化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【分析化学】ケルダール法:タンパク質の定量方法の解説

ケルダール分析とは

ケルダール分析 (ケルダール法)は、ドイツの化学者ケルダールが開発した、タンパク質分析の方法の1つである。

ケルダール分析は、タンパク質などの窒素含有化合物に含まれる窒素を正確に分析する方法である。タンパク質中の窒素含有率からタンパク質の定量を行う。

タンパク質の定量には、ケルダール分析以外の手法もあるが、ケルダール分析はさまざまな分析対象に対する標準法となり、他の多くの分析法もケルダール分析に基づいていることが多い。

ケルダール分析では、硫酸で試料を分解し、試料中の窒素を硫酸水素アンモニウムに変換する。化学式で表すと、以下のようになる。

 \displaystyle \rm C_a \, H_b N_c \rightarrow a CO_2 + \frac{1}{2} b \, H_2 O + c \, NH_4 HSO_4

溶液を冷却した後、濃アルカリを加えて溶液を塩基性にすることで、揮発性のアンモニアを追い出し、充分な濃度の酸の標準液中に捕集する。

捕集した溶液中の過剰な酸を塩基の標準液で逆滴定する。

これを式に表すと次のようになる。

 \rm c\, NH_4 HSO_4 \rightarrow c\, NH_3 + c\, SO_4^{2-}

 \rm c\,NH_3 + (c+d)\,HCl \rightarrow c\, NH_4Cl + d\, HCl

 \rm \displaystyle d\, HCl + d \,NaOH \rightarrow \frac{1}{2} d\, H_2O + d\, NaCl

また、タンパク質のmolを求める計算式は以下のようになる。

 \rm mmol \, N (c) = 反応したHClの物質量, mmol

 \rm mmol \, N (c) =捕集に使用したHCl, mmol \times (c+d) -滴下したNaOH, mmol \times (d)

  \rm C_a \, H_b N_c \, mmol = mmol \, N \times \frac{1}{c}

試料の分析は、硫酸カリウムを加えて、沸点を上昇させ、セレンまたは銅の塩を触媒として加えると、迅速となる。

ケルダール法では、アンモニアを捕集する酸と、逆滴定に用いる塩基の2つの標準液を用いる。

重量分析係数

窒素含有化合物は、滴定して得られた窒素の重量に重量分析係数をかけることで求めることができる。

タンパク質に含まれる窒素の割合はほとんど同じであり窒素含有割合は16%である。そのため、血清タンパク質(グロブリンやアルブミン)や食品に含まれるタンパク質の窒素重量をタンパク質重量に変換するための重量分析係数は6.25である。

ただし、試料の多くがγ-グロブリンで構成されている場合は係数が6.24、アルブミンから構成されるときは係数6.27を用いる。

改良ケルダール法(ホウ酸法・直接滴定法)

ケルダール法は、通常2つの標準液を用いる。標準液はアンモニアを捕集する酸と、逆滴定に用いる塩基である。

しかしながら、酸の標準溶液のみを使用し、直接滴定を行う改良ケルダール法もある。改良ケルダール法では、アンモニアの捕集にホウ酸溶液を用いる。この場合、等量のホウ酸アンモニウムが発生する。化学式となると次のようになる。

 \rm NH_3 + H_3BO_3 \rightleftharpoons NH_4 ^+ + H_2BO_3 ^-

ホウ酸自体は、滴定に用いる酸として弱いが、アンモニアとの反応で等量生成するホウ酸塩は、強いブレンステッド塩基で、メチルレッドを指示薬として用いると、酸の標準液で滴定できる。

ホウ酸は非常に弱い酸であるため、滴定を妨害せず、正確な濃度のホウ酸溶液を調製する必要がなくなる。また、ホウ酸は酸として弱いため解離せず、導電性が低い。そのため、滴定ではなく、生成したホウ酸アンモニウムの電気伝導率の測定によっても、吸収されたアンモニアの分析も行われている。

直接滴定を行うホウ酸法は、1つの溶液を標定するため、単純で正確となる。しかしながら、終点が明瞭ではないという欠点も存在する。

そのため、血液試料を用いる場合5 mL程度を用いるマクロスケールのケルダール分析ではどの方法でもよいが、試料が0.1 mL程度のマイクロスケールのマイクロケルダール分析法では、逆滴定を用いる間接法が採用されることが多い。

窒素化合物への還元処理

ケルダール分析は、アンモニアのような、窒素の原子価が-3である物質であれば、追加の処理は必要ない。他にも、アミンやアミド化合物も同様に扱うことができる。

一方で、ニトロ化合物やアゾ化合物など酸化数の大きい窒素をアンモニアに完全に変換する場合には、試料分解前に、還元処理を行う必要がある。

還元剤としては、鉄(II)やチオ硫酸が用いられる。この場合でも、硝酸や亜硝酸がアンモニアに変換されることはない。