修士課程・博士課程で専門に関する能力やスキルが身につくことは当然でしょう。例えば有機系の研究室であれば、有機合成のスキルや、TLCやNMRで化合物の合成を追跡したり確認したりするといった専門の分析スキルなどが身につくでしょう。
その一方で、就活や学振の申請書などでは、研究者としての専門以外の汎用的なスキルや能力について問われることも少なくありません。
ここでは、専門以外の修士課程や博士課程で身についているであろうスキルや能力を紹介します。自己分析やスキルの棚卸しなどを行う際に参考にしてください。なにより、自分が身に着けている能力やスキルを把握することは、自分の価値を把握することに繋がります。
分析・問題解決能力
- 問題を定義し、問題の原因や課題解決方法を推定する
- 膨大な情報やデータを比較し、分析する
- 仮説、結論を考え、それを補強する論理を組み立てる
- 課題の解決方法の計画、モデルの設計、実験の実施を行う
- 批判的な思考(クリティカルシンキング)や批判的な分析を行う
- データの細部までの分析を行う
研究は課題を定義し、実験を計画し、得られたデータを分析し、課題を解決するというプロセスを経ます。そのため、分析や問題解決能力が身に付きます。
実験や解析を行うと、仮説から外れた結果が出ることも少なくありません。ただ研究では、そういったイレギュラーを無視することはできません。特に論文の査読や修士論文、博士論文の発表などでは、そういったイレギュラーに対して、批判的な観点から指摘が入ります。そのため、データを細部まで分析し、批判に反論できるように、仮説を組み立てたり、分析を行う能力が身に付きます。
また研究の過程で実験のデータや、他の研究者の論文を批判的に検証し、論理的に考えることは、一般的に行われます。こういったクリティカルシンキングは、ビジネスなどへも応用ができる能力です。
対人関係・リーダーシップスキル
- グループディスカッションやミーティングを円滑に進める
- ポジティブ・ネガティブな意見に適切に対応する
- 後輩や同期へ実験方法などスキルや技術を指導する
- 研究のテーマ、コンセプトを他の人へ伝える
- 研究プロジェクトなどを協力して実施する
研究は、指導教員や周りのメンバーと共同して進めていくことになります。現在の研究で一人で研究を進めるということは非常にまれです。そのためコミュニケーション能力やグループで共同して作業や業務を進めていく能力や指導する能力が身に付きます。
多くの場合、修士論文や博士論文の著者が研究を主体的に進めていくことになります。つまりリーダーシップを発揮して、研究を進めていく必要があります。
プロジェクトマネジメントスキル
- プロジェクトのスタートから終了までをマネジメントする
- 各タスクやプロジェクト完了までのタイムラインを作成、実施する
- タスクの優先順位を決め、取り組む
- 状況の変化に対応して、柔軟にプロジェクトを進める
修士号や博士号を取得するためには、修士論文や査読付き投稿論文、博士論文、学会発表などを行う必要があります。
そのためには、研究の計画をたてて、各締め切りなどを考慮しながら、プロジェクトを実行していく能力が必要となります。
文献・情報調査スキル
- 論文など適切な情報源から情報を手に入れる
- 新しいテーマや知識を素早く理解する
- 大量の情報やデータを理解し、まとめ、レビューする
- 情報やデータを適切に分類し、評価する
- 最新の動向を学会や論文で把握する
- 新しい分野へ挑戦し、適応して、専門性を高める
研究の成果には新規性や独創性が求められます。それらを満たすためには、世界の研究の最新情報や最新動向などを把握し、自分の研究や論文に反映させて進めていくスキルが鍛えられます。
修士課程や博士課程を修了した人が、その分野の専門性が高いのは当たり前です。しかしながら、その学生が研究室に入った時から、その分野の専門性が高かったかというと、そんなことはないはずです。また、中には、途中で新しい研究テーマや分野に挑戦した人もいることでしょう。この過程で、新しい領域に適応して、専門性を高めていく能力が身についていっているはずです。
自己管理スキル
- ストレスやプレッシャーの中で、期限を守り効率的に作業を行う
- 自分の時間を管理する
研究では、時間の管理が重要になります。一般的に学位取得までの期間が限られている一方で、実験や解析には多くの時間がかかります。そこで、効率的に時間を管理して、学位取得を行うスキルが鍛えられるはずです。
資料、文章作成・発表スキル
- 論理的に構成された資料を作成する
- 口頭発表で、効果的に内容を発表する
- 簡潔なアブストラクト、要旨から長い論文まで様々な文章を作成する
- 難しい概念や、複雑な概念を説明する
- 聴衆の専門性の理解のレベルを考え、適切なレベルで発表する
AIなどが発達し文章は、テーマを与えると適切な文章が出力される時代が来ていますが、現状ではまだ完全ではありません。特に専門的な内容であれば、その内容を正しく書き、論文などの形で適切に発表するためには、ライティングのスキルなどを身に着ける必要があります。また、ほとんどの学生は指導教員などから、文章についてフィードバックを得るという経験もしているはずです。
口頭発表やプレゼンテーションが上手にできるようになるためには、訓練が必要です。修士課程や博士課程では、ゼミや学会発表などでプレゼンテーションを練習する機会があります。これを経験しているかいないかでは、能力に差がついてきているはずです。