化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

光触媒的窒素還元によるアンモニア合成で正しく評価するためのポイント

光触媒による窒素からアンモニアの合成の研究

光触媒による窒素の還元によってアンモニアを合成する方法の実験に関する文献の紹介です。光触媒や電気触媒によるアンモニア合成反応は、まだ収率が低いため難しい点があるのですが、こういった研究で注意するポイントなどが示唆されています。他の研究でも、特にこの実験のような収率が低い実験では、参考になる部分が多いと思います。

光触媒を用いた窒素のアンモニアへの変換反応は、ハーバー・ボッシュ法に代わるグリーンなアンモニアの合成方法として注目を浴びています。しかしながら、光触媒による窒素の還元反応は、実用化には大きな壁が存在します。その課題の1つが、まだ光触媒の活性が低いことです。また光触媒の開発は、不純物などによる誤った評価結果や、再現性のないデータに注意しないといけません。
この文献は、再現性がなくなる原因を説明し、正しく評価できる方法について提案しています。また、光触媒による窒素からアンモニアの還元反応の残されている課題についても、説明しています。

窒素からアンモニアへの還元反応の研究背景

現在、窒素を含む合成肥料の恩恵を、世界人口の半分が受けており、世界の食料生産のうえでも非常に重要なことが知られている。その中でも、アンモニアは窒素を多く含む合成肥料の主成分であり、年間アンモニア生産量の88%が肥料生産に使用されている
現在のアンモニアの工業的製法は、1900年代初頭にフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュが開発した、高温で二窒素と二水素をアンモニアに変換するハーバーボッシュ法である。この方法は熱触媒方法である。ハーバーボッシュ法によって、農作物の収穫量が大きく急増し、これによって20世紀の人口急増を支えることができ、現代でも主要な技術となっている。

一方で、ハーバーボッシュ法は非常にエネルギー消費が大きい合成方法でもある。ハーバーボッシュ法は世界のエネルギー消費量の2%を占めており、年間500 Mt以上のCO2を排出している。これは、世界のCO2の排出量の約1.6%である。また、ハーバーボッシュ法は純水素の原料と、高い効率を確保するための高温・高圧の運転条件が必要である。そのため、先進国の大規模なプラントで集中的に製造が行われているが、運搬のコストや環境負荷などから、飢餓で苦しんいる遠隔地や貧困地域まで、充分に流通しないという社会的な課題もある。そのため、持続可能で、生産地が分散可能な、次世代のアンモニア合成方法の開発が積極的に進められている。

アンモニア合成に、高温を用いない方法として、窒素をアンモニアへ光触媒によって還元する以下化学式の方法が研究されている。

{{{{{\rm{N}}}}}}_{2\left(g\right)}+3{{{{{\rm{H}}}}}_{2}O}_{\left(l\right)}\begin{array}{c}{{{{{\rm{hv}}}}}}\\ \to \\ 298\;{{{{{\rm{K}}}}}}\end{array}2{{{{{\rm{NH}}}}}}_{3\left(g\right)}+1.5{{{{{\rm{O}}}}}}_{2\left(g\right)}

この方法は、光触媒が光(紫外光・UV/可視光・vis/赤外光・IR)を吸収し、電子と正孔を発生させる。この光触媒で生成された電荷キャリアが、空気中の窒素を活性化する。そして、活性化された窒素を水素源である水でプロトン化することで、アンモニアを生成することができる。
この方法は、再生可能な原料である水と空気を用いて、持続可能なエネルギーである光でアンモニアを生成することができる。当然小規模でも生産できるようになる手法として期待されている。

窒素還元反応(NRR)の光還元はメリットがある一方で、アンモニアの収率が低いという大きな欠点がありました。しかし、ここ最近で高度な測定技術や新たな触媒の合成方法が開発されてきたため、研究が大きく進歩している。しかしながら、高い活性を示すと報告された触媒が、後に窒素還元反応(NRR)の活性がないことが証明されたものも報告されています。これは、測定方法や生成物の定量方法が、まだ発展途上であったことも影響しています。窒素還元反応(NRR)のもう一つの手法である電気化学的な窒素還元反応(NRR)も、厳密な測定方法が重要視され、この分野の標準的な実験手法が開発されつつあります。

