過マンガン酸カリウム滴定法
過マンガン酸カリウム滴定法は、頻繁に用いられる滴定法の1つである。
過マンガン酸カリウム滴定法の利点の1つは、終点の検出に指示薬がいらないことである。過マンガン酸カリウム標準溶液は、それ自体がMnO4-の赤紫色をしており、当量点前は、MnO4-が全て消費されて、Mn2+となるため、無色になる。実際にはMn2+は非常に淡いピンク色をしているが、吸光係数が低いため、ほぼ無色に見える。
一方で、当量点を過ぎるとMnO4-の色が残ることで、溶液が淡いピンク色になるため、終点が求められる。MnO4-の半反応式は以下のようになる。
過マンガン酸カリウム滴定とCOD測定
過マンガン酸カリウム滴定法はCOD (chemical oxygen demand、化学的酵素要求量)の測定方法の1つである。COD は河川、湖沼、海域などの水質の指標として用いられている。
これは、一定の条件下で酸化剤と反応する被酸化性物質の量を、それを酸化するために必要な酸素量として表したものである。他には、CODと似たものとして、水中の有機物などを好気性微生物が酸化分解する際に必要な酸素量を表す、生物化学的酸素要求量(biochemical oxygen demand、BOD)もある。COD、BODはどちらも値が大きければ大きいほど、水質は悪いと判断する。
CODを測定する場合の過マンガン酸カリウム滴定法は、逆滴定である。
COD 測定では、一定体積の硫酸酸性の試料溶液を用意する。ただし、塩化物イオンが存在する場合は、硝酸銀などを加えて、塩化物イオンを除去しておく。
この溶液に対して、過マンガン酸カリウム水溶液を過剰量添加し、沸騰水浴中で30分適度、加熱した後、シュウ酸ナトリウム水溶液を過剰量添加する。これによって過剰の過マンガン酸イオンを還元する。
そして、過剰に存在するシュウ酸イオンを過マンガン酸カリウム水溶液で逆滴定する。
この酸化還元滴定では、標準溶液としてシュウ酸ナトリウム溶液が用いられる。
シュウ酸イオンの反応式は以下のようになる。
そのため、硫酸酸性の条件下で、シュウ酸ナトリウム水溶液を、過マンガン酸カリウム溶液で滴定するときの全体の反応式は以下のようになる。
つまり、反応するMnO4-のとC2O42-の物質量の比は2:5 である。
過マンガン酸イオンではなく、酸素が4 電子還元を受ける場合は、式は以下のようになる。
そのため、同物質量の被酸化性物質を酸化するためには、MnO4-に対して1.25 倍の物質量のO2が必要となる。
CODの求め方
例えば、100 cm3の環境試料水のCODを測定し、逆滴定時に5 mmol dm-3 のKMnO4溶液( f = 0.95)が、10.0 cm3必要だったとする。
酸化に必要であるMnO4-の物質量は、以下のようになる。
酸化に必要なO2の質量に換算すると次のようになる。
よって、試料水1 dm3の酸化に必要なO2の質量g dm-3 は以下のようになる。
過マンガン酸カリウム水溶液の滴定で逆滴定を行う理由
逆滴定を行い、試料をはじめから過マンガン酸カリウム水溶液で滴定しない理由は、この反応が非常に遅いためである。環境水中の有機物等の被酸化性物質は、滴定を行う程度の短い時間では充分に酸化されないものが多い。
そのため過剰の過マンガン酸イオンを添加し、沸騰水中で時間をかけて反応を進行させる。実際には、これでもすぐに反応は完了せずに、徐々に反応が進行していくことが予想される。そこで、反応時間を統一させるために、一定時間経過後に過剰のシュウ酸を一度に添加し、過マンガン酸イオンによる酸化反応を完了させる。
このとき余ったシュウ酸を、再び過マンガン酸滴定によって定量している。
先に過剰になった過マンガン酸イオンをシュウ酸で滴定せず逆滴定で測定するの理由は、このように酸化反応を一定時間で終了させることが1つである。
もう1つの理由は、終点判別をしやすくするためである。
滴定の終点を見分ける時に、無色から赤色に呈色したことを観測するほうが、赤色から無色に変化することを観測するより、見分けやすくなる。