定しており、これらの活動を通して、これまで以上の広い分野における知識のインプットとアウトプットを行うことで、広い分野における高い専門性をもつ研究者になることを目指す。
2 イノベーションを起こすための柔軟な発想力と問題解決力
 今後の社会においても、持続可能な社会に向けて多様な技術の発展が必要となる。そして技術の発展のためにはイノベーションが不可欠であり、研究者にもこのイノベーションに貢献することが期待されていると考えている。イノベーションを担う人材には現状の問題に対して、ゼロから課題を設定でき、その課題を解決するための柔軟な発想力と、課題を達成まで牽引する問題解決力が必要である。実際に申請者の行ってきた研究の中で、触媒反応を行っている容器の構造を既存のものから変更したことによって、触媒活性を高い再現性で測定することに成功した。このように申請者は日頃の実験の中から、実験のコンセプトや手法についての課題を考え、その課題について検討することで、問題発見力や論理的な思考力の向上を目指している。さらに申請者は一つの研究課題に実直に粘り強く取り組むことができ、修士課程での研究においても持ち前の忍耐力によって、目標としていたCu2Oナノ粒子の合成に成功した。今後も博士課程に進学し、研究活動に取り組む中で発想力と問題解決力を意識して能力の向上に努めることによって、次の世代を担う研究者に十分な能力をもつことを目指す。
3 異分野や専門外の方と連携していくコミュニケーション力
 申請者が取り組む触媒の設計においても、従来の研究者の知見に基づいて触媒を探索するだけではすべての可能性を検討することは難しくなっている。これは現在では触媒材料の候補が金属酸化物、合金、金属カルコゲナイド、単原子触媒、金属有機構造体、分子触媒など多岐にわたり、さらに取り扱う系自体も複雑であるため選択性の高い触媒を従来の手法で探索すると多くの時間を要することになるからである。またCO2の還元反応のような触媒反応では還元生成物が多いため触媒反応のメカニズムも複雑である。こういった中で、例えばマテリアルズインフォマティクスの研究者や計算化学の研究者との連携は研究を進めるために盛んに行われるようになっており、今後も研究を進めるうえで様々な異分野の専門家との連携を行う場面があると考えている。専門外の分野の研究者との連携には、自分が研究を進めるうえで必要な内容を専門外の研究者に的確に伝え、一方で専門外の研究者の研究結果を理解するというコミュニケーション力が必要となると考えている。そこで申請者は他の研究室との共同ゼミや、理論計算の研究者と連携して研究を進めることを計画しており、今後研究者として必要になるコミュニケーション力を培っていき、異分野の研究者と連携して研究を進められる能力を磨いていく。

