化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

水素の性質、同位体、製法についての解説

水素について

水素(H)は原子番号1番である。

このことから、最も単純な元素とも考えられている。

水素は宇宙で最も多量に存在する元素である。存在する元素の約76%が水素である。

水素は1族元素であるが、他の1族元素とは異なる点が多い。例えば、電気陰性度が高い点、原子の大きさが小さい点、相手を分極する能力が高い点が挙げられる。

水素が電子を1個放出すると、水素イオン(H+)となる。水素イオン(H+)は非常に高い電荷密度をもつため、多くの場合は水和している。

水素が電子を1個受け取ると、水素化物イオン(H-、ヒドリド陰イオン)となる。水素化物イオンは希ガスのHeと同じ電子配置をもつ。水素化物イオンは核引力が弱いので、半径はF-とCl-の間の値となる。

水素が他の元素と結合すると水素化物と呼ばれる化合物になる。

水素の同位体について

水素には3種類の同位体がある。

1Hは軽水素もしくはプロチウムといわれ、Hで表される。陽子数は1、中性子数は0である。

 2Hは重水素もしくはデューテリウムといわれ、Dで表される。陽子数は1、中性子数は1である。

 3Hは三重水素もしくはトリチウムといわれ、Tで表される。陽子数は1、中性子数は2である。また放射性元素であり、半減期は12.26年である。

3つの同位体は反応速度が異なる。これを同位体効果という。しかし、それ以外は化学的に等価であるといえる。例えば、水を電気分解すると水素分子が生成するが、生成した水素分子は1Hの割合が多くなる。そして残った水には質量が大きく反応が遅いDの割合が多くなる。

三重水素は大気圏の上層部で14Nが宇宙線と衝突するときに生成する。他に原子炉でLiと中性子が衝突するときに生成する。

水素分子の性質について

水素分子(H2)は結合解離エネルギーが大きい。このため、室温では比較的反応不活性な分子である。しかしながら、高温条件下や触媒存在下では、水素分子はほとんどの元素と反応する。

低圧の水素ガス中で電気放電を行うと、原子状の水素Hが生成する。この原子状の水素Hは非常に反応活性である。この場合は水素分子が反応するために必要な水素の結合解離エネルギーが放電によって供給されるために反応活性となっている。

単体の水素分子は還元剤であり、多くの金属酸化物を金属に還元する。このとき、副生成物として水が生成する。また炭素間での三重結合や二重結合をもつような、不飽和有機化合物を水素化して、炭化水素のような飽和有機化合物に変換する。この水素化のことを水素添加と表現することもある。例えば、ニッケル触媒を用いることで、植物油を部分的に水素化して、マーガリンを生産することがある。

水素の製法について

 電気分解

水の電気分解により、水素を得ることができる。この方法は水素の実験室的な製法としても知られている。

2H2O→2H2+O2

炭化水素の改質

 ニッケル触媒上で炭化水素と水蒸気を約800°Cで反応させることにより、水素を得ることができる。例えば天然ガス由来のメタンを改質することで、水素を得ることができる。これは水素の工業的な製法の一つである。

CH4+H2O→CO+3H2

炭化水素の熱分解蒸留

高級炭化水素を熱的に分解することにより、低分子量のアルケンを得る際に副生成物として、水素が生成する。

イオン性水素化物の加水分解

例えばNaHやCaH2のようなイオン性水素化物の加水分解反応により、水素を得ることができる。

CaH2+2H2O→Ca(OH)2+2H2