AI・機械学習と化学物質の合成
近年の科学技術の発展の中でもAIや機械学習は注目されている分野ではないでしょうか。
Nature誌に2016年に機械学習と化学物質の合成に関する研究が報告されています。
Machine-learning-assisted materials discovery using failed experiments
Nature, 05 May 2016, 533, 73-76
AIと機械学習
まずは、AI(artificial intelligence、人工知能)と機械学習の関係についてですが、人工知能と機械学習とディープラーニングについて調べると、AIの中に機械学習も含まれると考えて良さそうです。つまり、この研究は広い意味ではAIと化学に関する研究といえます。
機械学習と水熱合成法
具体的には、この研究は、テンプレート法(鋳型法)を用いて亜セレン酸バナジウムという化学物質の結晶が合成できる条件を機械学習を用いて検討したという内容です。ここで用いられた合成方法は水熱合成法、もしくはソルボサーマル法と呼ばれるもので、比較的シンプルな合成法になります。ただし、シンプルとはいってもその中で起こっている反応のメカニズムを完全には理解できておらず、現在でも研究者の経験や勘で合成が行われている場合が多いです。
After excluding reactions with incomplete laboratory notebook entries, 3,955 unique, complete reactions remained for use in training and testing the machine-learning model.
引用:Nature, 05 May 2016, 533, 73-76
本文にあるように、機械学習のために、3955パターンの反応のデータを利用し、学習を行っています。実際に人間では、これだけの種類の反応を頭に入れるだけでも時間がかかることを考えると、機械学習は人間を上回っている部分があるなと実感します。また、ここでは実験のノートから合成が成功していないと判断されたデータも利用したようです。
ここでは機械学習の手法としてはサポートベクターマシーン(SVM)を利用しています。
Reactions recommended by the model had an 89% success rate, as defined by the synthesis of the target compound type in either a polycrystalline or single-crystal form, and success rate was independent of the structural similarity of the amine.
引用:Nature, 05 May 2016, 533, 73-76
肝心の結果ですが、驚異の89%の精度で、結晶を得られる反応の条件を予測できたということです。これだけの予測ができるのであれば、充分実際の材料開発にも適用することができると思います。論文でも触れられていますが、89%の精度での予測は人間の直感的な判断よりは優れていると言って差し支えないと思いますね。
このような論文が2016年の時点ですでに、報告されているというのは驚きではないでしょうか。