SDS-PAGEとは
ゲル電気泳動法のなかでも、タンパク質やペプチドの分析、分取に利用される方法がドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE) である。
ドデシル硫酸ナトリウム (SDS) が用いられる理由
タンパク質やペプチドの荷電の状態は、その構成アミノ酸の種類と割合によって決定される。よって、タンパク質やペプチド分子のアミノ酸組成が分かれば、分子中に含まれる解離基の種類と数が分かる。
タンパク質分子の総荷電は、これら解離基の荷電の総和ということになる。よって、あるpHでは、単純タンパク質やペプチドは固有の荷電数をもつことになり、糖タンパク質やリン酸化しているタンパク質では、糖鎖中の糖組成やリン酸基の数や解離状態を考慮して分子のもつ電荷数を計算することになる。
このため、網目構造の充分に粗いゲル中や支持体のない溶液中では、タンパク質分子の大きさや立体構造に関係なく、電気泳動を行うゲル中や溶液中の緩衝液のpHによってタンパク質の移動する方向が決定する。
よって、タンパク質本来の荷電状態とは無関係に分子の大きさによってタンパク質分子を分離するためには、タンパク質の立体構造と荷電状態がすべてのタンパク質で同じとなるように処理をして、適当なすきまの網目をもつゲル中を同じ方向に移動させる必要がある。
このために、強陰イオン性界面活性剤であり、タンパク質分子にイオン的に結合し、タンパク質の疎水性部分とも結合するドデシル硫酸ナトリウム (SDS) などを使用して、タンパク質の立体構造を壊し、強いマイナスの電荷をもたせる処理が行われる。
一般的に行われるタンパク質の電気泳動法であるLaemmliの方法のSDS-PAGEでは、さらに試料中のタンパク質を溶かすために緩衝液には還元剤であるβ-メルカプトエタノールが加えられる。このβ-メルカプトエタノールの還元作用によって、タンパク質内のジスルフィド結合 (S-S結合) が還元、切断されて、タンパク質は完全に変性する。
これらの作用によって、ほぼすべての試料中のタンパク質分子は、分子全体がほぼ均一に強い負電荷を帯びた直鎖状の構造となる。これを適当な重合度のポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、個別のタンパク質の形状や性質に影響されずにゲルの分子ふるい効果によって、タンパク質のもつ分子量に従って分離することが可能である。
SDS-PAGEの染色検出方法
普通は、泳動中および泳動後、ゲル中のタンパク質の位置を肉眼で確認することはできない。よって、電気泳動終了後には、ゲル中のタンパク質の位置を知るために、タンパク質を色素で染色する。様々なタンパク質の染色検出方法があるが、一般的な方法としてクマシーブリリアントブルー R250 (CBB R-250) という色素によって染色する方法がある。この色素検出法の検出限界は10 ng程度であり、染色の濃さはタンパク質の濃度によく比例する。
さらに高感度に検出する方法として銀染色法がある。
他には、ウエスタンブロッティングといわれる電気泳動によって分離されたゲル中のタンパク質をニトロセルロース膜などへの写し取りを行い、目的のタンパク質にのみ結合する抗体を用いて高感度に検出するイムノブット法などもある。
また、バンドの位置を確認後、切り出して精製する場合のタンパク質のバンドの検出には、銅や亜鉛イオンによる染色法も利用される。
SDS-PAGEを用いた分子量の推定
一般的にSDS存在下で加熱して可溶化されたタンパク質は、その種類に関係なく直鎖状で、負に帯電し、その分子の大きさはタンパク質の分子量を反映したものとなる。
よって、タンパク質の分子量を電気泳動後の移動度から推定することが可能である。
分子量が明らかな標準タンパク質の相対移動度(Rf)から検量線を作ると、実際に試料中に含まれる未知のタンパク質の分子量を推定することが可能である。
具体的には、泳動ゲルの上端から泳動の先端 (泳動の先端の位置を知るためのマーカーであるブロモフェノールブルー(BPB))までの距離をA、タンパク質バンドからゲル上端までの距離をBとするとタンパク質の相対移動度 (Rf) はB/Aで求められる。試料と同時に泳動した分子量が既知の標準タンパク質のRf値を計算し、これを分子量に対してプロットした検量線を作成する。得られた検量線に試料タンパク質のRf値を当てはめると、得られた回帰直線の方程式からその分子量を推定することが可能である。