化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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触媒とは?触媒の定義と求められる重要な要素

触媒の定義

現在の化学反応にて触媒を一言でいうと”物質自身は変化しないが、反応速度を高める物質”といえるが、その定義を細かく考えると、次の要件を満たすような化学反応に関係する物質ということができる。

  • 触媒は化学反応の反応物でも生成物でもなく、反応に関与する第3の物質である。
  • 触媒は上の説明から溶媒と同じように化学反応の量論式には現れない
  • 触媒は少量で反応を促進させ、反応速度を高める。ただし化学平衡を変化させることはできない
  • 触媒は化学反応の素反応の経路(ルート)を新しく生成するか、元の経路の活性化エネルギーを低下させることによって、全体の反応速度を増大させる
  • 触媒は素反応の段階では、反応物もしくは反応中間体との相互作用により、それ自体が変化する場合もあるが、全体の反応でみると最初の状態に戻り、繰り返し働くことによって化学反応を促進する

触媒に関する変遷

現代の化学の基礎ができる以前から錬金術といわれるような化学反応の研究は行われてきた。この頃から化学反応に第3の物質を加えることで、反応が促進される現象は発見されていたようである。この頃には触媒を"魔法の石"や"賢者の石"などと呼んでいた。

1811年にはロシアのキルヒホッフによって、でんぷんの水溶液に無機酸を加えると糖に分解されることが報告されている。

1817年には加熱した白金によってアルコールが燃焼する現象が報告されている。

1836年になると、スウェーデンのベルツェリウスによって化学反応に第3の物質を接触させることで反応が促進されるという現象を提唱し、触媒力(触媒作用)という概念を導入した。その後1901年にオストワルドによって"触媒とは、化学反応の最終生成物ではなく、反応速度を変化させる物質"と定義された。

1866年には白金触媒を用いることによってアンモニアを酸化し、硝酸を合成する方法が確立されてきた。硝酸は火薬の原料となることから、重要な物質であり、この元となるアンモニアを合成する技術を確立することが非常に重要になってきた。そしてハーバーボッシュ法として知られるアンモニアの工業的な製法の確立へと繋がった。

つまり、今の土台になる触媒分野が本格的に研究されはじめたのは、ハーバーとボッシュの発見で有名なアンモニアの工業的な合成の時期ということができる。

触媒の古典的な定義

ここで触媒の古典的な定義について考えると以下の要件を満たす物質と考えることができる。

  • 触媒は反応系に関与し、反応速度を変化させる第3の物質である
  • 少量でも効果がある
  • 触媒自身は変化しない

触媒に要求される要素

触媒はその役割から活性選択性寿命が要求される。近年は低環境負荷も要求されることがある。

活性

触媒は反応速度を上げることで、短い時間で大量の目的生成物を合成することが目的である。この尺度が活性である。活性は単位触媒量あたりの・反応速度(単位時間あたりの反応量)で考える場合が多い。他にも活性を表す尺度として、触媒回転頻度や触媒回転数も用いられる。

触媒サイト(活性点・分子触媒)あたりの単位時間に反応を完結させ、生成物を合成したか評価するターンオーバーフリークエンシー(turnover frequency, 触媒回転頻度、ターンオーバー頻度、TOF)で評価することも多い。

触媒が不活性化する前に、触媒1 molもしくは触媒サイト1 molあたりで合成できる生成物のモル数もしくは分子数を表す触媒回転数 (ターンオーバー数、turnover number、TON) で評価されることもある。もし触媒反応ではなく、単なる量論反応であれば、繰り返し反応しないため、触媒回転数が1を超えることはない。また触媒回転数は触媒の寿命の指標にも用いられる。

選択性

触媒活性が高く、生成物を大量に生成できる触媒は望ましいが、目的以外の副反応も同時に促進させる場合がある。つまり、目的の生成物が合成する反応のみを選択的に促進する選択性が重要となる。選択性Sを、目的とする反応の反応速度r_m、副反応の反応速度r_sの比でS=\frac{r_m}{r_s}という尺度で評価する事がある。また生成物の比率と転化率の比率\frac{X_m}{X_s}で評価することもある。

理想的な触媒は目的の生成物を選択率100%で合成する触媒である。また一般的に、酵素は選択性が高い触媒として知られている。選択性は目的の分子以外にも、不斉合成における特定の異性体を合成する場合にも考えられることがある。特に異性体は薬理的な作用が異性体よって異なることがあり、分離することも難しいことが多いため、選択性が高い触媒が理想的である。

選択性を支配する要因は複数ある。元素や化合物の特有の性質以外にも、粒径や助触媒、担体によっても大きく変わる。

ゼオライトなどの均一な細孔をもっている場合には、形状選択性も現れる。形状選択性は、反応分子の大きさと細孔径の大きさとの関係が要因である反応物規制の場合と、生成物分子の大きさと細孔径の大きさとの関係が要因である生成物規制の場合がある。ゼオライトの形状選択性はn-パラフィンの選択的水素化分解やメタノールからのガソリン製造など石油化学プロセスに応用されている。

寿命

触媒は実際には化学反応に関与している間に毒物や触媒自身の変化によって、反応が完結しても元の状態に戻らない場合がある。この触媒を有効に利用できる期間を触媒の寿命といい、この触媒の寿命が重要となる。また、機能の低下した触媒を再生処理している場合もある。

環境負荷

特に近年は、地球環境への負荷が少ない触媒が望ましいとされる傾向がある。まず、廃棄した際に触媒が有害でないことや、高い選択性で、副反応の生成物を分離する操作の削減や反応プロセスが少ないルートによって、消費されるエネルギーや経費などを削減する触媒のほうが理想的である。

資源量・価格

このほかに工業的には高価な白金やロジウムといった貴金属より、資源量が豊富で安価な物質を用いた触媒が重要視されることもある。