今回紹介している文献は、電気化学的な窒素還元反応(NRR)の測定方法の開発を参考にし、光触媒的窒素還元反応(NRR)の実験方法について述べているものである。

光触媒窒素還元反応(NRR)システムにおける汚染源

光触媒窒素還元反応(NRR)は、通常、固体粉末光触媒を水溶液(水またはメタノールやエタノールなどの正孔捕捉剤を添加した水)に直接分散させ、窒素ガスを連続的に流しながら行う不均一懸濁方式で行われる(Figure1)。光触媒NRRでは生成するアンモニア量が少ないため(通常10 ppm以下、高活性な場合でも1時間の反応で80 ppm程度)であり、光触媒の活性測定は窒素の混入に大きく影響されやすいと考えられる。
したがって、窒素系汚染物質の除去には細心の注意を払う必要がある。窒素系汚染物質は、不定形のアンモニアからNO2--およびNO3-などのNOx種までさまざまな種類があり、これらは、どこにでも存在している。

次のFigure1は、ガスの汚染などをトラップする方法なども含めた実験系である。

Figure1(参考文献より引用)
実線は非同位体の経路、破線は同位体の経路を表している。第1流量計はガス流量を制御するためのもので、第2流量計はガス漏れをチェックするためのものである。

供給ガスからの汚染

供給ガスは (14N2, 15N2, Ar) は、この分野で有名な汚染源である。これらには、不純物のアンモニアと NOx種を多量に含むことがある。供給ガスを浄化するために、脱イオン水や酸性水溶液 (例: 0.05 M 硫酸) を使用して、ガス流中の不純物をトラップ(補足)する方法が採用されている。このようなガス処理は、アンモニア除去の点では有効である。しかしその一方で、NOxの除去はできない。硝酸塩や亜硝酸塩のような NOx種は、熱力学的に一酸化二窒素よりも還元されやすいため、不純物NOx 種を除去する方法も重要となる。NOx種の脱イオン水への溶解度は低く、酸性溶液中のNOx種をトラップする能力に関する体系的な研究は、ほとんど例がない。そのため、ガス流中の窒素系汚染物質を除去するために還元銅触媒(非水系用)、または KMnO4 アルカリ溶液(水系用) の使用が推奨されている。

実験系の構成

材料によっては実験中に劣化し、過剰な窒素汚染物質を実験系に持ち込むことが報告されている。そのため、適切な実験装置と材料を選択することが厳密な窒素還元反応(NRR)を実施するために不可欠である。電気化学的窒素還元反応(NRR)では、実験装置の劣化はよく知られた汚染源である。しかし、光触媒的窒素還元反応(NRR)の分野ではこの点に関する議論も、まだ少ない。
よって光触媒的窒素還元反応(NRR)の実験系の道具の材料(例えば、リアクター、チューブ、Oリング)を選択する際には、窒素を含まない材料に置き換えることが必要となる。例えば、一般的に使用されているニトリルゴム製のOリングを、フッ素ゴム製のOリングに変更すると、窒素汚染物質の回避になると考えられる。しかし光触媒的窒素還元反応(NRR)に用いる道具の材料汚染に関する体系的な研究が今後も必要となる。

さらに、窒素系汚染物質は、ほとんどの器具の表面に蓄積される。そのため、装置の厳密な洗浄が必要となる。ピペット、プラスチックチューブ、ガラス器具など、すべての器具を使用前と使用後に新しい純水で洗浄することで、不定形のアンモニアを効率的に取り除くことができる。この洗浄作業は、重要となる。
例えば、紫外可視測定に用いるキュベット(石英などのセル)には検出可能な量のアンモニアが含まれており、比色測定法では生成アンモニアを過大評価することがある。また、NOx汚染物質の除去に関しては、アルカリ溶液による洗浄が有効であることが報告されている。このように液体試料を扱うすべての器具は、実験前に入念な洗浄を行う必要がある。これらでも、除去しきれない可能性もあるが、同じ方法や手順で洗浄することで、再現性の高い活性の測定が可能となる。

