実験レポートとは
実験レポートは学生実験を通して学ぶべきことを十分に習得したかを示すものである。そのため、実験レポートの作成は実験前と実験中に学び経験した知識や技術を身に着ける機会ととらえておくと良い。さらに学生実験のレポートは反省点の抽出だけでなく、改善点の提案など、考察を深くし、創造的なレポートを作れるとよい。
実験レポートの体裁
基本的に指導教員の指示に従って準備するとよい。体裁が整っていないために、実験レポートが受理されないこともあり得るため、確認は怠らないようにしたい。
用紙サイズ
大きさや紙質などが指定されていないか確認する。
作成方法
現在は、wordなどのドキュメントソフトを用いて作成するほうが簡便であるが、手書きでの実験レポートが指定されている場合もある。
手書きの場合
一般的に横罫線のA4のレポート用紙を使用し、鉛筆やシャープペンシルではなく、ボールペンなどのインクを用いる筆記具を使用する。また、丁寧に読みやすい字を書く。間違ったページは基本的に書き直すことが修正されているが、場合によって修正ペンや修正テープを用いて訂正する。
ドキュメントソフトの場合
罫線のない用紙を使用し、レポートを紙で提出する必要がある場合は、プリンターで印刷する。
標準設定はマージンの幅は上下左右各2.5 cmである。
フォントは明朝体とTimes New Romanなど読みやすいフォントを選び、フォントサイズも10.5ポイント程度にして、読みづらい独創的なフォントは使用しないように注意する。
写真の使用
実験の観察結果、特に試薬などの形状や色などは文字だけでなく、写真を載せることも可能である。
綴じ方
レポートはバラバラにならないように、ファイルに綴じるか、左肩をホッチキスで綴じて提出する。
実験レポートの書き方
化合物の書き方
化合物は一般的な名称と化学式を使って、提出した教員が読む際に間違われないように注意する。名称はIUPACの命名法に従うことが一般的である。IUPAC名が長すぎる場合は、一度だけ正式名称や構造式を示し、その際に化合物に番号をふっておき、それ以降は「化合物1」などの様に記入していくとよい。
学生実験レポートでは
- 何を準備したか
- どのように実験したか
- どのような観察に対して、どのようにしたか
- どういった実験結果、データが得られたか
- 発見した疑問点や問題点はなにか
- 授業などで学んだ知識や、事後の文献などの調査結果なども踏まえて得られた考察
などを記す。
実験レポートの構成としては代表的なものとして以下のようなものが挙げられる。
- 表紙
- 緒言
- 実験と結果
- 考察
- 参考文献
- (実験を行った感想)
表紙
実験レポートには表紙を必ずつける。表紙の書式が指定されている場合はそれに従い、それ以外の場合は、提出日、実験題目、所属(学部、学科)、学籍番号、氏名などを記入する。
緒言
まずはなぜその実験を行うのかという目的や、テーマの重要性を記入する。いくつかの実験から構成される学生実験である場合、広い意味でのテーマの重要性を記入し、なぜその実験を行うのかという具体的な理由を書くようにする。適宜、参考文献なども記す。
具体例
本実験はトリフェニルメタノールの合成反応である。
この実験は典型的な炭素-炭素結合形成反応の一つであるPhenyl Grignard試薬と安息香酸エステルとの反応により第三級アルコールを合成する反応であり、Grignard反応の準備からGrignard試薬の調製、反応の実施、後処理までの一連の経験を積み、Grignard反応の取り扱い及び知識を学ぶ。
Grignard試薬とカルボニル化合物との反応によりアルコールを得る反応は利用範囲の広い反応であり、有機合成反応の中でも最も有用な炭素-炭素結合生成反応の一つである。
Grignard試薬はEMgX型の有機マグネシウム化合物の総称であり、1900年にフランスの化学者であるグリニャールによって最初に合成されたことから、この名前が付けられた。この試薬はハロゲン化アルキル(RX, X=Cl、Br、I )と金属マグネシウム(Mg)とをエーテル系溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)中で反応させることで生成し、RMgXの組成をもつとされている。ただし実際には溶媒のエーテルを含む複雑な構造であることが知られている。
このGrignard試薬にアルデヒドやケトン、エステルを加えることによってGrignard反応は進行する。ケトンとの反応により第三級アルコールを得る反応は立体障害が大きくなるとケトンの還元反応が進行しやすくなり、収率が低下することがある。カルボン酸誘導体とGrignard試薬との反応はGrignard試薬が1分子付加し、ケトンを生成する反応、および生成したケトンにさらにもう1分子のGrignard試薬が付加し、アルコールを生成する反応の二段階に区別できる。よって、通常はカルボン酸クロリド、酸無水物、エステルなどに過剰量のGrignard試薬を作用させると、Grignard試薬が2分子付加した第三級アルコールが高い収率で得られる。
