化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

【量子化学基礎】ボーアの原子模型とボーア半径(電子の円運動の軌道半径)

ボーアの原子模型 ボーアは1913年に原子模型(ボーアの原子模型)を提案した。 ボーアは水素原子のスペクトル線の波長が飛び飛びの値で観測されることから、原子の構造を解明しようとした。このとき、ボーアが着目した原子模型は1911年にラザフォードが提案し…

水素のスペクトル線とバルマー系列

水素原子のスペクトル線 水素ガスを入れた放電管に高電圧をかけると、放電して光が放出される。この光を分光器で波長毎に分けると、飛び飛びの波長のスペクトル線となっていることが観測される。これは、水素原子のスペクトル線であり、この波長は以下の式に…

1eV (電子ボルト)について

1eV (電子ボルト) 1eV (電子ボルト) は、電子1個分の電気量をもつ電荷を1V(ボルト)だけ電圧 (電位差) の高いところへ移すために必要な仕事 (エネルギー) である。 電子が関連するエネルギーには単位にeVが用いられる場合が多い。 具体的には、電子1個が1Vの…

【量子化学基礎】光電効果と仕事関数・光量子説

光電効果 光(電磁波)が物質に当たったとき、物質から電子が飛び出る現象を光電効果という。またこのとき飛び出した電子は光電子という。 光電効果を起こす限界となる波長を限界波長という。限界波長に対応する振動数を限界振動数という。この限界波長や限界…

【量子化学基礎】エネルギー量子と電磁波の基本式

エネルギー量子 プランクは、熱放射のスペクトルと温度について研究を行い、電磁波(光)が物質に出入りするときのエネルギーの受け渡しの大きさが光の振動数に比例する、飛び飛びの値しか許されないと仮定すると、実験結果と一致することを発見した。つまり、…

熱放射・キルヒホフの法則・ウィーンの変位則・シュテファンの法則

熱放射と3つの特徴 熱くなった物質が出す電磁波(光)は熱放射といわれる。この熱放射には3つの特徴がある。 1. 熱放射のスペクトルの形は温度のみで決まる。そのため、物質の種類によらない。これをキルヒホフの法則という。 2. 熱放射のスペクトルの最大値を…

【論文紹介】MOFに関する論文に多数のデータの使い回しの疑い

結晶学に関する論文で800報以上の論文で、架空の金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks, MOF)や、架空のMOFの医療分野への応用についての論文が出版されている可能性について、指摘している論文を紹介します。 doi.org 研究職やアカデミックポストを目指…

【錯体化学】配位子場遷移と電荷移動遷移・分光化学系列

配位子場遷移と電荷移動遷移 遷移金属錯体は特有の色を示すものも多い。そのため、可視吸収スペクトルなどを測定すると、可視領域に特有の吸収が表れる。吸収は錯体の分子軌道では、電子によって占有されたエネルギー準位から空のエネルギー準位へ電子が可視…

【錯体化学】遷移金属錯体のσ結合とπ結合

遷移金属錯体の結合 金属d軌道と配位子軌道の相互作用の結果、結合性、非結合性、反結合性の錯体分子軌道が形成される。一般に配位子軌道の方が金属結合より低いエネルギー準位にあるため、結合性軌道は配位子性が大きく、非結合性および反結合性軌道は金属…

【錯体化学】配位子場理論と6配位正八面体型錯体・平面正方型錯体・ヤーンテラー効果

配位子場理論 配位子場理論は錯体の電子構造の理論として知られているものであるが、もともとはイオン結晶に関する理論である結晶場理論を錯体系に適用したものである。 6配位正八面体型錯体 遷移金属の陽イオンの5つのd軌道は縮退している。そのため、5つの…

立体異性体(エナンチオマー・ジアステレオマー)とは

立体異性体とは 化合物の物理的な性質や反応性は、分子の立体的な形によって決まるものも多い。この記事では、この立体化学の概要について説明をする。 同じ分子式をもつ2つの構造があるときに、その2つの構造を重ね合わせることができる場合と、重ね合わせ…

「勉強と研究の違いを山登りに例えると」という話

この記事は、勉強と研究の違いを山登りに例えてみるという話です。特に、まだ研究活動に取り組んだ経験の無い人や、研究の経験が少ない人は、勉強と研究の違いのイメージが湧いていないのではないかと思います。そういった方の参考になれば幸いです。 まずは…

低速電子顕微鏡(LEEM)の解説

低速電子顕微鏡とは 低速電子顕微鏡はLEEM (Low Energy Electron Microscopy)ともいわれる。 透過型電子顕微鏡(TEM)は高速の電子を用いて観測する試料を透過して像を得る。一方で低速電子顕微鏡は、表面試料に数~数十 eV程度の低エネルギーの電子を照射する…

低速電子回折法(LEED)の解説

低速電子回折法とは 低速電子回折法はLEED (Low-Energy Electron Diffraction)ともいわれる。 この手法ではまず、10~200 eV程度の低速の電子線を試料に照射する。このとき、表面原子によって後方散乱を起こした電子を蛍光板に叩きつけることで、発光をカメラ…

【学振申請書】令和5年度(2023年度)DC1・DC2記入例

博士課程に進学を予定している学生であれば、日本学術振興会 特別研究員(DC1・DC2)(通称 学振、がくしん)の申請書を申請すると思います。 学振に絶対採択される方法は存在しませんが、採択される可能性を上げる方法はあります。それは、早めに申請書を書…

