化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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水素化物の分類や特徴について解説

水素化物とは

水素を含む化合物(水素化合物)全般を水素化物といいます。特に、狭義の水素化物としては、水素化物イオンH-を含む化合物を水素化物といいます。

化学結合性による分類

水素化物はイオン結合性水素化物と共有結合性水素化物に分類することができます。

イオン結合性水素化物(塩類似水素化物)の特徴
  • 形式イオン価が-1価の水素化物イオンH-を含む本質的にイオン結合性の水素化物です。
  • 電気陰性度が低いアルカリ金属元素とCa以降のアルカリ土類金属元素の水素化物です。
  • 常温常圧で固体です。イオン結晶の構造と性質をもちます。融解した液体は電気伝導性をもちます。ハロゲン化物と水素化物の熔融液を電気分解すると、陽極でH-が酸化されて水素ガス(H2)が発生します。
共有結合性水素化物の特徴
  • X-H結合は本質的に共有結合性の分子の水素化物です。
  • 電気陰性度が水素と近い値の典型元素の水素化物です。解離性のH+をもつHFやHClなどのハロゲン化水素、硫酸、硝酸なども共有性水素化物に含まれます。

結合性の厳密な分類が困難な水素化物も存在します。共有性、イオン性が明確でない境界領域の水素化物(例えば、2族のBeやMg、11族、12族、13族のIn、Tlの水素化物など)が該当します。さらに、構造、性質が遷移金属水素化物との境界領域の水素化物も存在します。

化学組成による分類

3族~10族の遷移金属元素の水素化物のことを遷移金属水素化物といいます。

遷移金属水素化物は構成成分の化学量論面から、さらに定組成化合物(化学量論的化合物)と不定比化合物(非化学量論的化合物)の2つに分類することができます。ただし、構造や性質が多種多様なので、的確な分類は困難です。

その他に、構造面で配位化合物(錯体)、侵入型化合物などの分類、構成成分数から水素と他の元素1種類から成る二成分水素化物、水素と他の元素2種類から成る三成分水素化物などの分類もああります。

二成分水素化物の分類と特徴

イオン結合性二成分水素化物(塩類似二成分水素化物)、共有結合性二成分水素化物、遷移金属二成分水素化物などの二成分水素化物があります。

イオン結合性(塩類似)二成分水素化物

水素化物イオン(H-)を含むイオン結合性の化合物です。

アルカリ金属と、Be、Mg(共有性のBeH2とMgH2)を除くアルカリ土類金属の二成分水和物です。

例:LiH、NaH、KH、RbH、CsH、CaH2、SrH2、BaH2

製法は単体と水素ガス(H2)の高温化(300~700°C)での直接反応です。

高純度結晶は無色の結晶です。不純物の混入した結晶は灰色です。(例えば、NaH、CaH2)一般的な市販品には不純物が含まれていることが多いです。

結晶構造はLiH-CsHはNaCl型です。CaH2、SrH2、BaH2は僅かに歪んだhcp構造でありPbCl2型です。

固体を加熱すると、金属単体と水素(H2)に熱分解します。LiHは例外的に融点(680°C)まで安定に存在します。

イオン結合性二成分水素化物は水と激しく反応します。LiHは比較的おだやかに反応します。

LiH以外は還元剤、水素化剤として利用されます。LiHはLiAlH4の製造に利用されます。

共有結合性二成分水素化物

共有結合性の分子性化合物です。

13族のB、Al、Ga、14族~17族元素の二成分水素化物が含まれます。これらは無色、揮発性で低沸点の分子が比較的に多いです。解離性のH+をもつHFやHClなどのハロゲン化水素は分子なので共有結合性水素化物に分類されます。

2族元素のBeH2、MgH2は共有結合性水素化物に分類されます。ただし、多少はイオン結合性もあるため境界領域の水素化物に分類されることもあります。

共有結合性二成分水素化物陰イオンにはAlH4-やBH4-があります。

AlH4-(テトラヒドロアルミン酸イオン)は立体構造が正四面体型の分子性イオンです。代表的な塩はLiAlH4があります。

BH4-(テトラヒドロホウ酸イオン)は立体構造が正四面体型の分子性イオンです。代表的な塩はNaBH4があります。

AlH4-やBH4-といったイオンはAlH3やBH3にH-が配位結合して生成した錯イオン(ヒドリド錯体、配位化合物)という考え方をする場合もあります。

AlH4-やBH4-といったイオンの塩は、還元剤や水素化剤として利用されます。NaBH4の水素化反応の例を下に示します。

NaBH4+HCl+As(OH3) → B(OH)3+NaCl+AsH3+H2

これは、亜ヒ酸As(OH3)からアルサン(アルシン)AsH3を発生させる反応です。

遷移金属二成分水素化物

構造や性質は多種多様です。定組成化合物(化学量論的化合物)と不定比化合物(非化学量論的化合物)の2つに分類されますが、分類が難しいものもあります。

定組成化合物(化学量論的化合物)

定組成化合物(化学量論的化合物)は遷移金属元素のイオンや原子に水素が結合した化合物です。

例えば、[ReHg]2-、[FeH6]4-、UH3があります。

他に錯イオン(ヒドリド錯体)中で配位子として金属イオンに結合したものもあります。

結合性(M-H結合)からイオン性と共有性の境界領域の水素化物に分類されることもあります。

不定比化合物(非化学量論的化合物)

不定比化合物(非化学量論的化合物)の代表例に侵入型水素化物があります。これは金属固体中に水素が吸蔵された不定比化合物(非化学量論的化合物)です。

例えば、LaH2.87やYbH2.55、TiH1.7、ZrH1.9があります。これらは黒色や暗灰色の固体です。特にこれらの侵入型遷移金属二成分水素化物は還元力が強く、還元剤として工業的にも利用されています。

金属に直接水素ガスを吸収させて製造します。製造時の条件によって水素の吸蔵量は変わります。LaH2.87やYbH2.55、TiH1.7、ZrH1.9といった例の化学式中の水素の化学量論係数は、水素吸蔵量が最大、もしくはそれに近い時の組成であると考えられます。

金属固体中で水素は結晶格子の間隔に原子として存在すると考えられています。ただし水素が結晶格子中に侵入した侵入型固溶体でもあります。

水素の吸蔵により金属固体(結晶)の体積は少し増加します。つまり結晶は膨張します。また水素を吸蔵した固体は機械的強度が低下して少し脆くなります。このことを水素脆化といいます。

水素吸蔵後の固体の性質は金属性を保持しています。そのため、金属類似水素化物や金属結合型水素化物と呼ばれることもあります。