基質と活性中心
酵素作用によって変化を受ける物質を基質(substrate)という。
酵素は触媒の一つなので、基質と比較して微量でその機能を発揮する。酵素反応において基質は一度酵素タンパク質に結合した後、変化を受ける。酵素タンパク質分子中の基質の結合部位や反応部位を酵素の活性中心(active center)という。
酵素の反応特異性と基質特異性、光学特異性
酵素は一般的な触媒と異なり、酵素が触媒する反応の種類と基質が非常に限定されている。この酵素特有の反応の種類に対する選択性を反応特異性(作用特異性)と基質の種類に対する選択性を基質特異性という。多くの酵素では、反応特異性が非常に高く、一つの酵素が触媒する反応は限定されている。しかし、基質特異性は非常に高い酵素からそこまで高くない酵素まで様々である。
基質特異性のうち、光学異性体に関する選択性を光学特異性という。光学特異性は、ほぼすべての酵素がもっている。例えばある酵素はL体のアミノ酸は加水分解するが、D体の同じアミノ酸には作用しない。
酵素の鍵と鍵穴説
この酵素の特異性は、酵素反応の際に一度、酵素と基質の結合体ができるためであると考えることができる。酵素タンパク質の活性中心はある一定の立体構造をしている。そのため、その構造に適合する基質しか結合できないため、酵素が作用する基質は限定される。この考えは、鍵と鍵穴の関係に例えられることが多く、鍵と鍵穴説 (Lock and key theory) と呼ばれている。
酵素の最適pH
酵素タンパク質は両性電解質である。そのため、酵素タンパク質は溶液のpHによって解離の状態が大きく変化し、立体構造も変化する場合がある。このような変化は、酵素と基質の複合体の形成に影響する。そのため、多くの酵素は狭いpH領域で活性であり、最大の活性となるpHを最適pH (optimum pH) という。最適pHは酵素の種類によって異なり、同じ酵素でも基質により最適pHが異なる。最適pHはpH7~8である酵素が多いが、最適pHがpH1.5~2のような強酸性域にあるものやpH9~10のような強塩基性域にある酵素もある。
酵素の最適温度
最大の酵素活性を与える温度を最適温度 (optimum temperature) という。酵素反応は、一般的な化学反応と同様に、温度の上昇に依存して反応速度も増大する。しかしながら、酵素はタンパク質であるため、ある温度以上では熱変性が起き活性が失われる。このような酵素の活性が失われる現象を失活という。失活が起こるため、見かけ上の反応速度は最大となる温度が生じ、この温度が最適温度となる。多くの酵素の最適温度は38℃前後であるが、最適温度が60℃以上の耐熱性の酵素も存在する。