化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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金属の性質・最密充填構造・硬さ・展性・延性について

金属の定義について

金属とは、ある元素の原子が多数集合して単体となったときに、特徴的な性質を示す物質であり、その元素のことは金属元素と定義される。

特徴的な性質とは次の3つの性質である。

1. 熱伝導性および電気伝導性が高い。また、電気伝導率は温度の上昇とともに低下する。

2. 優れた展性および延性を示す。展性とは薄い箔に広げられる性質、延性とは細い線に引き伸ばせる性質である。

3. 金属光沢をもつ。これは、金属単体が可視光全域の光をよく吸収し、また反射するためである。

 

金属の性質について

固体の金属は結晶である。そして、金属を構成する原子は三次元的な周期性をもって配列している。その配列の仕方は、同じ大きさの球で三次元的空間を最も密に詰めたときの配列である。具体的には、ビー玉やピンポン玉のような同じ半径の球を箱に詰めるときの配列の仕方で考えることができる。

つまり金属中の個々の原子は球とみなすことができる。

最密充填構造について

この最も密に詰めたときの配列を最密充填構造、または単に最密構造という。
最密充填構造には、六方最密充填構造(hcp構造)と立方最密充填構造がある。六方最密充填構造は、球を3層積み重ねたときに、第1層の球の真上に第3層の球が存在する詰め方による構造である。立方最密充填構造は、球を3層積み重ねたときに、第3層の球が第1層と第3層の隙間の真上に存在する詰め方による構造である。

最密充填構造では、一つの球の周囲に隣接する他の球の数は12である。この球の数を配位数という。

球が、空間を占める割合のことを充填率という。最密充填構造では充填率は74.1%になる。

最密充填構造以外に単体金属でよくみられる構造が体心立方構造(bcc構造)である。
体心立方構造は最密充填構造と比較すると、空隙が多くなり、充填率は68.1%である。アルカリ金属は体心立方構造をとる元素である。
このように原子が一定の配列をつくる理由は、原子間に結合力が働いているためである。金属結晶を形成する結合を金属結合という。結合力が大きいほど、原子と原子との間の距離は短くなる。この原子と原子の間の距離を原子間距離という。

金属の硬さについて

原子間距離は金属の硬さを決定する要因の一つである。最近接原子間の距離の半分を金属結合半径という。金属結合半径が小さいほど、その金属は硬いことが予測できる。アルカリ金属の中では金属結合半径の最も小さいリチウムが一番硬い。
実際の金属結晶は多くの結晶粒子の集合体であることが多い。この場合、硬さは結晶粒子と結晶粒子の結びつきに支配される。タングステン、ネプツニウム、オスミウム、レニウム、ルテニウムは非常に硬い金属である。これらは、金属結合半径が小さい元素である。
固体を加熱すると、温度の上昇とともに原子の熱振動が大きくなる。そして、融点に達すると、各原子は固体であったときに占めていた位置を離れて移動するようになる。融解した金属では原子の配列の規則性は失われる。このとき特定の原子に着目すると、それと接している原子は絶えず入れ替わっている状態である。原子間に働く力が大きいほど、原子はその力を上回って自由に移動するためには、金属を高温にする必要がある。つまり、硬い金属ほど融点は高くなる。
金属原子では、最外殻の電子数が増加するほど、金属結合半径は小さくなる。さらに、最外殻の電子数が増加すると、融点も上昇する。つまり、最外殻の電子が原子と原子を結びつける役割を果たしていることを意味している。

元素周期表と金属の性質について

元素周期表で考えると、同じ周期の元素は、原子番号の増加とともに、金属結合半径は小さくなり、金属の融点は上昇する。ただし、3~10族の元素ではd軌道に電子が充填されるため、半径は少しずつ減少する。これは、最外殻電子の他にd軌道の電子も金属結合の生成に関与することを意味する。

同じ族の元素で比較をしてみると、原子番号の増加とともに金属結合半径が大きくなり、金属の融点は低くなる。ただし、この関係は1~10族の元素で成立し、11族以降の元素ではこのような関係はみられない。

金属の展性・延性について

金属の特徴として、展性、延性がある。これは、結晶中の原子面を境にして、上の部分と下の部分がすべりを起こす現象と考えることができる。

金属は陽イオンの原子核と周囲に広がっている自由電子雲の相互作用によって、結晶構造を維持し固体となっている。この金属の結合は自由電子雲を介しているため、原子核のずれに対して大きな抵抗がなく、金属の延びやすい延性や拡がりやすい展性を示している。

原子核のずれやすさは、電子軌道の方向性(異方性)がないほどずれやすくなる。そのため、結合の軌道がp軌道やd軌道ではなく、異方性のないs軌道が主体となっている金属のほうが展性や延性に有利になる。

原子と原子の結びつきが弱いほど金属は軟らかいが、純金属では軟らかくても、合金にすると固くなる場合がある。これは、大きさの異なる原子が結晶中で共存している場合、小さい原子がすべりが起こるのを妨げるためである。特に、ホウ素、炭素、窒素のような小さい原子が金属原子間の隙間に入りこんだときに、この現象が起こる。このような合金を侵入型合金という。

銑鉄は侵入型合金の例であり、銑鉄は3.0~4.5%の炭素を含む鉄である。銑鉄は硬くて脆いが、これは鉄原子の隙間に小さい炭素原子が入り込み、炭素原子が鉄原子面間のすべりを妨げるためである。