化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【そのD進、ちょっと待った!】学振DC不採択者へのメッセージがTwitterで話題に!

そのD進、ちょっと待った!

いわゆる学振の結果が出たタイミングで博士課程への進学(D進)について、学振に不採択だった学生へのメッセージが話題になっているので紹介します。

※記事内容は特に学振(DC)不採択者にとって、酷な内容となっている可能性があります。苦手な方や精神的な面で不調な方は読まないことを、おすすめいたします。

 

tweet内容

連投tweetになっているため、以下にまとめて引用します。元のtweetは記事下の参考リンクからご確認ください。

【そのD進、ちょっと待った!】
学振の話題でTLが賑わってますね。通った人は素直におめでとう。ただ、7~8割近くの人間は落ちるのでそういう人たちに向けて私のしくじり人生から伝えたいことがあるので書いてみます。結論から先に言うと、「D進辞めるのを一度ご検討ください」になります。

まず自己紹介から。
私は、博士課程をD4までオーバードクターし中退を選択しました。データはあったものの論文投稿について指導教官と折り合いがつかなくなり、学位取得は難しそうだと判断したためです。学振は三振しています。博士課程は奨学金で通いましたが、返済総額700万近くあります。

今思えば、安易なD進だったと後悔してます。今でも借金返済中です。
このしくじり経験から、同じように悲しい想いする進学者を減らしたいと思っています。
まずご想像の通り、金銭的援助が得られていない状態でD進することはかなりのリスクです。自分の人生にとてつもない負の遺産を残します。

修士の段階で、博士号の確定演出が出てて(指導教員お墨付き)、博士課程は業績稼ぎARTモードに突入できるのなら、D進してもいい気がします(そういう方はいずれどこかの金銭的援助を受けられる)。ただ、ドクターでやる研究方向性もまだ定まっていない状態なら少し考えたほうがいいです。

博士課程に進んだとして、精神良好に研究ができる期間は意外と短いです。私はD2の秋ごろに卒業できるのか不安になる+就活うまくいくかどうかで精神病みました。そのため、D2の夏には博論まとめる方向がついてて、かつ投稿論文の準備を進めているくらいが望ましいです。

あなたの研究はD2の夏までに見通したちますか?またあなたの指導教官は標準年限3年で卒業させる人ですか?過去にオーバードクターさせた経歴はありませんか?せっかく勇気を振り絞ってD進したのにも関わらず、教員との価値観のずれでその勇気と努力が無駄になってしまうかもしれません。

すでにD進を教員と約束してしまった..という方で今更辞めるのは言い出しづらい方も、ここは勇気をもってD進を辞めることを話し合ってもいいと思います。今から就活しても拾ってくれる企業はいくらでもあります。

このあたり、もしどうしても気になるなら一旦進学して、D1の内に就職決めてすぐ中退という手もあります。修士号を確定させてから辞める判断です。企業にとって見れば、すぐ働いてくれる人材は貴重です。退学しても新卒なら働き口はいくらでもあります。

博士号は社会に出てからでも取得できます。今私は論博を目指していますが、社Dに入る選択肢は割と普及してきました。決して課程博士だけが博士号取得の道では無いのです。修士の研究は修士で一旦終わらせて新しい研究を始めるのも良いと思います。

私は一度社会にでてITスキルを身に着けました。働き始めて1年半程度でそれなりに市場から評価されるようになりました。今、この状態ならD進して失敗してもまた企業戻れると思います。スキルを身に付けてからD進のほうが精神的にも金銭的にも楽です。

引用元:twitter、記事下の参考リンク参照

このように、tweet投稿者の悲痛な思いが感じ取れる内容となっています。

さらに、学振の結果だけでなく、博士号取得までの研究の道すじについても言及しています。

博士課程や、その後についても、補足を加えたいと思います。

ここで、そもそもDCの採用募集要項の趣旨を確認すると以下のようになっています。

1.趣旨
 優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与えることは、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者を育成する上で極めて重要なことです。
 このため、独立行政法人日本学術振興会(以下「本会」という。)は、我が国の大学院博士課程在学者で、優れた研究能力を有し、当該大学で研究に専念することを希望する者を「特別研究員-DC」に採用し、研究奨励金を支給します。

引用元:令和5年度(2023年度)採用分募集要項(DC2,DC1)

DC不採択者のまわりでは励ましの言葉はあっても、厳しいことをいう人は、ほとんどいないのではないかと察します。しかし、敢えて多少穿った見方をすると、学振に不採択だったということは、研究者として優れていない研究能力が優れていないと現役の研究者から評価をされたということになります。

博士課程に進む学生の多くは将来、研究者としてのキャリアを歩んでいきたい方がほとんどではないでしょうか?一方で、不採択者は同年代と比較して、研究者としては能力が不十分だというわけです。