さらに、実験に使用する水の種類にも十分な注意が必要である。水道水には無視できない量の不定形なアンモニアが含まれている。そのため、窒素還元反応(NRR)実験に使用するべきではない。新鮮な再蒸留水や、新鮮な超純水の使用が推奨される。また、水のアンモニア汚染は環境によって変化するため、各研究では使用した水のアンモニア濃度を測定し、報告書に添付することを推奨している。

光触媒からの汚染

実験系による窒素汚染に加えて、触媒自体も汚染源となる。触媒の合成方法では、アンモニアやアミン誘導体が前駆体としてよく用いられる。そのため、自分で合成した触媒も、市販されている触媒も窒素汚染を考慮する必要がある。この粉末光触媒を脱イオン水に分散させる際には、特に注意しなければ、これらの表面残留化合物が溶液中に自然放出され、さらに生成アンモニアの測定に偏りが生じる可能性がある。

特に、窒素含有材料(例えば、グラファイト状窒化炭素(カーボンナイトライド))の場合、触媒の汚染問題はより深刻な可能性がある。何の処理も施されていない、調製されたままの窒素含有触媒は、大量の窒素汚染物質を含んでいる。

グラファイト状窒化炭素は、光触媒的窒素還元反応(NRR)に対して顕著な活性を示す光触媒の1つであり、最も一般的な光触媒である。しかし、合成過程で窒素系前駆体を使用し、多量の窒素と表面の窒素空孔を含むため、グラファイト状窒化炭素による光触媒によるアンモニアの測定は、触媒由来の汚染が深刻となる。

例えば、電気化学的窒素還元反応(NRR)では、実験中に金属窒化物が分解することが確認されている。よって、本物のアンモニア生成量を確実に測定するためには、厳格な実験条件を採用する必要がある。現在のほとんどの研究は、水やエタノールを用いて、調製したままの触媒に残留する有機物や無機物を洗い流すだけだが、これでは不十分であるため、電気化学的窒素還元反応(NRR)では、さらに触媒を精製する手法が検討されている。同様に、光触媒を効果的に高純度化する方法についても、今後さらなる検討が必要である。

アンモニア生成の相対的は評価

実験操作の複雑さや、実験系や実験道具の材料などを考えると、窒素汚染源の完全な除去は現実的でない場合も多い。そこで、装置や触媒の洗浄を入念に行い、装置内に残留するアンモニアとNO2--およびNO3-などのNOxの量を定量化し、対照実験の過程でそれらの濃度変化を報告することが推奨されている。さらに、光触媒の活性をアンモニア濃度対時間で報告し、正規化されていないオリジナルデータを添付することを研究者に推奨している。(Figure 2)これによって、触媒に残存する汚染物質が明確になり、最終的なアンモニア生成物の起源を明らかにすることができる。

Figure 2 (参考文献より引用)
アンモニア濃度対時間のデータの規格化前と規格化後の比較。

アンモニア測定

アンモニア濃度を正確に検出することは、非常に重要であり、特に低濃度領域では、0.2ppm以下のアンモニアの定量測定は誤差が生じやすいとされている。一般的に、非同位体アンモニアは比色法(ネスラー試薬法、インドフェノールブルー法)やイオンクロマトグラフィーで測定され、これらの測定法は中性水溶液での検出限界がほぼ同じ(約0.01 ppm)である。しかし、実験条件(溶液の組成、pHなど)が異なれば、正負の誤差の大きさが異なることになる。

