原子核の化学
放射線や核に関する化学は、1896年にフランスの物理学者アントワーヌ・ベクレルが発見した放射能に始まります。その後、20世紀から21世紀にかけてエネルギー、医療、地質など様々な技術の基礎となりました。
原子の原子核は陽子とを除く中性子で構成されています。
よく、原子核に含まれる陽子の数をその元素の原子番号(Z)、陽子の数と中性子の数の和を質量数(A)といいます。原子番号が同じで質量数が異なる原子は、同じ元素の同位体といわれます。
1種類の原子核を指す場合、核種という言葉を使うことが多く、Xは元素記号、Aは質量数、Zは原子番号(例えば)であるという表記がされます。
多くの場合、核種は日本語では、元素の後に質量数を、英語では元素名の後にハイフンを付け、質量数で呼ばれることが多いです。例えば、は "炭素14 "や"Carbon-14"と呼ばれます。
陽子と中性子をまとめてして核子と呼びますが、この核子がぎっしりと詰まっているのが原子核です。原子核の半径は程度で、原子全体の半径が程度であることと比較すると、非常に小さいことがわかります。
また、原子核の密度はと、物質全体の密度に比べて非常に高いことがわかります。
例えば、水の密度はであり、最も密度の高い元素の一つであるイリジウムの密度はです。
地球の密度に例えると、地球が平均的な核密度と同じとすると、地球の半径は約200mになります。一方で、実際の地球の半径は約6.4×106mで、3万倍の差があることがわかります。
原子核という非常に小さい体積の中で、正電荷を帯びた陽子同士をつなぎ合わせるには、非常に強い引力が必要となります。しかしながら、正電荷の陽子同士は、短い距離では強く反発しあいます。この原子核をまとめる引力は「強い核力」です。
(強い核力は、電磁気力、重力、核の弱い力という計4つの基本的な力のうちの1つです)。
この力は、陽子間、中性子間、陽子と中性子の間に作用します。これは、正電荷の原子核の周りに負電荷の電子を保持する静電気力(反対電荷間の引力)とは違うものです。原子核内では、10-15m以下の距離では、陽子間の静電反発よりはるかに強く、それ以上の距離や原子核の外では、基本的に存在しません。
原子核結合エネルギー
強い核力に関連するエネルギーの例として、2個の陽子、2個の中性子、2個の電子からなるヘリウム原子を考えてみます。この6つの素粒子の総質量は、次のように計算できる。
陽子+中性子+電子=
(2×1.0073 amu)+(2×1.0087 amu)+(2×0.00055 amu)=4.0331 amu
しかしながら、質量分析の結果、原子の質量は4.0026amuであり、構成する6つの素粒子の質量の合計よりも小さいことがわかっています。
この計算値と実験値の差は、原子の質量欠損と呼ばれます。
ヘリウムの場合、質量欠損は4.0331 amu - 4.0026 amu = 0.0305 amuの質量の「損失」があります。陽子、中性子、電子から原子が形成される際に生じる質量の損失は、原子が形成される際にその質量がエネルギーに変換されるためです。
原子核結合エネルギーは、原子の核子同士が結合するときに発生するエネルギーで、原子核を陽子と中性子に分解するときに必要なエネルギーでもあります。また化学結合エネルギーと比較すると、核結合エネルギーは非常に大きいことが知られています。従って、核反応に伴うエネルギー変化は、化学反応に比べて非常に大きいものとなります。
質量とエネルギーの変換は、アインシュタインが示した質量とエネルギーの以下の等価式に表されます。
ここで、Eはエネルギー、mは変換される物質の質量、cは真空中の光速です。この式は、物質がエネルギーに変換されたときに生じるエネルギー量を求めるために用いることができます。この質量エネルギー等価式を使って、原子核の質量欠損から原子核の結合エネルギーを計算することができます。核結合エネルギーには、電子ボルト(eV)などさまざまな単位が使われます。1eVは電子の電荷を1ボルトの電位差で動かすのに必要なエネルギー量に等しく、1eV=1.602×10-19Jとなります。
結合の切断や形成に伴うエネルギー変化は、原子核の切断や形成に伴うエネルギー変化に比べて非常に小さいので、通常の化学反応における質量の変化はほとんど検出されません。
最もエネルギーの高い化学反応は数千kJ/molといったエンタルピーを示し、これはナノグラム領域(10-9g)の質量差に相当します。一方、原子核結合エネルギーは数十億kJ/molであり、ミリグラム(10-3g)単位の質量差に相当します。
原子核の安定性
原子核が安定であるのは、外部からエネルギーを加えないと別の配置に変化しない場合です。
数千種類ある核種のうち、安定な核種は約250種類あります。安定な原子核の陽子数に対する中性子数をプロットすると、安定な同位体は狭い帯域に分布することがわかります。この領域は安定帯(安定の谷とも呼ばれます)と呼ばれます。
図1の直線は、陽子と中性子の比(n:p比)が1:1の原子核を表しています。
一般に軽い安定核は陽子と中性子の数が同じです。例えば、窒素14は陽子7個、中性子7個です。しかし、重い安定核は、陽子より中性子の数が多くなっていきます。例えば、鉄56は中性子30個と陽子26個でn:p比は1.15ですが、安定核の鉛207は中性子125個と陽子82個でn:p比は1.52となります。
これは、原子核が大きいと陽子と陽子の反発が大きくなり、この静電反発に打ち勝って原子核を保持するための強い力を補うために、より多くの中性子が必要になるためです。
安定帯の左側または右側にある原子核は、不安定で放射能を示します。これらの原子核は、安定帯の中または近くにある他の原子核に自発的に変化(崩壊)します。このような核崩壊反応により、ある不安定な同位体(または放射性同位体)が、より安定な別の同位体に変化します。
原子核の安定性とその構造との関係については、いくつかの方法で推測することができます。
陽子、中性子、またはその両方の数が偶数である原子核は安定である可能性が高いでっす。
また魔法数(マジックナンバー:2, 8, 20, 28, 50, 82, 126)と呼ばれる特定の数の核子を持つ原子核は、核崩壊に対して安定です。これらの数の陽子または中性子(2, 8, 20, 28, 50, 82, 126)は原子核の中で完全な殻を作るからです。これは、希ガスの安定な電子殻と同じような考え方です。
のように陽子と中性子の両方が魔法数である原子核は「ダブルマジック」と呼ばれ、特に安定です。
参考文献
ISBN-10: 1-947172-61-1
ISBN-13: 978-1-947172-61-6
本文献にはCCBYのライセンスが付与されています。