天然ガスの主成分であるメタンを他の化学物質に変換することに関する論文です。
Critical impacts of interfacial water on C–H activation in photocatalytic methane conversion
Commun Chem 6, 8 (2023)
メタンは強いC-H結合(結合解離エネルギー:439 kJ/mol)を持ち、高い活性化障壁を持っており、温和な条件下で変換することが困難です。
現在、メタンは主に高温高圧下(700~1100℃、20~40気圧)で触媒的水蒸気改質反応( )を行って合成ガスを製造し、それを様々な化学製品の原料として使用しています。
しかし、このプロセスはエネルギーを多く消費し、持続可能ではありません。そのため、常温常圧下での効果的なメタン活性化方法の開発は持続可能なメタン利用に向けて不可欠です。
そこで、光を利用して酸化還元反応を促進する方法が、有望な技術とされています。光触媒反応は、水の分解、の還元、水を用いた有機合成などの環境に優しい反応を、常温条件下で反応させることが可能であり、熱力学的な限界を超えることができるとされています。
最近では、強固なC-H結合を有するメタンの変換にも光触媒技術が応用できることが報告されています。この反応は原理的には、光触媒表面で光によって生成される正孔と電子が、それぞれ酸化反応と還元反応を引き起こします。しかしながら、非熱的なメタン活性化のメカニズムはまだ明らかになっていない点がありました。
そして、メタンの光触媒変換は、その微視的なメカニズムが正確に理解されていないため、最適な反応条件を設計することが困難でした。また、メタンは完全な還元分子であるため、その活性化は光生成正孔によって駆動されます。
光触媒表面には、表面格子酸素サイトに捕捉された正孔や表面水酸化ラジカルなど、多様な形で光生成正孔が存在します。しかし、メタン光触媒の測定条件と実際の反応条件との間に大きな差があるため、非熱メタン活性由来の活性種を明確に特定することは困難でした。これまでのex-situ測定条件下は液体窒素温度条件で測定されることが一般的だからです。
そこで、非熱メタン変換における正孔由来の活性種を特定するためには、反応種や中間体のin-situ/operando同定が有望となります。
この論文では、メタンの非熱的光触媒変換に関するミクロな洞察を得るために、リアルタイム質量分析法とオペランド赤外吸収分光法および第一原理分子動力学法(AIMD)シミュレーションを組み合わせています。代表的な光触媒()および光触媒()として3つの金属酸化物を採用しています。
これらをメタンガスや水蒸気の圧力を調整しながら系統的に実験しています。その結果、大気圧条件下での光触媒によるメタン変換では、界面上の水が重要な役割を果たすことが明らかになりました。界面上の水は光触媒表面に捕捉された光生成正孔によって優先的に酸化され、その活性化された水種はメタンのC-H結合の切断を効率的に触媒します。さらに、界面上の水素結合ネットワークが中間体の過剰な安定化を防ぐことで、常温常圧でのメタンの光触媒反応性を高めることに寄与していることが明らかになりました。
この水の効果によって、メタンの光触媒変換率は、常温(~300K)・常圧(~1気圧)の湿潤条件下では、乾燥条件下と比較して30倍以上と飛躍的に向上することが報告されました。
また、その反応のメカニズムは下記のようになると提唱されています。
参考文献
Sato, H., Ishikawa, A., Saito, H. et al. Critical impacts of interfacial water on C–H activation in photocatalytic methane conversion. Commun Chem 6, 8 (2023).