化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【電気化学基礎】標準水素電極と標準還元電位

標準水素電極

25℃において、電池内のすべての物質が105Paで活量が1、電流が流れていない状態を標準状態という。H+イオンが関与する反応では pH = 0 (近似的には1 mol の酸)の条件である。

電極の電位は標準電極を基準として、測定される。電極電位の基準として用いられる水素電極では、活量a_{\rm H^+} = 1の強酸溶液中、1 atm(a_{\rm H_2} = 1)の水素ガスをゆっくり白金黒電極に接触させる。

電位は次の式で表すことができる。

 E = E^0 + \frac{RT}{F} \ln \frac{a_{\rm H^+} }{a_{\rm H_2} }

このときの水素電極を標準水素電極(NHE)という。還元電位は通常NHEを基準として表すことが多い。しかしながら、水素電極は取り扱いが不便であるため、電気化学測定実験では、飽和甘汞(かんこう)電極(SCE)銀/塩化銀電極を用いることが多い。測定電位はこれらの電極を基準とする値、もしくはNHEに換算した値を記す。

NHEを0 Vとすると、SCEは0.242 V、Ag/AgCl電極は0.199 Vとなる。

酸化還元能力と標準還元電位

酸化還元反応は酸化還元の相手が存在して初めて実現する。しかし、反応物は相手次第酸化剤にも還元剤にもなる場合がある。そこで、仮想的な半反応の還元電位 E^0を導入することによって、この酸化還元能力をパラメーター化することができる。

また反応の自由エネルギー変化 \Delta G^0E^0には次の関係が成り立つ。

  \Delta G^0 = -nFE^0

ここでnは移行する電子数、Fはファラデー定数である。

例えば、

2H+ (aq) + 2e- → H2 (g)     \Delta G^0_1 = -2FE^0_1

Zn2+ (aq) + 2e- → Zn (s)     \Delta G^0_2 = -2FE^0_2

の反応は独立には起こらない。しかし、H+ (aq) とZn (s)  が共存すると酸化還元反応が起こる。2つの式の差をとると、実際の反応式が以下のように書ける。

2H+ (aq) +Zn (s) → H2 (g) + Zn2+ (aq)

全体の酸化還元反応の自由エネルギー変化も、各半反応の定まった量  \Delta G^0_1   \Delta G^0_2の差になる。

 \Delta G^0 = \Delta G^0_1 - \Delta G^0_2 = -2F (E^0_1 - E^0_2)

半反応は必ず1対で考えるため、便宜上H+ の還元半反応の自由エネルギー変化 \Delta G^0_1=0とする。実験的には \Delta G^0 = -147 \rm kJとなるので、 \Delta G^0_2 = 147 \rm kJとなる。

半反応の \Delta G^0に対応する電位 E^0は次の関係があり、この E^0標準還元電位という。

  E^0 = - \frac{\Delta G^0} {nF}

よって、これらの関係を用いることで、さまざまな半反応の標準電位が求めることができる。また、半反応を組み合わせてできる酸化還元反応のtex[E:^0]は各藩反応のE^0から算出することができる。

酸化還元反応のE^0が正であれば、\Delta G^0は負になり、反応は自発的に進行する。つまり、反応の熱力学的自発性の判断に、自由エネルギーの代わりに還元電位の差をとることができる。

半反応の還元電位が高い試薬ほど、酸化力が大きいことを示す。ただし正負の符号はプロトンの還元電位を0とした便宜上の尺度であり、符号の正が酸化性、符号の負が還元性と一概に言えるわけではない。

また酸化還元能力の順番に並べた系列を電気化学系列という。