化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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電気陰性度(電子を引き付ける能力)についての解説

電気陰性度について

電気陰性度とは、ある分子中のある原子が自分のほうに電子を引きつける能力の尺度である。

この電気陰性度はイオン化エネルギーと電子親和力の絶対値の平均をもとに考えられた相対的な値である。そのため、電気陰性度は実験的に得られる測定値ではない。

フッ素 (F) が電気陰性度が最も大きい。つまりフッ素 (F) が最も電気陰性な元素である。元素周期表で同じ周期で族を右にいくと、電気陰性度は高くなる。元素周期表で、同じ族で周期を下にいくと電気陰性度は低くなる。

遷移元素の単体は金属であり、電気陰性度は低い。一般的には

第1遷移金属(第4周期)>第3遷移金属(第6周期)>第2遷移金属(第5周期)

の順となる。第3遷移金属が第2遷移金属よりも大きな電気陰性度になる理由は、4f電子、5d電子の低い遮蔽効率により有効核電荷が大きく、その結果イオン化エネルギー電子親和力が大きくなるためである。

第6周期元素は4f軌道が専有されることに由来して、電気陰性度が他の周期間での下がり幅に比べて高くなる。

電気陰性度は元素の一般的な化学的挙動や結合様式を予想する上で、有用なパラメーターである。一般的には大きな電気陰性度差がある2つの元素間ではイオン結合性の化合物を生成する傾向がある。同じ程度で、中間的な電気陰性度(2.5程度)をもつ元素間では共有結合性の化合物を生成する傾向がある。例えばC(電気陰性度は2.5)とH(電気陰性度は2.1)では、いわゆる有機化合物である共有結合性の化合物を生成する。

有機化合物では次に示すような原子の電気陰性度によって、相対的にどちらがプラスに荷電し、どちらがマイナスに荷電するかを考えることができる。

H (2.1) < C (2.5) < N (3.0) ≒ Cl (3.0) < O (3.5) F (4.0)

同じ元素でも、その酸化数や軌道の混成の様式によって電気陰性度が変化する。酸化数が高いほど電気陰性度が高くなる。また、軌道の混成にs軌道の寄与が大きいほど電気陰性度が高くなる。

電気陰性度の例外について

元素周期表のうち同族では下にいくほど電気陰性度は小さくなる。しかしGaは例外的にAlよりも電気陰性度が大きくなる。これは4p軌道の前に占有される3d軌道に入る3d電子の遮蔽能力が低いため、有効核電荷が大きいためである。他に同じ第4周期のGeやAsでも同様の電気陰性度の逆転の傾向が見られる。

ポーリングの電気陰性度について

電気陰性度はPauling(ポーリング)1によって最初に考案された。ポーリングは最も電気陰性なFの電気陰性度を4.0として、原子間の結合エネルギーに基づいて各原子の電気陰性度を決定した。これらの値をポーリングの電気陰性度ということもある。これらの値は、現在でも広く使われている。

 ポーリングは分子ABの結合エネルギーE(AB)は分子AAの結合エネルギーE(AA)と分子BBの結合エネルギーE(BB)の平均よりも大きく、この差が電気陰性度(χA、χB)の差の2乗であると定義した。これを式で表すと次のようになる。

 \displaystyle E(AB) - \frac{E(AA)+E(BB)}{2} = 96.48 (\chi_A - \chi_B)^2

式中の96.48は電子ボルト(eV)単位で電気陰性度の値を決定したために含まれた変換係数(1 eV ≒ 96.48 kJ mol-1)である。

ポーリングの値以外の電気陰性度について

Paulingが電気陰性度を提唱した後に、Mulliken2やAllred-Rochow、Allenらによっても電気陰性度が定義されている。ただしこれらの電気陰性度の値は、大きくは異ならない。

Mulliken2はイオン化エネルギー(I)と電子親和力(Eea)の平均値を電気陰性度(χ)と定義した。

 \displaystyle \chi = \frac{I+E_{ea}}{2}

参考文献

1) L. Pauling, “The Nature of the Chemical Bond”, Cornell University Press (1960).

2) R.S. Mulliken, J. Chem. Phys., 2, 782 (1934), DOI: 10.1063/1.1749394.

3) A.L. Allred, E.G. Rochow, J. Inorg. Nucl. Chem., 5, 264 (1958), DOI: 10.1016/0022-1902(58)80003-2.