化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【電気化学】ネルンストの式・平衡電位・セル電圧の解説

ネルンストの式

電気化学や分析化学において、電極電位を考えることが必要になることが多い。

標準電極電位は酸化体と還元体などの、全ての化学種の活量が1の場合である。標準電極電位は記号は E^{\circ}で表されることが多い。

この標準電極電位が決められた後、ネルンストが、より実用的なものを、電位と濃度の定量的な関係を使って作成した。ネルンストは、電位が化学種の濃度に依存するものとして、その関係を式に表した。これが、ネルンストの式である。

以下の酸化還元反応式を考える。酸化体が \mathrm{Ox} 、還元体が \mathrm{Red}である。nは反応電子数である。abは定数である。

 a \mathrm{Ox} + n \mathrm{e^-} \rightleftharpoons b \mathrm{Red}

この時、ネルンストの式は以下のようになる。

 \displaystyle E = E^{\circ} - \frac{2.3206RT}{nF} \log \frac{ [ \mathrm{Red} ]^b } {[ \mathrm{Ox} ]^a  } 

Eはある濃度における電位であり、単位はVである。Rは気体定数であり、8.3143 V C K-1 mol-1である。

Tは絶対温度で単位はKである。Fはファラデー定数であり、96487 C  mol-1である。

そのため、25℃ (298.15 K)では、 \frac{2.3206RT}{F}の値は、0.05916 Vとなる。

また純粋な固体や純粋な液体の濃度(活量)は1として扱う。logの項は還元体の濃度/酸化体の濃度となっている。

ネルンストの式は、酸化還元滴定で扱うことが多く、酸化還元滴定の終点測定では、電位が大きく変化するため、活量ではなく濃度を用いても、大きな誤差は生じなくなる。

平衡電位

酸化還元滴定の途中のある点など、平衡状態にある二つの半反応に関与するイオンを含む溶液中の不活性な電極(電極自体は反応しない安定な電極)の電位は、どちらの半反応に関するネルンストの式を用いても計算することができる。

例えば、Fe2+、Fe3+の平衡状態にある溶液に、Ce4+を加え、Ce4+とCe3+の平衡が起こっている場合などが当てはまる。

これは、滴定試薬を加えた後に、二つの半反応のそれぞれの電位が等しくなる状態で平衡となるためである。二つの電位が異なっている場合には、、まだ平衡に達していないため、反応が継続している状態である。

溶液中の電極電位は、このように決定できる平衡電位となり、平衡電位はいずれかの半反応の平衡濃度とネルンストの式から求めることができる。

もし、滴定曲線をプロットする場合には、電極の平衡電位(二つの半反応式の電位差が0になったときの電位)が必要となる。

セル電圧

セルの電圧を求めるためには、2つの半反応の電位の差を、ネルンストの式によって求めることで、求めることができる。

 E_{cell} = E_+ - E_-

また、標準電極電位の差はセル標準起電力 E^{\circ}_{cell}となる。

2つの半反応から求められるセル電圧は、反応物質を混ぜた場合の反応の起こりやすさを熱力学的に表す値ともなる。そのため、電圧は仕事のしやすさの指標とも考えることができる。

反応が平衡に達した場合、セル電圧は0となる。つまり、反応は完結し、それ以上の仕事は行うことができない。例えば、電池を完全に放電した状態はこれに該当する。

またセル電圧が0の時、平衡状態であり、2つの半反応の電位は等しくなる。