不採択の審査結果を過信しない

さらに、不採択だったけど、不採択者の上位○○%だったから、安心という考えも危険な場合があります。

例えば、評価者が、評価について、ある程度正規分布となるように5段階の評点をつけたため、実際には評価者の評価として、評点が低い申請書が、平均程度に評価される可能性は充分にあります。

不採択の評価に関しては、温情や手心を加えられているくらいに思っていたほうが、妥当かもしれません。

D進後の将来について

博士号取得後の研究者としてのキャリアについて、今の時点で考えてみましょう。

研究者は大きく分けると、大学や公的研究機関などのアカデミアの研究者民間企業の研究者に分けることができます。ただ、どちらを見ても、当然ながら学振の不採択という状況は、好ましい状況ではないですので、簡単に考えてみましょう。

アカデミアの研究者

アカデミアの研究者については、状況が分野などによって大きく異なることがあります。大型の研究費を獲得したけど、なかなかポスドクが集まらないという話から、公募の倍率が数十倍という話など、様々です。

しかし幸いなことに、ほとんどの学生は周りにアカデミアの研究者がいるはずです。

・最近のアカデミアの研究者のポストの募集状況などについて尋ねたことはあるでしょうか?

・自分の分野のアカデミアのポストについてJREC-INなどで調べたことはありますか?

もしも、現在のアカデミアのポストの募集状況を知らない場合、研究能力が劣っている学生が、アカデミアの研究者になりたいと夢を語るのは、客観的に見て危険な状況ではないでしょうか。

学振は審査区分ごとの申請者と採択者、つまり将来ポストを競争するかもしれない相手の人数を知る1つの参考情報になります。また、申請者の研究能力の周りと比較した立ち位置をある程度知ることができます。将来、順調にアカデミアの研究者のポストにつけるかどうかを考える材料にはなります。

また、1つ注意点ですが「私は学振に落ちたけど、研究者として立派にやっている」という方も多くいらっしゃいます。当然、学振は申請時点での申請書の評価であり、その後の経験や努力次第で、不採択者の研究能力が採択者の研究能力を上回ることがあるのも当たり前です。ただし、先輩研究者の歩んできたキャリアとは、予算などの影響もあり、ポストの募集状況が大きく異なっている可能性には注意が必要です。先輩研究者が歩んだキャリアと同じキャリアは歩めなくなっている可能性には、充分に検討が必要です。

民間企業の研究者

まず、民間企業の研究者を目指すときに学振の結果は全く関係ないかというと、そんなことはありません。

民間企業でも、博士の研究職であれば、エントリーシート(ES)などの段階で学振の採択の有無について聞かれる可能性は充分にあります。もし先輩などで、就活を経験した方がいれば、尋ねてみてはいかがでしょうか?

学振が不採択という事実が、採用選考に有利に働くとは考えにくいでしょう。むしろ、学振の不採択によって、就活に不利になっていると考えるくらいでないと危険だと思います。

さらに、学振には、研究遂行力の自己分析などの項目がありますが、こういった内容は、エントリーシート(ES)や採用面接でも聞かれる可能性がある項目です。そういった項目で、周りの研究志望者に差をつけられていることを、自覚しておく必要はあるでしょう。

また一般論として、企業の研究者は狭き門です。多くの募集で、研究職の採用人数はその他の職種より少ないケースがあります。さらに、博士号取得は修士号取得者よりも、専門の研究内容(博士論文のテーマ)が、企業の研究分野とマッチしているかを重視される傾向があります。これは博士号取得者は即戦力として採用したいという思惑が強い企業では、特によく聞くケースです。

そのうえ、分野や、そのタイミングの景気や売り上げなどの状況によっては、研究職に博士号取得者より、修士号取得者を採用するケースもあります。これは、特に博士号取得者に対して、修士号取得者よりも給与を高く設定している場合に、一時的に起こりうる現象の1つです。つまり、新卒の採用人数は減らしたくないが、人件費を少しでも抑えたい場合、例年は博士号取得者の採用枠に修士号取得者を採用するなどのケースが想定できます。

1つの誰でも調べられるデータとして科学技術・学術政策研究所の科学技術指標2022などの情報では、民間企業の研究者として博士号取得者の採用を抑えている分野も存在します。もしも、博士号を取得すれば、研究職になれると思い込んでいる場合は、どのくらい研究職になれる可能性があるのか、一度考慮してみるべきでしょう。

また、企業の説明会などが開催されている場合や、知り合いで企業に就職している方がいる場合は、数年の博士号取得者の採用割合の推移について確認しておくべきです。

そして、こうした状況も踏まえたうえで、学振の結果について、ライバルと比較して、希望する民間の研究職につけるかどうかは想定をしておいたほうがいいでしょう。

民間企業の研究者以外の職種も候補に入れている人

博士号取得後の進路として、研究者以外の進路を選択している方もいらっしゃいます。中には全く分野の異なる企業に就職する方もいます。そういった進路については、そもそも博士号が必要とされているかどうかという点から考えておく必要があるでしょう。

