化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【物理化学】凝固点降下と沸点上昇の原理をわかりやすく解説

凝固点降下

溶質が溶媒に溶けて、溶液の凝固点が降下する現象を凝固点降下という。希薄な溶液の凝固点降下度\Delta t(K)は溶媒固有のモル凝固点降下定数 K_f(K/質量モル濃度)と質量モル濃度m(mol/溶媒1 kg)の積である。

上の関係を式にすると下のようになる。

 \Delta t = K_f \times m

溶媒1 kg中(溶媒分子数に比例し、分子量に逆比例する数値)に質量1 mol(6.0×1023個の溶質)を含む溶液の凝固点降下度がモル凝固点降下定数である。

未知分子の分子量を凝固点降下度から求める方法を凝固点降下法、または氷点法という。ある溶質の溶液の凝固点降下度が\Delta tの場合、その溶液の分子量M K_f \times g \div \Delta tとして求めることができる。ここで[tex: gは溶媒1 kg中の溶質の質量である。

実際に寒冷地仕様の自動車の冷却水にはエチレングリコールなどの凝固点降下剤が溶かしてある。

沸点上昇

純溶媒に沸点が高い不揮発性の溶質が溶けることにより、溶媒の沸点が上昇する現象を沸点上昇という。沸点点上昇度\Delta t(K)は溶媒固有のモル沸点上昇定数 K_b(K/質量モル濃度)と質量モル濃度m(mol/溶媒1 kg)の積である。この関係式は凝固点降下の場合と同じである。式にすると下のようになる。

 \Delta t = K_b \times m

溶媒1 kg中に溶質1 mol(6.0×1023個の溶質)を含む溶液の沸点上昇度がモル沸点上昇定数である。

未知分子の分子量を沸点上昇から求める方法を沸点上昇法という。ある溶質の溶液の沸点上昇度が\Delta tの場合、その溶液の分子量M K_b \times g \div \Delta tはとして求めることができる。ここで[tex: gは溶媒1 kg中の溶質の質量である。

質量モル濃度

溶質の物質量(mol)を溶媒の質量(kg)で割った値を質量モル濃度という。溶液1Lに溶解している溶質の濃度を表すモル濃度(mol/L , M)と区別するために1 mol/kgの質量モル濃度をもつ溶液は1 モーラル (molal)の溶液と呼ぶこともある。

質量モル濃度は溶質分子の数と溶媒分子の数の正確な比を表す値である。よって温度や圧力の変化によって溶液の体積が変化しても質量モル濃度は変化しない。そのため、温度を変化させる凝固点降下法や沸点上昇法では質量モル濃度が用いられる。

純粋な溶媒分子(純溶媒)の凝固

液体状態の分子は、互いにぶつかりあいあながら、自由に動きまわっている。その平均速度は、温度と関係がある。個々の分子がもっている運動エネルギーの平均値は温度が一定なら一定である。温度が高くなると、分子の平均の速度は大きくなる。しかしながら、個々の分子の動きには、早いものと遅いものが混ざっている。温度が下がり、一定の速度以下の溶媒の数が増えると、ほとんど動かない分子の集まりである固体(配列が決まっている場合は結晶)ができる。この時の温度が溶媒分子の凝固点である。

動きの遅い溶媒分子が固体になると、液体状態の動きの遅い溶媒分子の割合は減ることになる。その結果、液体状態の溶媒分子の平均速度は大きくなる。つまり、凝固が起こると液体状態の分子のみに着目すると、液体の温度は凝固点よりも高くなる。凝固を進めるためには、溶媒分子の運動エネルギーを使って動きの遅い溶媒分子を増やす必要がある。そうでないと、凝固した溶媒分子は再び溶けることになる。

まとめると結晶を成長させるためには、動きの遅い溶媒分子の割合を常に一定値以下になる状態にする必要がある。急激に冷却した場合、凝固点より低い温度でも結晶化が起こらないことがある。この現象は過冷却といわれる。過冷却は分子がきちんと並んで静かに止まる反応よりも冷却スピードが速いと起こる。また、過冷却状態の水に何らかの刺激を加えると、きちんと並ぶきっかけができることで、急激に氷の結晶が成長する。

溶質が溶けている場合の溶液の凝固

純溶媒(溶媒のみの場合)と同様に、動きの遅い溶媒分子の割合が一定値を超えているかどうかが、凝固が起こるかどうかを決定する。溶質分子は、溶媒分子衝突によって運動エネルギーを交換し続けている。つまり溶質分子も溶媒の分子運動の速度分布に関与している。その結果、溶媒のみの場合と比較して、動きの速い溶媒分子の数は少なくなる。よって、溶媒のみの場合よりも低温でなければ、結晶化できる動きの遅い溶媒分子の数は増えない。

一方、溶質分子は、温度が下がると動きの遅い溶質分子も増えるが、数が少ないため結晶にはならず、そのまま溶媒分子のなかに留まる。溶媒のみの場合の凝固点よりももさらに温度を下げると、動きの遅い溶媒分子の数が凝固できる数まで増える。凝固した結晶は、溶媒のみで形成されているため、液体状態の溶質の質量モル濃度は凝固が進むにつれて大きくなる。その結果、冷却曲線の固体と液体が共存する温度は一定にならず、右下がりになる。

溶液の沸点上昇も凝固点降下と同様に説明ができる。

沸騰は、動きの速い溶媒分子が一定の割合以上でなければ起こらない。一定圧力の条件下で液体がある温度に達すると、液体表面からの蒸発のほかに液体内部からも気化が起こる。この現象が沸騰である。溶質が不揮発性分子の場合、沸騰している液体の表面の気体は、すべて溶媒分子である。

そして、溶媒と溶質は分子の衝突によってエネルギーを交換しているため、溶質分子も溶媒の分子運動の速度分布に関与している。その結果、溶媒のみの場合よりも高温でなければ、気化できる動きの速い分子の数が増えない。よって、沸点上昇が起こる。