化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【量子化学基礎】エネルギー遷移とボーアの振動数条件

基底状態と励起状態

水素原子のスペクトルを観測すると、飛び飛びの波長のスペクトル線が観測される。これは、原子のエネルギー準位によって考えることができる。

エネルギー準位のうち、量子数n=1の状態はエネルギーが最低の状態である。これを基底状態という。

基底状態より高いエネルギーの状態は、励起状態という。 n = \inftyのときのエネルギーE_{\infty}は0になる。

この n = \inftyの状態は、電子が原子核の引力を受けない無限に遠くに離れている状態であり、位置エネルギーと運動エネルギーが両方とも0となっている状態である。

エネルギーが0以上の状態は、電子が原子から離れているということを意味し、イオン化した状態でもある。

基底状態の原子から電子を取り去り、イオンにするために必要な最小のエネルギーであるイオン化エネルギーIは、以下の式によって求めることができる。

I = E_{\infty}- E_1 = Z^2 W

ここで、Zは原子番号、Wは仕事関数である。

水素原子のイオン化エネルギーI_HZ=1の場合であるため、次のようになる。

I_H = W

エネルギーの遷移

原子にはエネルギーの低い状態から高い状態までがあり、エネルギーを受け取ると、エネルギーの高い状態に移り、エネルギーを放出するとエネルギーの低い状態に移る。

このようなエネルギーの出入りによって、原子が光を吸収したり、放出することが、原子のスペクトルの由来と考えることができる。

つまり、振動数 \nuの光子のエネルギーの高い準位から低い準位へ移る場合、そのエネルギーの差に等しいエネルギーをもつ光子が放出される。逆に、低い準位から高いエネルギーの準位の差と等しいエネルギーの光子を吸収すると、低い準位から高い準位に移ることができる。

このようなエネルギー準位の間を移ることを遷移という。

原子のスペクトル線は、光子の放出と吸収に由来するため、その振動数 \nuはエネルギー準位の間隔をプランク定数hで割ったものとなる。つまり、式で表すと次のようになる。

 \displaystyle \nu = \frac{E_n - E_m}{h}

このことについて、遷移を起こすために必要なボーアの振動数条件ということがある。左辺について c = \lambda \nuを代入し、右辺に水素原子Z = 1のエネルギー準位の公式 E_n = - \frac{W}{n^2}を代入し、両辺をcで割ると、以下のスペクトル式が得られる。

 \displaystyle \frac{1}{ \lambda} = \frac{W}{hc}  \left (  \frac{1}{m^2}-\frac{1}{n^2} \right )

また、リュードベリ定数Rは次のような関係となる。

 \displaystyle R = \frac{W}{hc}

そのため、この式とスペクトル式を組み合わせることによって、次の水素原子のスペクトル線の波長 \lambdaに関する式を求めることができる。

 \displaystyle \frac{1}{ \lambda} = R \left( \frac{1}{m^2} - \frac{1}{n^2} \right) (n \gt m \gt 0)

また、リュードベリ定数の式とI_H = Wの式と比較すると、水素原子のイオン化エネルギーとリュードベリ定数は比例関係にあることも導くことができる。

 I_H = W = Rhc