化合物の結合や構造は、構成している原子の引き付けやすさや、電子間反発、価電子が占める分子軌道などの電子は関与する性質によって決定される。立体因子も電子間相互作用に含めることができるため、電子因子ということもできる。
有効核電荷
一般的に価電子よりも内側の電子殻にある内部電子によって核電荷が遮蔽を受ける。そのため、外部の電子が感じる原子核の正電荷は、電子番号と同じ整数電荷より小さくなる。この現象を遮蔽定数で表す。このとき、原子核の実質的電荷を有効核電荷といい、次の関係が成り立つ。
イオン化エネルギー
気相(g)の原子から1つの電子を取り除くために必要な最小エネルギーをイオン化エネルギーという。単位は電子ボルト(eV}で表す。ちなみに1 eV = 96.49 kJ/molである。
一番外側の電子を取り除くために必要なイオン化エネルギーを第一イオン化エネルギーといい最も小さい。2番目以降の電子を取り除いてイオン化するエネルギーを第二イオン化エネルギー、第三イオン化エネルギーと呼んでいき、大きさも大きくなる。
熱力学的計算では、イオン化過程の標準エンタルピー変化であるイオン化エンタルピーを用いることがある。イオン化エネルギーとイオン化エンタルピーの差は[texRT](は気体定数、は温度)である。
室温では2.479 kJ (0.026 eV)であるため、数値的には大きな違いはない。
第一イオン化エネルギーは周期表において、原子番号順に周期的に変わり、左下のセシウムがもっとも小さく、右上のフッ素が最も大きくなる。
一般的にアルカリ金属は1個のs電子がとれると希ガス構造になり安定化する。そのためイオン化エネルギーが小さいと考えることができる。また希ガス元素は安定電子構造をもつため、アルカリ金属から希ガスまでほぼ単調に増加する。しかし、窒素と酸素、リンと硫黄など数か所逆転する部分もある。
電子親和力
気相の原子が電子を得るときのエンタルピー変化に負号をつけたものが電子親和力である。
陰イオンのイオン化エンタルピーと捉えることもできる。ハロゲンは1つの電子を加えると希ガス構造になるため、電子親和力は大きい。
電気陰性度
電気陰性度は化合物の一部である原子が電子を引き付ける傾向を数値的に表そうとした原子パラメーターである。結合、構造、反応などのすべてにおいて、化学特性を原子の性質で説明する際に役に立つ。電子の引き付けやすさの数値化には、種々の方法が提案されており、最近でも理論的根拠と新しい数値を求める研究が行われている。
1932年にポーリングによって電気陰性度の数値がが提案されたが、現在において最も頻繁に使われている電気陰性度はポーリングの電気陰性度ということもできる。
ポーリングは結合のイオン性という概念を定量化することによって、電気陰性度を定義した。まずA原子とB原子間の結合性を表す式として、次の関係を定義した。
ここでは共有結合の結合エネルギーを表す。しかしは必ずしも正ではないことがわかった。そのためポーリングは定義を修正し。次のようにした。
これをA-B結合のイオン性とした。さらにA、B原子の電気陰性度の差がイオン性の平方根に比例するとして、電気陰性度[yrx:\chi]を次のように定義した。
この0.208という係数は結合エネルギーをk cal/molで表したときに水素Hの電気陰性度が2.1になるように決定されたものである。
ポーリングの電気陰性度は原子の酸化状態が高くなるほど大きくなるため、各元素のとりうる最高酸化数に対応する値を記されている場合が多い。
電気陰性度は原子の表面における電場により定まるものとするオールレッドとロコウによる定義である。を原子の共有結合半径にとり、電気陰性度をポーリングの値に近いものするため、定数を加えて、次のように示した。
この定義でも有効核電荷が大きく共有結合半径が小さい元素が、大きな電気陰性度をもつ。
マリケンは次のように、イオン化エネルギーと電子親和力の平均を天気陰性度と定義した。
[tex:\chi_M = \frac{1}{2} (I + A_c)
イオン化エネルギーはHOMOからの電子励起、電子親和力はLUMOへの電子付加に要するエネルギーである。この定義によって、電気陰性度はHOMOとLUMOのエネルギー準位の平均値ということができる。
イオン化しにくく、電子をとりやすい元素が大きな値をもつが、この定義による電気陰性度は原子が分子の一部で価電子状態にあるときのものである。そのためエネルギーの単位をもつが、無数名として扱う。
マリケンの定義は原子の軌道に力説関係しているため理解しやすいが、一般的にはポーリングやオールレッド-ロコウの値が使われるほうが多い。
電気陰性度は定義によって値が異なるだけでなく、原子の結合状態でも大きな差があるため注意して使用する必要がある。