Grignard反応には、重要な制約が存在する。Grignard試薬は強力な塩基性を有するため、酸性プロトンを持つ基質や水の存在を避ける必要がある。本実験ではこれらの制約をクリアする典型的な方法を本実験で学ぶ。
実験内容
実験内容についてレポートに記載する必要がある項目を以下に示す。
実験の原理・理論
一般的な反応式を用いた反応機構にもとづいて、反応の流れを説明する。また、実際の実験操作と対比ができるように、各段階ごとに詳細に記入する。
反応追跡と実験結果の確認方法
学生実験では、反応の追跡方法などは指示されている場合が多いが、本来の実験目的に合わせて分析手法の選択を行った理由など調べ、考えた内容を記す。
実験を通して学ぶ操作
各実験によって、秤量、抽出、再結晶、減圧蒸留などの操作の習得も課題である。
実験方法の具体例
反応追跡にはTLCを用いた。安息香酸エステルと反応物の反応混合物をTLCで追跡することによって、出発物質の消費および生成物の生成を確認することができる。反応の追跡にあたっては、正確さ、簡便さ、迅速さが求められるが、TLCは本反応において、いずれの点でも適している。生成物の確認はTLCのRf値を標準試料と比較する以外に融点測定とIR法によって同定を行った。
実験と結果
反応式および物質収支
具体的な化学式などを用いて反応式を書く。使用する試薬や溶媒も記入する、また、出版されている論文では省略される内容についても、学生実験では明確に記入することが望ましい。
使用した物質の量を記入し、物質収支を示す。また定量的に反応が進行した場合の生成物の理論収量も計算する。
実験操作と結果
要点をまとめて、実験操作と結果を記述する。表やグラフも適宜利用することで、結果が見やすくなる。文字や手書きの絵以外にも写真なども簡単に撮影できるため、反応中や反応後の写真を加えるなどの工夫をしてもよい。
化学反応の場合は、反応の進行状況の追跡方法やその結果も記述する。
最後に生成物の同定方法や、その結果などを記述する。
実際に行った操作は再現ができるように、詳細に記述していることが望ましい。例えば、水浴やオイルバスの温度、反応中の様子(色の変化、気泡の発生など)、生成物の形状や色、収量などを記入する。
考察
考察は実験結果に対して、
- 実験結果が妥当か
- 実験結果が信頼できるか
- 実験手法や方法に改善できる点はないか
などを実施した操作を振り返りながら、評価する項目である。
例えば試薬の投入量が過剰量であったり、触媒量であったりした場合には、その量を選択した仮説や根拠が存在するはずであるが、そういった当量関係などについて考察することができる。
また想定される反応機構に対して、実験中の観察結果から言えることはないかなども記入ができる。
参考文献
参考文献の項目には、実験にあたって調べた文献や論文などを記入する。一般的には、各文献ごとに番号を付け、その番号をレポート中にも記す。
また参考文献の書き方のフォーマットはいずれかの形式に統一しておく。
レポート本文を書く際の気をつけるポイント
「図1からわかるように、~であるとわかる」と書いてしまう
レポートの中で測定結果を図にして掲載することはよくある。その図の縦軸や横軸はなにを表していて、図のどの箇所をどのように見ると考察している結果が言えるかを記述していないことがある。
もちろん、レポートの評価をする教員はプロであるため、そのような説明は共通認識として省略しても伝わると思うかもしれないが、レポートは学生が習得した内容を評価するものである側面があるため、詳細に記述したほうがよい。
「~の結晶が得られた」と書いてしまう
例えば、結晶という言葉は中学や高校の理科でも扱ってきた馴染みのある言葉である。しかしながら、得られた生成物が結晶だと判断できる測定を行っていない場合は、筆者の想像で結晶が得られたと思っていることになるため、レポートとしては不適切な表現になる。結晶以外にも、単語の意味や定義を確認しながら不適切な表現をしていないかを注意しながら、レポートを執筆すると良い。
「実験は成功した」「失敗した」と書いてしまう
ここでの実験や測定の成功や失敗というものは、主観的な言葉である。本来であれば、特に実験結果の成功や失敗を定義していない場合は、このような言葉を使うことは好ましくない。特に学生実験で重要なことは、ただ配られたテキストを見て実験をすることだけではなく、技術の習得や実験結果について考察する能力を習得することである点を心がけておくとよい。