塩化物イオン測定法
例えば、水道水は塩素殺菌されている場合が多い。こういった水道水は多くの塩化物イオンを含むことがある。
このような溶液に含まれる塩化物イオンを測定する方法として、塩化物イオンが銀イオンと難溶性の沈殿を生成することを利用する方法があり、銀滴定といわれる。この銀滴定は沈殿滴定の一種であり、標準溶液として硝酸銀溶液を使用する容量分析法である。
この銀滴定で使用される終点の決定法にはモール法やファヤンス法などがある。
モール法とは
塩化物イオンの銀滴定の場合にクロム酸カリウムを指示薬として用いる方法である。K.F.Mohrによって考案されたことからこの名がついている。モール法ではハロゲン化銀とクロム酸銀の溶解度の差を利用する。
中性から塩基性(pH 7〜10)の溶液100 mL に5% クロム酸カリウム溶液1 mL を加えて、硝酸銀標準液で溶液が黄色から微赤褐色になるまで滴定する。
この滴定では、まず硝酸銀と塩化物イオンから塩化銀の沈殿が生じ、その後、このクロム酸銀 (Ag2CrO4) の淡赤褐色沈殿生成によって終点を判定する。
CrO42-(黄色) + 2Ag+→ Ag2CrO4(赤褐色)
また、塩化物イオンの濃度が薄い場合は、塩化銀の沈殿生成が終了しても、クロム酸銀の沈殿が生じないため、終点補正をする必要がある。
指示薬の濃度は0.002 Mから0.005 Mの間である場合が多く、指示薬の濃度は重要となる。なぜなら塩化銀の飽和液となる当量点でクロム酸銀の沈殿生成が始まるようにする必要があるためである。
から当量点でのAg+の濃度は10-5 Mとなる。そのため、クロム酸銀はAg+の濃度が10-5 Mとなるときに沈殿が起こる必要がある。クロム酸銀の溶解度積は1.1×10-12 であることからクロム酸銀の沈殿が起こるためには[CrO42-]は0.011 Mであることが必要となる。
CrO42-の濃度が0.011 Mより高い場合には、Ag+の濃度が10-5 M未満の当量点より手前でクロム酸銀の沈殿が起こる。また、CrO42-の濃度が0.011 Mより低い場合には、Ag+の濃度が10-5 M以上の当量点を過ぎたところで、クロム酸銀の沈殿が起こる。
また指示薬の濃度が0.005 Mより高い場合は、クロム酸イオンの黄色が濃くなりクロム酸銀の赤色の沈殿が見えにくくなるという問題も生じる。
中性から塩基性(pH 7〜10)で行う理由
モール法ではpHは8で行うことが一般的である。
被滴定溶液が酸性になると次の平衡が右に偏り、赤橙色の重クロム酸イオンが生じる。重クロム酸銀の溶解度積はあまり小さくないため、終点が不明瞭となる。
2CrO42- + 2H+ ⇄ 2HCrO4- ⇄ Cr2O72- + H2O
被滴定溶液の塩基性が強いと、銀イオンが水酸化物イオンと反応し、酸化銀 (Ag2O) の沈殿が生じる。
そのためpHを適切な条件で維持するために溶液に炭酸カルシウムを入れておくことが多い。