化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【理系】投稿論文の構成と査読について解説

投稿論文とは

研究を行い、新たな発見をしたときには、論文を投稿し、論文雑誌に論文を掲載できる可能性があります。

この記事では、投稿論文の構成と、投稿後の審査である査読について解説します。

投稿論文は、表現に曖昧さがなく、簡潔に、論理的に事実と考察を記述していく必要があります。投稿論文の形式は各雑誌社、雑誌によって異なります。また各項目を書く順番も異なります。webページなどに論文投稿者向けのページがありますので、webページを確認しましょう。

以下に論文の一般的な構成を紹介していきます。また多くの論文は、主論文以外に主論文には掲載しきれない図などを掲載する補足資料(Supporting Information, SI, appendix, additional information)を掲載します。得られた実験結果の図などは、主論文と補足資料のどちらに記述するかを分別する必要があります。

論文題目(タイトル, title)

論文題目は読者が最初に目にする部分であり、この題目で読むかどうかを判断している読者もいると思います。読者が興味を引くようなタイトルになるようにしましょう。

著者・所属(author, affiliation)

論文に関わった著者と、その所属を示します。多くの場合、共同研究者がいると思いますが、研究に寄与した度合いの大きい順に書きます。論文は共同研究者それぞれの業績として利用できますが、博士号の学位論文の申請資料としては、同一論文を二人以上が使用することができません。博士号の取得を考えている人は、ここを確認しておきましょう。

論文に関する問い合わせに責任をもって対応する著者には*などの記号をつけるので、調べておきましょう。

複数の所属機関で行われた研究については、すべての所属機関を書くことになります。

アブストラクト(abstract)

抄録ともいわれます。論文の要約であり、多くの読者はこのアブストラクトを読んで、論文を読むかどうか判断すると思います。ここで、読者に注意をひきつけ、興味をそそるように、新しい発見などを簡潔に書きましょう。

イントロダクション(introduction)

緒言、序論などともいわれます。イントロダクションでは、これまで行われてきた研究を概観し、研究の背景や、研究の中で注目したポイント、なぜその研究に取り組んだか、研究の目的と意義、その論文の結論について簡潔に触れるといった内容を論理的に書いていきます。

研究背景は広い分野の問題から取り上げはじめ、特定の領域の課題に絞っていくような構成が一般的です。

ここでは、従来の研究については、他の論文を引用しながら解説していきます。このイントロダクションで、この論文がどれほど重要か、意義のある研究かを示すことを意識して書くといいと思います。

場合によって、他人の研究批判するような内容になる場合がありますが、その場合は先人への敬意や謙虚な気持ちを忘れず文章の表現に気をつけたほうがいいです。

理論(theory)

研究について、理論的な話が主体となる場合については、理論の項目で解説します。この項目はイントロダクションや、補助情報(SI)などに記述する場合もあります。

実験方法(method)

実験方法の項目の位置は論文によって大きく異なりますので、しっかり確認しましょう。

実験方法は、この項目を読んだ第三者が実験を再現できるように詳細に記述していきます。用いた試薬の純度やメーカー、使用する前に行った操作なども記述していきます。

論文に掲載されている機知の方法を用いた場合も、その操作方法を書き、その論文を引用します。

測定に用いた装置もメーカーや型番などを記載します。自作の装置などは図を用いて説明するケースもあります。

結果と考察(result and discussion)

論文の結果とその考察は、その論文の山場です。

結果は、その実験によって得られた結果や事実を忠実に記述していきます。結果には主観が入らず、客観的な事実だけを書いていくべきです。

考察は得られた実験結果から結論を導くための過程です。考察に書かれることは、いくつかありますので、以下にそれぞれ示していきます。

結果の評価

実験結果を他の論文の知見などを踏まえて、精度や誤差、再現性などを評価します。

結果の解釈

得られた実験結果から、どのようなことを言えるのかを説明します。場合によっては新しい仮説を書くことになります。考察では、どこをどのように解釈したのかまで丁寧に説明する必要があります。

得られた傾向から外れる点がある場合は、なぜその点は外れたのかまで記述します。

また論理構成に注意し、論理の飛躍が起こらないように気をつけましょう。

結果からの展望

得られた実験結果から、新たに生じた課題、新しい仮説の応用性などを記述し、結果の意義に繋げます。

結論(conclusion)

考察から得られた、その論文の結論を示す項目です。結論は、イントロダクションの研究の目的と対応したものになるはずです。

結果のみを書くのではなく、この結果が今後の研究へ与える影響や、将来への展望なども書き、狭い特定の領域の結果から広い課題につながることを示します。

謝辞(acknowledgement)

その研究に寄与した個人や組織に謝意を述べる項目です。研究費を提供した機関、材料や試料の提供をしていただいた研究者や組織、実験の分担を行った人などを挙げていきます。

引用文献・参考文献(references)

引用文献には、研究の参考になった文献を、本文中に引用した順番に、番号をつけて一覧にします。

引用文献のフォーマットは雑誌によって規定されており、雑誌毎に異なるため、フォーマットを確認しましょう。

論文の投稿

論文を投稿する際には、論文の投稿規定にしたがって、必要な書類を加えて投稿します。

原稿

投稿規定に従って作成した論文の原稿のファイルを投稿します

カバーレター

編集長あての手紙として、論文の内容や著者の連絡先、審査員の候補などを記述します。

補足資料

補足資料として求められているデータがある場合は、そのデータなども提出します。

査読について

査読が行われる雑誌では、論文は審査され、掲載するかどうかの判断が行われます。

審査の方式は、各雑誌によって異なりますが、まずは編集者が査読にまわすがどうかの判断を下します。査読に回った場合は、委員会の委嘱した二名以上の審査員によって審査されます。審査員は個別に審査結果を報告し、編集者がその内容を投稿者へ伝えます。

査読の結果は大きく4パターンあり、査読が終わったら、通知されます。

1. 無訂正で掲載可の場合(accept)

訂正なしで、論文が出版へのプロセスに進むパターンです。ただ、いきなりこうなることは、ほとんど無いと思っていていいと思います。

2. 軽微な修正のある場合(minor revision)

論文内容の本質的な部分は掲載について問題ないが、参考文献を追加する、表現を書きかえるといった修正の指示をする場合です。

修正の一問一答の提出(point by point response)

審査員のコメントに対して、一問ずる筆者の考えを述べ、修正がある場合には修正箇所を示した文書を作成して、編集者へ再度投稿することになります。

必ずしも、すべて指示通りに修正が必要なわけではなく、修正をしない場合はその理由を合わせて返信します。

3. 重大な修正のある場合(major revision)

対応としては軽微な修正の場合と同じですが、議論の本質を変えたり、追加の実験を行ったりするパターンになります。決して珍しいパターンではないですが、作業の負担は大きくなります。

4. 掲載不可の場合(reject)

なんらかの理由とともに掲載が不可になったことが通知されます。多くの場合、その理由をもとに論文を修正し、別の雑誌社へ投稿することになります。審査結果に納得がいかない場合には、編集者へ反論をするという場合もあるそうですが、私は経験はありません。

出版直前の校正

掲載許可になった論文は、最後に編集部と著者が校正を行ってから出版されます。ここで見落としたミスはそのまま掲載されてしまうので、図表の番号がずれていないか、スペルに間違いがないかなどを慎重に確認しましょう。