化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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NMR(核磁気共鳴)現象の基本的な原理の解説

核磁気共鳴現象の基本原理

核磁気モーメントについて

原子核が核スピン量子数jをもつとき、磁気モーメントが現れる。この原子核がもつ磁気モーメントを核磁気モーメントという。

磁場中に置かれた大きさ\muの核磁気モーメントのエネルギーは、次の式で表される。

 E = \mu B

ここでBは外部磁場の強さである。NMRでは、NMR装置の超伝導磁石の強さということになる。

ここで、mを磁気量子数とすると、m = I, I-1, I-2, ・・・, -Iである。このIは核スピン量子数である。 \gammaを核磁気回転比とし、核磁気回転比は原子核の種類によって決まった一つの値をとる。また、hはプランク定数とする。

すると、\muを次のように表すことができる。

 \displaystyle \mu = \frac{m \gamma h}{2 \pi}

1H核の場合

例として、1H核を考える。

I = \frac{1}{2}であるため、mm = -\frac{1}{2}, \frac{1}{2}という2つの値をとる。そして、これに対応した2つのエネルギー準位、\alpha準位と\beta準位に分裂する。

それぞれのエネルギー準位は次のように表すことができる。

 \displaystyle E_{\alpha} = - \frac{1}{2} \frac{\gamma h B}{2 \pi}

 \displaystyle E_{\beta} =  \frac{1}{2} \frac{\gamma h B}{2 \pi}

これらはそれぞれ外部磁場と平行方向(\alpha)の核磁気モーメントと、外部磁場と反対方向(\beta)の核磁気モーメントである。

外部磁場と反対方向(beta)のほうが、外部磁場に逆らうエネルギーが必要なだけ、エネルギー準位が高くなる。

このような、外部磁場中での核磁気モーメントのエネルギー準位の分裂をゼーマン分裂という。エネルギー準位の分裂間隔の大きさは次のように表される。

\Delta E = E_{\beta} - E_{\alpha} = \frac{\gamma h B}{2 \pi}

この\Delta Eは、ゼーマンエネルギーといわれる。

核磁気共鳴現象を起こすラジオ波のエネルギーがゼーマンエネルギーと一致したときにエネルギーの吸収が起こる。言い換えると、ラジオ波のエネルギーとゼーマンエネルギーが一致したときが、核磁気共鳴現象が起きる条件である。ラジオ波のエネルギーをh \nuで表すと、次の関係が成り立つ。

\displaystyle h \nu = \frac{\gamma h B}{2 \pi}

つまり、整理すると次のようになる。

\displaystyle \nu = \frac{\gamma B}{2 \pi}

よって、核磁気モーメントは、共鳴周波数nu Hzのラジオ波を照射したときにエネルギーを吸収する。

ラーモア歳差運動とラーモア周波数

また、外部磁場中で原子核は倒れかけているコマのように、円錐形を描きながら回転している。これをラーモア歳差運動という。

このラーモア歳差運動という回転運動の周波数が、NMRの共鳴周波数であり、ラーモア周波数といわれる。この歳差運動の角速度\omegaは次の関係が成立する。

\displaystyle \nu = \frac{\omega}{2 \pi} = \frac{\gamma B}{2 \pi}

つまり、\nu = \frac{\gamma B}{2 \pi}を満たす周波数のラジオ波が核磁気共鳴現象を起こす。

NMRのシグナルの強さ

NMRのシグナルの強さは、どれだけの数の核スピンがラジオ波のエネルギーを吸収して、上のエネルギー準位に上がったかによって決まる。

1H核の場合、\alpha準位から\beta準位へ上がる核スピンの数である。

そして、この数はラジオ波を照射する前の、両準位間の核スピンの数の差に依存する。ここでいうラジオ波を照射する前とは、外部磁場Bの中に入れた後、熱平衡状態に達したときのことである。

両準位にある核スピンの数の比は、ボルツマン分布によって与えられる。\alpha準位にある核スピンの数をN_{\alpha}\beta準位にある核スピンの数をN_{\beta}で表す。ボルツマン定数をkで、温度をTで表すと、ボルツマン分布に関して、式で次のように表すことができる。

\displaystyle \frac{N_{\alpha}}{N_{\beta}} \simeq 1+ \frac{1}{kT}  \frac{\gamma h B}{2 \pi}

実際に計算を行うと、最も感度の良い1H核でも、10-4 ~ 10-5程度の値となる。

つまり、上の\beta準位にある核スピンより下の\alpha準位にある核スピンの数の方が多いが、その差は非常に小さい。

よってNMRのシグナルも非常に小さくなる。そこで高感度で測定を行うために、強力な超伝導磁石を用いるようになっている。これはボルツマン分布の式の外部磁場Bを大きくするということになる。