例えば、企業の給与設定によって、博士号取得者は給与が高く設定されているが、博士号は必要とされていない場合、企業がわざわざ高い人件費を払い博士号を雇う可能性があるのかを考慮しておくべきです。

博士号が就活において足枷になる可能性が高いケースもあるでしょう。

不採択者はここからどうするべきか

ここからは、不採択者が、いまから何をするべきかについて考えを2つ記したいと思います。

  1. 今のまま、予定どおり博士課程を歩むか検討する
  2. ここから改善する方法を考える

今のまま、予定どおり博士課程を歩むか検討する

特にまだ博士課程に入学していない方は、tweetのように他の手段や進路を検討するべきだと思います。

例えば、

  • 一度就活して、民間企業に入社して力をつけ、社会人博士を目指す
  • 民間企業に就職したうえで、力をつけなおし再び博士課程を目指す
  • 環境を変えるために、別の大学や別の研究室を検討する
  • 力をつけるために、海外の大学院への留学を検討してみる

学振に不採択であったことをきっかけにして、進路について考えなおしてみると、このまま博士課程を歩むより、将来のキャリアへのチャンスを掴むことができるのではないでしょうか?

民間企業については、一度民間企業に就職していることで、企業での社会人経験があると評価されて、博士号取得後の就活が有利に働く業種や職種もあります。

また、日本の多くの企業では、新卒採用者に対して、業界や職種についての基礎的な研修やOJTなどを行っています。一度企業に就職することで、研究のアイデアや効率化の方法に繋がる内容を勉強する機会になるかもしれません。

また、例えば、学振の申請書で、指導教官から充分なサポートを得られず不採択であった場合、同じことが、投稿論文の添削や博士論文で起こらないのかどうかも検討しましょう。

規定は様々ですが、一般的に博士号取得には筆頭著者の査読付きの論文が2~3報は必要となります。この規定により、標準の3年間で博士号を取得できず、オーバードクターする方や、単位取得満期退学で博士課程を退学し、就職後に論文を準備して博士号の審査を受ける方もいます。こういったケースでは、学生自身の問題よりも、研究室などの環境の問題が大きいこともあります。予定どおりの進路で問題がないかはチェックをしておきましょう。

ここから改善する方法を考える

多くの方がご存じのPDCAサイクルでいうと、学振の結果はPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のうちのCheck(評価)の段階です。

そして、不採択者は間違いなく評価として不利な状況にあります。ライバルと比較して、遅れを取り戻す手段を真剣に検討しましょう。

来年も学振に申請する可能性のある人は、まずは来年は採択されるために、考えられる改善手段を真剣に探しましょう。

例えば、申請書の内容より、1st著者の論文が足りないと分析するのであれば、論文の数を増やす戦略を立てるべきです。

もし、研究者を目指すのであれば、研究計画の提案は必須のスキルの1つとなります。申請書の研究計画が劣っていたと分析をするのであれば、そのために必要なスキルや知識を身に着けるべきです。改めて研究分野を体系的に整理し、どういった研究内容が重要であるかを考えてもいいでしょう。

申請書の推敲が不足していたのならば、推敲を繰り返すために、より早い期間で草稿を完成させる方法やスケジュールを調整したり、申請書のレビューを依頼できる方を早めに探しておくなどの手段も検討できます。

また、アカデミア、企業の研究者のどちらの進路を歩むにせよ、周りより研究能力という点で不利な状況を打破するポイントも考えるべきでしょう。

当然ながら、不採択にとって残念なことに、採択者は金銭的な支援を受けられる状態です。その金銭的支援によって、勉強するための書籍であったり、英語力を伸ばす英会話レッスンなど、さらに能力の向上をしてくることを想定するべきです。

もし不採択が生活費などのために、研究と関係の強くないバイトなどをしている場合、その時間で、さらに研究者としての能力に差をつけられることになります。ここから差を縮める方法を模索しなければ、将来には大きな差となってします。

学振の採択、不採択は1つのゴールですが、人生や研究者としてのキャリアという点では、あくまで通過点です。この時点で改めて必要なことは、この先、ライバルに勝てるどんな強みを、どうやって身につけるかを考え抜き、戦略を立てて、実行していくことではないでしょうか?

最後に

学振に不採択という残念な結果は変わりません。しかしながら、将来振り返ったときに、学振の不採択が自分を成長させるきっかけになったと思えるかどうかは、これからの不採択自身の選択と努力次第です。

そして、最後に今のまま博士課程を進むのも、別の進路を選ぶのも決めるのは申請者です。

ぜひ将来の申請者自身にポジティブな影響を与えるきっかけになることを切に願っています。

参考リンク

 

以下はtweetした方のnoteの記事ですが、紹介いたします。

note.com