化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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アダムソンの規則について

アダムソンの規則について

アダムソンの規則(Adamson's rule)とはCr(III)錯体の光アクア化を総括して得られた、どの配位子が置換するかという経験則である。光アクア化反応とは、水に溶かした錯体に光照射したときに、配位子が水で置換される反応である。

アダムソンの規則は次の二つから成る。

第一則:正八面体型錯体の6個の配位子が金属を通る3本の直行する軸上にある場合を考える。つまり配位子がx軸上、y軸上、z軸上にある場合を考える。このとき3軸のうち軸平均の配位子場の最も弱い軸上の配位子が光励起によって置換活性となる。

第ニ則:置換活性になる軸上の配位子が異なる場合には、強い配位子場をつくる配位子の方が優先的に置換活性となる。

例としてtrans-[CrCl(NCS)(en)2]+の水溶液に光照射する場合を考える。このときNCS-配位子がH2Oで置換されて[CrCl(H2O)(en)2]+が生成する。

これは、分光化学系列も含めて考えると、軸平均の配位子場の最も弱い軸はCl-Cr-NCS軸であり、これに第一則が適用される。次に第ニ則を考えると、二つの配位子では、NCS-配位子の方がCl-配位子より強い配位子場をつくるためにNCS-配位子が置換活性となる。よって、アダムソンの規則により、置換される配位子を予測することができる。

アダムソンの規則は、アクア化以外の光置換反応全般にも適用できる経験則であり、クロム(III)錯体の他にもコバルト(III)錯体やロジウム(III)錯体などの光置換反応にも適用することができる。

しかしながら、例えばF-を含む錯体では例外も多い。