自然界のニトロゲナーゼにヒントを得て、多くの先進的な光触媒は活性を高めるために遷移金属イオン(例えば、鉄やモリブデン)を導入している。しかし、これらの金属イオンは、光安定性が十分でないため、溶液中に溶出する可能性がある。このような溶液中の微量の金属イオンは測定に大きな誤差をもたらすため、光触媒的窒素還元反応(NRR)の前後の溶液のpHやイオン組成の変化には特に注意が必要である。

ICP-OES による溶液組成の測定は、微量金属の影響を排除する一つの方法である。また、光触媒では、光生成した正孔を除去し、電子-正孔分離の効率を高め、光触媒活性をさらに高めるために、正孔捕捉剤としてのアルコール類(例えば、メタノールやエタノール)がしばしば使用される。光触媒反応の実験中、これらのアルコールは様々なカルボニル含有化合物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン)に酸化され、特にアンモニアを検出するために比色測定(例えば、ネスラー試薬法)を用いる場合、アンモニアの検出に支障をきたす。正孔捕捉剤は光触媒活性を向上させることができるが、活性向上のほとんどは干渉効果による測定バイアスに由来するものでしかない可能性があることが研究により示されている。正確かつ合理的なアンモニア測定を行うためには、干渉効果を避けるために、実験条件に応じて適切な検出方法(例えば、正孔捕捉剤を使用した試料にはイオンクロマトグラフィーを使用)を選択し、検量線作成時には実験と同じ組成の溶液を使用する必要があります。さらに、実験結果の確実性を検証するために、異なる定量方法を用いることが推奨されている。

また、低濃度(0.05 ppm)の試料を測定するために、大きな濃度範囲(例えば、0~10 ppm)で作られた検量線を使用すると、測定誤差が生じることも留意すべき点である。このため、アンモニアを正確に検出するためには、適切な濃度間隔で作成された検量線が必要となる。濃度の上限は、試料濃度より1桁以上高くならないようにすることが推奨されている。

同位体アンモニア測定に関しては、核磁気共鳴法(NMR)を用いて同位体アンモニア( 15NH3)を検出する方法が、光触媒の活性測定において最も信頼性の高い方法とされている。供給ガスを窒素( 14N2)から同位体標識窒素( 15N2)に置き換えることで、光触媒による窒素還元反応(NRR)の際に同位体アンモニアを合成することができる。同位体アンモニアと非同位体アンモニアは、1H NMR 測定で異なる特性ピーク(ダブレットピーク、トリプレットピーク)を示すため、生成アンモニアは不純物アンモニアと識別することができる。しかし、市販の同位体標識窒素には、15NH315NO2-15NO3-などの不純物(コンタミネーション)が多量に含まれている。そのため、同位体標識した対照実験の報告だけでは、触媒の活性を示すのに不十分である。そのため、今後は、注意深く精製した 15N2を用いた定量的な同位体標識対照実験方法の研究が必要となる。すでに、最近、市販の同位体標識窒素を効率的に精製し、適切な定量的同位体標識対照実験を行う方法が提案されている。

再現性

実験の再現性を確保することは、触媒分野の研究において、基本的な要件である。再現性のないアンモニア合成の結果を報告しないためには、厳密で文書化された洗浄手順、測定方法、対照実験(光がない暗所環境、Ar、定量 NMR)が必要である。暗所下の対象実験(窒素ガスによる光触媒実験、光なし) を行うことで、系内に残存するアンモニア不純物を示すことができる。 アルゴンの対照実験(アルゴンガスによる光触媒実験、光あり)で測定したアンモニアは装置内のNOx不純物を示すことができる。実験結果を対照実験と比較することで、不純物アンモニアの影響を考慮でき、さらに本物の光触媒の活性を確認することができる。
これまで、窒素還元反応(NRR)のための厳密な実験手法を開発するための研究が行われてきた。これらの実験手法に関する研究の主な結論は、

(i)報告された結果は複数回の試験(3回以上)に由来し、オリジナルデータを添付すること
(ii)定量的同位体標識対照実験を行うこと
(iii)定量的同位体標識対照実験の結果が実験結果と一致し、本物の光触媒活性を確認できるとともに再現性を保証できること
である。