(1)目指す研究者像 ※目指す研究者像に向けて身に付けるべき資質も含め記入してください。
 申請者が目指す研究者像は高い専門性と強力な問題解決力をもつことで研究遂行能力の高い研究者である。
申請者は、高校時代にアンモニア合成触媒の開発について勉強したことで、現在の社会を支えている触媒について強い興味をもち、オストワルト法などを学んだことで触媒に関する研究に携わりたいと考えるに至った。そのため、大学では化学反応と触媒について深く勉強するために、理学部化学科に進学した。そして、触媒を研究している応用化学研究室にて学部4年から修士2年まで一貫して二酸化炭素還元反応の触媒の研究について取り組んでいる。
この現在、配属されている研究室で、化学先生が研究について様々な観点からアイデアや意見を出し、最先端の研究を進めていく姿を目の当たりにし、複雑で困難な触媒の研究を遂行していく研究者になりたいと思うようになった。しかしながら、触媒の研究を行ってみると、触媒の合成も様々な知見を踏まえて、多角的な視点でアプローチをしていくことが必要であることに気づいた。具体的には、目標としている触媒が合成できないという課題を抱えていたとき、化学先生が反応条件を大きく変更することで、この問題の打開策を生み出したが、これは化学先生の専門性によるものであったと感じた。こういった場面を目の当たりにしたことで、研究を遂行するためには基礎となる高い専門性が重要であることを痛感した。そこで、申請者はこれまでも勉強を重ね、専門性を高めてきたが、今後も専門性を極めていくことで研究遂行能力の高い研究者となることを目指している。
一方で、触媒の開発や触媒反応は無機化学、有機化学、電気化学、分析化学などの様々な分野に跨っているだけでなく、今後の発展のためには機械学習といった化学と大きく離れた分野の研究者との連携が必要であることを修士課程時の触媒開発の研究にて実感した。そのため、研究を遂行するためには、異分野の専門家と連携できるコミュニケーション力や幅広い知識を身につけることが強力な問題解決力をもつ研究者には必要な資質であると考えている。申請者は目標とする強力な問題解決力をもつ研究者になるために、学会や若手の会、他の研究室との共同ゼミなどへの参加や運営に携わることを予定している。これらの活動を通して、コミュニケーション力と幅広い知見を特別研究員の採用期間中に鍛えることで、申請者が目指す研究者像に近づくことを目指す。
また、申請者は将来的にアカデミックポストを目指しており、高い専門性と強力な問題解決力に加えて、アンモニア合成法のように、その研究成果を社会に広めることで、産業界と連携して、社会問題の解決を行っていくことを目指している。このためには、自身の研究にのみ取り組むだけでなく、コミュニケーション力やプレゼンテーション力といった資質を身に着け、アウトリーチや教育活動にも力を入れる必要があると考えている。そこで、アウトリーチ活動の一つとして、オープンキャンパスでの研究成果の紹介や、研究成果について研究室のホームページでの発信も積極的に取り組んでいく。また、後進の育成として、現在も積極的に取り組んでいる研究室の後輩への指導も積極的に取り組んでいくことで、申請者の指導力の向上も目指す。
申請者は最先端の研究を高い研究遂行能力で促進させるだけでなく、研究成果によって科学技術を発展させ、社会に貢献できる研究者となることを強く志望している。

(2)上記の「目指す研究者像」に向けて、特別研究員の採用期間中に行う研究活動の位置づけ
 高い専門性と問題解決力を身につけるためには、研究計画で記述した研究内容に粘り強く取り組むことが重要であると考えている。今回の研究計画においても、これまで取り組んできた触媒合成と触媒反応を発展させることで、研究者にとっての土台となる専門性を高める機会となる。これに加えて、触媒反応セル開発や、新しい分析方法への挑戦、計算化学の専門家との連携は、幅広い分野への知見と異分野の専門家との連携やコミュニケーション力を向上させる貴重な機会となる。また研究成果を社会に広めるために、査読付きの国際論文誌に論文を投稿して出版し、国際学会での発表も積極的に行うことによって、論理的な思考力やプレゼンテーション力など、自身の強みである研究者としての資質をさらに磨くことを計画している。本研究活動は、筆者の目指す研究者像である高い専門性と異分野との連携力や柔軟な発想力を身に着け強力な問題解決力に必要な資質を身につける3年間として位置づける。

あとがき

あくまで、だれかの参考程度にと思って執筆しているので、科学的に不正確な内容や検討が不十分な内容が含まれております。

参考文献

図1出典:Zhang, W., Hu, Y., Ma, L., Zhu, G., Wang, Y., Xue, X., ... & Jin, Z. (2018). Progress and perspective of electrocatalytic CO2 reduction for renewable carbonaceous fuels and chemicals. Advanced Science, 5(1), 1700275.

図2 出典:Liang, Y., Shang, L., Bian, T., Zhou, C., Zhang, D., Yu, H., ... & Tung, C. H. (2012). Shape-controlled synthesis of polyhedral 50-facet Cu 2 O microcrystals with high-index facets. CrystEngComm, 14(13), 4431-4436.