化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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NMR(核磁気共鳴)と化学シフト・スピン-スピン結合・緩和の基礎的な解説

NMRについて

NMRは核磁気共鳴 (nuclear magnetic resonance) の略である。NMR法はとくに、有機化学の分野で、有機化合物の分子構造の解析に使用されている。

NMR法は、簡単にいうと核スピンのエネルギー吸収・放出現象を観察している。

核磁気共鳴現象を利用したNMR法について簡単に考える。

まず、原子核は核スピンと固有の角運動量と、それにより生じるモーメントである核磁気モーメントをもっている。原子核は正の電荷をもち、自転しているために磁場が発生する。よって、原子核は、ある物理量と方向をもつ磁石とみなすことができる。これが核磁気モーメントである。

核磁気モーメントは強い静磁場中では、さらにエネルギーを吸収、放出する。これが核磁気共鳴現象である。

実際には、核磁気共鳴現象を考える際は、一個の原子核ではなく、大量の原子核の磁石が無数に集まっている大集合体として考える。

まず磁場が、かかっていない状況では、核スピンは勝手な方向を向いていて、特定の方向というものはない。この状況では、核磁気共鳴現象は起こらない。

ここに一定の方向に強力な外部磁場をかけると、核スピンは、その方向が外部磁場方向に沿ったものと、外部磁場と逆方向に向いたものの2種類に分かれる。

外部磁場と逆方向の核スピンは磁場に逆らっているために、外部磁場方向に沿っている核スピンよりもエネルギーが少し高くなる。そのため、高いエネルギーをもつ核スピンの数は、少なくなる。つまり、エネルギーの低い状態の核スピンの数が多いという差がある状態で、核スピンは分配されていると考えられる。

そこで、このエネルギー差に相当するエネルギーを与えると、低いエネルギー準位に存在する核スピンのうち、高いエネルギー準位に存在する核スピンよりも過剰な核スピンは、高いエネルギー準位に跳ね上がる。そして核磁気共鳴現象が終わると、核スピンは、最初の状態に戻る。

このエネルギー (電磁波) の吸収と放出の過程を観測しているのが、NMR法である。

また、このエネルギーとしてラジオ波が用いられている。

NMR(核磁気共鳴)の原理について、こちらにもう少し詳しく説明している。

NMRにおいて重要な用語として、化学シフト、スピン-スピン結合、緩和がある。

化学シフト

化学シフト(ケミカルシフト、chemical shift) はNMRのチャートでは横軸に表される。つまりピークの位置が横軸でどの程度移動しているかと関係する。これは、観測している原子が、どのような化学的環境にあるかを示す。

外部磁場中に存在する核スピンのエネルギー準位の差は、その核の化学的環境に非常に敏感である。そして、化学シフトの値は、このエネルギー差に対応している。

化学シフトについては、NMRの化学シフト(ケミカルシフト)・基準物質・電子密度・磁気遮蔽・寄与する効果の記事にて詳しく説明している。

スピン-スピン結合

スピン-スピン結合(spin-spin coupling)は単にスピン結合(スピンカップリング、spin coupling) ともいう。スピン-スピン結合は、単純なシグナルを、複雑なシグナルに分裂させる働きをする。NMRでは隣接した原子核により、シグナルの分裂が起きる。よって、NMRスペクトルのピークの分裂から、原子の隣にいる原子や、分子中での原子の相対的なつながりを確かめる。

このスピン結合は、核磁気共鳴現象でのエネルギー準位が出現する数に対応している。

緩和

緩和 (relaxation) は簡単にいうと、一度吸収されたエネルギーが減衰していく過程のことである。具体的には、核スピンが核磁気共鳴現象前の状態に戻る過程に対応している。この緩和に必要な時間を測定することで、分子のなかで、その部分の動きやすさを考えることができる。この緩和は、NMRのピークの半値幅の変化などに現れる。