他大学・他分野から大学院に入学を考えている人に参考になる情報

他大学・他分野から大学院に入学を考えている人に向けて 理系の場合、大学で進級していくと4年次に研究室に配属されて、卒業研究を行い、卒業論文の提出や卒論発表を行って、学部を卒業する人が多いと思っています。その後の進路として、卒業研究を行った研…

【研究発表】質疑応答のチェックリスト・よくある質問

研究発表の質疑応答 大学で研究室に配属され、研究成果がまとまると、卒論発表(卒業論文発表)や修論発表(修士論文発表)、学会発表、就活の技術プレゼンテーションなどで研究発表を行うことになるケースが多いです。そして研究発表は発表の後に、質疑応答の時…

【研究発表】わかりやすい発表を行うために押さえるべきポイント(卒論発表・学会発表向け)

わかりやすい研究発表 大学で研究室に配属され、研究を進めると、卒業論文発表や修士論文発表会、学会発表、就活の技術プレゼンテーションなどのスライド資料を使った研究発表のプレゼンテーションを行う場合がよくあります。このとき、研究発表がわかりやす…

【科学基礎】数値の有効数字と誤差の計算方法

数値の取り扱いについて 科学実験において有効数字と誤差ほ非常に重要です。学生実験などでは、数値の正しい扱い方ができるかどうかは、大きく評価される部分です。測定によって得られた数字から計算し、表記するということは研究者の理解度が表れているとい…

【化学系】論文のジャーナル(雑誌)名の略号の調べ方

科学技術分野において、さまざまな論文を掲載している雑誌は非常に多く存在する。分野によって、名前が似たような雑誌もあり、論文の引用文献欄から、引用した論文に正確にたどり着けるように、する必要がある。 論文などを投稿する際には、論文を掲載してい…

【理系】投稿論文の構成と査読について解説

投稿論文とは 研究を行い、新たな発見をしたときには、論文を投稿し、論文雑誌に論文を掲載できる可能性があります。 この記事では、投稿論文の構成と、投稿後の審査である査読について解説します。 投稿論文は、表現に曖昧さがなく、簡潔に、論理的に事実と…

【理系】学会発表の準備方法とポイントについて丁寧に解説

学会とは 学会とは、ある共通の研究分野について研究を行っている研究者や、興味関心を抱いている会員によって構成されている組織です。そして、その研究分野の発展や会員同士の交流を図るために、年に1度など定期的に大会を開催しています。「学会で発表し…

【理系研究発表】スライドのポイントとKISSの法則(具体例を紹介)

研究発表(卒論発表・学会発表・就活技術プレゼン) 理系の学生は、卒業研究や修士課程の研究が終わると卒論発表や修論発表などの研究発表を行うことが一般的です。また理系は学会での発表や、就活中に自身の研究発表を行うことも多いです。 この記事では、研…

【化学基礎】水和のシンプルな解説

水和 物質が水に溶ける場合、その物質の周りには水の分子(H2O)が存在します。この時、水よりも量が少ない方の物質は溶質といいます。溶質と水分子が静電的に引き合って、その溶質分子を取り囲むように水分子が結合する現象を水和といいます。 水は分子全体で…

【理系】研究発表(卒論発表・学会発表)の準備とポイント

研究発表 研究発表 発表形式 発表要旨の準備 要旨の注意点 締切日を調べる 印刷形式を確認しておく 提出様式を確認する 発表準備の注意点 発表時間をもとに構成を考える 聴衆を想定して具体的な発表内容を考える スライド資料準備のポイント 枚数 フォント …

【理系】卒業論文(卒論)の書き方とポイント

卒業論文とは 大学の3年次や4年次に研究課題に取り組み、その研究結果を論文の形にまとめたものが卒業論文である。多くの大学では、研究室に配属され、指導教員から提案された研究課題に取り組む。 授業である学生実験との大きな違いは、実際に行う実験や測…

【理系】論文を書く際の各項目を書く順番の話

論文の構成 研究論文は 諸元(イントロダクション) 実験方法・条件 実験結果 考察 結論 参考文献 謝辞 の順番で記述することが一般的である。ただし、論文を投稿する際には、その雑誌によって、特に実験方法の記述の位置などが決められており、この順番とは異…

【化学学生向け】実験レポートの書き方と注意するポイント

実験レポートとは 実験レポートは学生実験を通して学ぶべきことを十分に習得したかを示すものである。そのため、実験レポートの作成は実験前と実験中に学び経験した知識や技術を身に着ける機会ととらえておくと良い。さらに学生実験のレポートは反省点の抽出…

【化学基礎】疎水性と親水性疎水性相互作用のシンプルな解説

極性分子とは 正電荷と負電荷が偏った分子は極性分子とよばれる。水分子は極性分子の代表例である。極性分子が集合した場合、プラスとマイナスを帯びた部分が引き合うことによって、一定の構造を形成する。特に水分子の場合は、水素と酸素が互い違いに水素結…

【化学演習】滑らかな物質はなぜ接着剤でくっつくのか?

化学演習問題 滑らかな金属やプラスチックでも接着剤を使用することによって、つなぎ合わせることができます。この接着剤による接着の科学的原理を説明しなさい。 答え 固まる前の接着剤は低分子モノマーや溶媒和したポリマーなどによる流動性のある状態であ…