化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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サイクリックボルタンメトリーについて

ボルタンメトリーとは

ボルタンメトリー(voltammetry)とは試料溶液の中へ作用電極と参照電極を設置し、この2つの電極間に電圧を加え、対応して流れる電流と電圧の関係を調べる方法の総称である。ここで作用電極とは、酸化還元の挙動を観測する電極であり、白金電極やグラッシーカーボン電極などが使われる。参照電極は標準水素電極(SHE)などの電位の基準となる電極である。

ボルタンメトリーは電圧の単位であるボルト(volt)、電流の単位であるアンペア(ampere)、測定を意味するメトリー(metry)を組み合わせた単語である。

ボルタンメトリーの中でも、最もよく使われている方法がサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry, CV)である。

サイクリックボルタンメトリーについて

サイクリックボルタンメトリーでは、酸化還元される物質(電極活性物質)の溶液に加える電圧を時間とともに山なり状に掃引する。

ここで最初は溶液に酸化体(Ox)が存在せず還元体(Red)のみが存在する場合を考える。

電位を掃引開始電位E_Aから正側に掃引すると、ある電位で作用電極表面では下に示すような酸化反応が起こる。

 \rm Ox + ne^- → Red

そして、酸化反応が起こることで酸化電流が流れる。

酸化が進むと電極近傍の還元体の濃度はほぼゼロになり、還元体は拡散によって溶液から電極に供給される分のみとなる。よって、酸化電流はある電位でピークに達した後、減少していく。

サイクリックボルタンメトリーでは、ある電位で掃引する電圧の向きが逆転する。作用電極の電位は負側に掃引され、作用電極表面では還元反応が起こる。

電極反応が可逆な系では酸化ピーク電流i_{pa}と還元ピーク電流i_{pc}の間に次の関係が成り立つ。

 |i_{pa}| = |i_{pc}|

電極に平面電極を用いた場合は、|i_{pa}|もしくは|i_{pc}|は、酸化もしくは還元のピーク電流を|i_{p}|、電極表面積(cm2)をA、電極活性物質の濃度(M)をc、電極活性物質の拡散係数(cm2 s-1)をD、掃引速度(V s-1)をvとすると次の関係が成り立つ。

 |i_{p}| = 269An^{3/2}cD^{1/2}v^{1/2} 

酸化ピーク電位E_{pa}と還元ピーク電位E_{pc}の差\Delta E_pは25℃において次の値を与える。

\displaystyle \Delta E_p = E_{pa} - E_{pc} = ~ \frac{60}{n}

また、\displaystyle E_{1/2} = \frac{E_{pa} + E_{pc}}{2}とすると、酸化体と還元体の拡散係数が等しい場合には E_{1/2}は反応の標準酸化還元電位E゜と等しくなる。また、酸化体と還元体の拡散係数が等しいという近似は成り立つ場合が多い。

よってサイクリックボルタンメトリーを用いることで、簡便に標準酸化還元電位E゜、つまり自由エネルギー変化を測定することができる。

電極反応の可逆性が減少すると、酸化ピーク電位E_{pa}と還元ピーク電位E_{pc}の差が増大する。また、完全に非可逆になると酸化電流または還元電流のどちらか一方しか観測されなくなる。