黒色火薬について
黒色火薬は硝酸カリウム、硫黄、木炭の混合物である。硝酸カリウムのことは硝石や塩硝ともよばれていた。近代火薬が発明される以前は、黒色火薬が唯一の火薬であった。
日本では硝石は産出しないため、江戸時代に鉄砲を利用するためには、硝石を輸入する必要があった。
硝石の製造について
"五ヶ山塩硝出来の次第書上申帳"(1811年)に加賀藩の藩内の五箇山で硝石を製造していたという記録が残されている。そこに記載されている手順は次の通りである。
原料は、畑土、蚕の糞、さくである。さくとはウドに似た草でありキツネウドともいわれている。まず、土と蚕の糞よく混ぜて、民家の床下に掘った穴の中に入れ、その上に草をのせる。さらに蚕の糞をのせ、何層にも積み重ねていく。これを1年間そのまま放置し、その後ときどき切り混ぜながらさらに数年間放置する。
この過程で糞の中の有機窒素化合物は分解してアンモニアとなる。このアンモニアを酸化することで硝酸塩となるが、これは硝化菌の硝化作用を利用している。この硝酸塩を含む土である塩硝土を取り出し、水で抽出する。溶液を鉄鍋で煮詰め、木灰を加えてさらに濃縮すると粗製の硝酸カリウムが析出する。これを精製して無色の結晶とした上質品を加賀藩に納めていたようである。
五箇山は交通が不便であったが、その五箇山で硝石を製造した理由は燃料の薪の入手が容易であったことに加えて、機密保持のためであると考えられている。