電子のスピン
電子はスピン(自転運動)をしていることによって、磁性が現れる。ここでは、この磁性について考えていく。
電子は自転に対応するスピン角運動量をもつ。ここではプランク定数をで割った量である。は大きさの無次元の角運動量演算子でスピンと呼ばれる。
スピンは成分が
で定義されるパウリのスピン演算子を用いて、次のように表される。
電子スピンの大きさが整数ではなくであることは、ゼーマン効果の観測、シュテルンゲルラッハの実験、電子がフェルミ統計に従うことによって証明されている。
スピン磁気モーメント
電荷をもつ粒子が自転をすると、自転軸のまわりに小さな円電流が生じる。そのため、粒子は磁気モーメントをもち、小さな磁石として振る舞う。これは電子にも当てはまる。
そのため電子は以下の式のようなスピン磁気モーメントをもつ。
上の式の右辺の符号が負であるのは、電子が負電荷をもつためである。
ここで、 はボーア磁子といわれ、次の式で表される。
上の式のは電子の質量、は光の速さ、は電気素量である。
スピン磁気モーメントの式のはg因子といわれる。磁場以外になにも影響を受けていない自由な電子の場合、はつぎのように表される。
g因子が1と異なり、ほぼ2になるのは、相対論効果によるものである。g因子を与える上の式の右辺の第1項の2は電子の相対論的量子力学を記述するディラック方程式の1/c展開から導かれる。第2項以上は高次の補正を表す。
は微細構造定数といわれる無次元量であり、次のように表される。
一般的に磁性では顕著な相対論効果が現れる例は少ないが、電子のg因子とスピン軌道相互作用には、顕著な相対論効果が現れる。
電子を外部磁場の中におくと、スピン磁気モーメントと外部磁場との相互作用は次のように表される。
エネルギーはスピンの磁場方向成分(z成分)の値 に対応して以下のように2つに分裂する。
このとき、分裂した2つのエネルギーの差はになる。このに対応した磁場中でのエネルギーの分裂を、スピンによるゼーマン効果という。