また、以上の議論とは別に、光触媒アンモニア合成の分野では、実験の装置の条件に再現性がないことが指摘されている。そこで、性能に影響を与える可能性のあるパラメー ターをすべてリストアップしたものがFigure 3となる。一般的に、報告されている光触媒は、温度、ガス流量、正孔捕捉剤の濃度、光源などがまちまちであるため、他人の研究を再現することが難しく、異なる光触媒の性能を客観的に評価することが、非常に困難であり、ほとんど不可能である。

例えば、光触媒の実験系では、照明の照射によって溶液の温度が変化する。特に長時間の試験では、温度制御装置(水循環装置) がない場合、溶液の温度は 40 ℃以上になりやすく、温度が高いほど窒素の活性化と光触媒表面からの還元アンモニアの溶液への脱 着がともに促進されるため、溶液中のアンモニア濃度が高くなりやすくなる。しかし、温度制御系の重要性はあまり注目されていない。したがって、光触媒実験の実験構成に温度制御系を適用し、実験中の温度変化を報告することが不可欠となる。また、ガス流量が標準化されておらず、文献上では20~300sccmとばらつきがある。多くの先進的な光触媒は、酸素空孔を利用して窒素の活性化を助け、電子と正孔の再結合を抑制することで性能を向上させている。しかし、ガス流の流速が変わると、表面の酸素空孔に影響を与え、光触媒の収率や安定性が異なる可能性がある。

Figure 3 (参考文献より引用)
ここでは、光触媒アンモニア収率に影響を与える可能性のあるパラメータについて列挙されている。これらのパラメータは、光触媒窒素還元反応(NRR)の各研究によって異なっている。

光触媒の性能は、使用条件が統一されていないため、標準化された厳密な評価基準がこ必要とされている。光触媒の活性の場合は、アンモニア収率(μmol gcat-1 h-1)は多くの文献に記載されている。しかし、複合触媒材料の研究においては、触媒の重量のみを考慮し、他の部分(助触媒、光増感剤、担体など)を無視した場合、ありえないほどのアンモニア収率が報告されている。したがって、光触媒の性能を評価する際には、光触媒の性能の過大評価(過小評価)を避けるために、詳細なパラメータ(触媒の総質量、有効表面積など)を報告することを強く推奨する。
さらに、STA(Solar to Ammonia)効率は、光触媒アンモニア合成技術の実用化にとって最も重要な指標の一つでありながら、これまで光触媒の性能を報告する際に見落とされてきた。STA 効率から、触媒材料の光利用効率と触媒効率を同時に評価することができる。ハーバーボッシュプロセスで製造される従来の肥料に代わる光エネルギー利用の肥料の実用化には、STA効率が0.1%以上であることが必要である。したがって、今後の研究においてSTA効率を報告することも望まれる。

まとめ

以上の議論をまとめると、厳密な測定方法の開発に加えて、実験系や、パラメーター、評価基準などの標準的な試験方法も、この分野の発展には欠かせないことである。これらのパラメーターが性能に及ぼす影響については、まだ体系的な議論がされていないため、光触媒的なアンモニア製造における実験の再現性と、過剰評価や過小評価などを避けるために、研究者には実験パラメーターをできるだけ詳細に報告することが求められる。また、様々なパラメーターが光触媒的窒素還元反応(NRR)に与える影響を調べることも重要であり、これによって反応機構に対するさらなる洞察を得ることができる。

