化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

金属触媒(固体触媒)とは?表面積・形態・分散度の解説

固体触媒として使われる物質

固体触媒として用いられている物質には、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属硫化物などが存在する。また、実際に触媒反応がおこる部分は粒子の表面であるため、比表面積(質量あたりの表面積)が大きい微粒子が使われている。

固体触媒として有名なものには、白金黒、パラジウム黒、ルテニウム黒といった金属微粒子がある。この他にもラネー合金触媒がよく知られている。ラネー合金とは、触媒活性のある金属を一度、AlやSiなどの塩基に可溶な金属との合金にしたあとに、これを溶解させることで作られる、金属骨格からなる多孔質の微粒子のことである。ラネーニッケルやラネー銅、ラネーコバルトなどが知られており、こういったラネー金属は空気中にさらしただけで発火するような場合がある。

担持金属触媒と担体効果

多くの金属触媒の場合には、比表面積の大きい担体上に微粒子を分散させる。こういったものを担持金属触媒ということがある。担体には酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)などの金属酸化物や、活性炭、ゼオライトなどが利用される。

担体は金属触媒を高分散にさせる役割以外にも、担体自身が反応に関与することによって、金属触媒の活性や選択性を向上させたり、金属微粒子を安定化させることで粒子成長を抑制したり、担体の細孔によって拡散制御や形状選択制御などの役割を担うことがある。こういった効果を担体効果とよぶことがある。

例えば酸化チタンとPt触媒は強く相互作用が起こり、金属の構造や電子状態を変化させる。こういった現象はSMSI (strong metal support interaction) 効果として知られている。

またゼオライトは分子と同程度の大きさの細孔をもっている3次元網目構造の結晶性複合酸化物であり、基本構造はSiO4四面体とAlO4四面体である。この構造や細孔径はSiとAlの比やイオン交換性の金属イオンを他の陽イオンで置換させることで変化させる。そしてこの細孔内に触媒活性がある金属や金属酸化物、分子錯体を固定化担持させることで担体効果を活用している。

金属触媒

一般的に活性の高い金属触媒としては8、9、10族(VIII)金属のFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptや11族(IB族)金属のAg、Cuが知られている。特にPt、Rh、Pdなどは多くの反応において高活性であるが高価であるため金属微粒子を担体に高分散担持させて使用される。

金属触媒の表面積と形態

固体触媒では表面積が重要であるため、金属の粒子の表面積について考える。ここでは担持された微粒子は一定の大きさの球形であると仮定する。直径をd、質量と金属の格子定数から求まる密度を \rhoとすると、比表面積Sには次の関係が成り立つ。

 \displaystyle S=\frac{\pi d^2}{\rho \pi d^3 /6}=\frac{6}{\rho d}

元素の種類によって密度 \rhoが異なるため、同じ径の粒子でも比表面積は大きく異なる。

また実際の粒子の形状は球形ではなく、平坦面が露出している場合が多い。特に低指数の面が露出する場合が多く面心立方格子(fcc)の金属の場合、(111) (100) (110)などの面が露出している場合が多い。

担持金属触媒では、担持金属と金属微粒子の相互作用によって、金属粒子の形態が変化する場合も多い。例えば担体表面と金属微粒子の間に引力相互作用が強い場合には微粒子はいかだ状(ラフト状)の形態となる。これをwetting状態という。一方で担体表面と金属微粒子の相互作用が弱い場合、金属微粒子の形態は丸に近くなる。これをnon-wetting状態という。

f:id:syerox:20211120165645j:plain

wetting状態とnon-wetting状態

担持金属触媒の分散度

微粒子を構成する全原子数N_rのうち、表面に露出している原子数N_sの割合を分散度Dとして、微粒子の分散の指標とすることがある。

 \displaystyle D = \frac{N_s}{N_r}

D=1の場合は原子状もしくは単層で2次元に分散していることになる。実際の担持金属触媒の表面積や分散度は、電子顕微鏡像から計算したり、COやH2の吸着実験によって測定された表面原子数N_sから求められる。

固体触媒の複雑性

固体触媒反応は複雑だといわれることが多い。これは化学反応自身の複雑さ反応場である表面の複雑さの2つの要因に区別することができる。

化学反応は複数の反応素過程の組み合わせで考えることができるが、固体表面では複数の反応素過程が同時に進行していることになる。そのため、多様な反応中間体が表面に存在していると考えられる。固体触媒反応のメカニズムを解明するためには、反応中間体として触媒表面に生成している吸着種を測定し、反応挙動を解明する必要がある。

固体の表面の複雑さは、固体表面が完全な平面ではなく、原子レベルの凹凸が存在したり、表面の欠陥や不純物の存在などが原因である。さらに固体表面は温度や反応気体によって変化する場合もあり、実際の触媒反応中の表面の状態を測定することが重要となる。