展望

光触媒を用いたアンモニア製造は、脱炭素・分散型アンモニアの製造方法として期待されている。この研究分野は現在黎明期であるが、それでも非常に注目されている。光触媒窒素還元反応(NRR)の収率を高めるために、さまざまな新規光触媒や技術が開発・応用されている。例えば、窒素の吸着と活性化を向上させるために、金属のドーピングや表面欠陥が研究された。また、電子-正孔分離効率を高めるために、モルフォロジー(形状)制御やヘテロ接合の構築も有効な手段で考えられる。
触媒の開発に加えて、反応系の設計の進歩も重要である。例えば、ガス-膜-溶液反応界面を用いることで、溶液中に溶存する窒素ガスによる物質移動の制限を克服している。また、光電気化学反応器を用いることで、電子-正孔分離効率を向上させることが可能である。最近、光熱アシスト型光触媒窒素還元反応(NRR)に進展が見られてる。高温環境下(>270 °C)で電子-正孔の再結合問題を効果的に抑制し、さらにアンモニアの収率を向上させ、前例のないSTA効率(0.24%)を達成できることが明らかになった。しかし、この技術の実用化には、反応機構の解明、反応性能に及ぼす溶液組成や添加物の影響の検討、表面欠陥と材料活性の関係の解明など、大きな課題が残っている

現段階では、材料のスクリーニングや最適化よりも、不純物アンモニアやアンモニア測定時の干渉を避け、真のアンモニア合成量を正確に測定する方法の開発が重要である。
イオンクロマトグラフィは、現在のアンモニア測定法の中で最も信頼性が高く、金属イオンやホールスキャベンジャーによる測定妨害をほとんど回避できると思われるが、イオンクロマトグラフィで使用する陽イオン交換カラムの多くは、アルコールホールスキャベンジャーに適合していない。一方、他の比色法は測定中の干渉効果を避けることが困難である。定量的同位体標識 NMR 法は、不純物アンモニアを効果的に 回避し、真正アンモニアを測定できが、高価であり、装置へのアクセス性、市販の同位体標識窒素に現れるアンモニア汚染のことを考えると、光触媒窒素還元反応(NRR)への最適な手法とは言い難い。したがって、低濃度のアンモニアをより簡便かつ確実に測定する方法が必要である。
一方、現在のアンモニア測定法はすべて、サンプリングと測定のために閉鎖系を壊す必要がある。このようなプロセスは、不純物の混入したアンモニアでサンプルが汚染されるリスクを高めるだけでなく、1回の実験で取得できるデータ数も限定される。最終的には、インラインでのインオペランドアンモニア測定法が必要であり、これはこれまでの問題点を克服するだけでなく、光触媒窒素還元反応(NRR)のメカニズムの研究にも貢献すると期待されている。

材料開発の面では、再現性のないデータではなく、より厳密な結果が報告されることが期待されている。そのために、現段階で判明している再現性のないデータの原因や最適な解決策や、考えられる汚染源と適切な洗浄方法、測定誤差の理由、真の光触媒活性を実証するための適切な対照実験の使用などが紹介された。現在の光触媒窒素還元反応(NRR)は収率が低いため、再現性を確保するには、すべての実験(固液光触媒窒素還元反応(NRR)、光電気化学反応、光熱アシスト光触媒窒素還元反応(NRR)など)が、この基準に沿って行われることが推奨された。
既知の汚染源に加え、触媒や材料の光安定性の研究も必要となる。光触媒実験の多くは紫外線またはフルスペクトル光源下で行われるため、照明下で触媒や材料が劣化し、アンモニア汚染やアンモニア測定妨害が発生する可能性がある。また、実験実習の観点からは、各種実験パラメーターが反応に与える影響を系統的に把握し、標準的な試験方法と厳密な評価基準を確立することが、この分野で現在急務となっている。これらの大きな課題を克服することができれば、光触媒アンモニア合成の開発がさらに進み、持続可能な食料生産の目標に向かって、さらに前進できると考えられている。

参考文献

Huang, PW., Hatzell, M.C. Prospects and good experimental practices for photocatalytic ammonia synthesis. Nat Commun 13, 7908 (2022). https://doi.org/10.1038/s41467-022-35489-7

https://doi.org/10.1038/s41467-022-35489-7

本文献にはCC-BY 4.0 のライセンスが付与されています。