大学関連のニュースを目にする方は、最近は、東京大学の女性教員300人採用計画のような、女性教員の採用を加速させる取り組みのニュースを目にした方もいるのではないかと思います。
まずは現状を整理しましょう。
2022年現在、大学では女性研究者や女性教員の割合を増加させる取り組みが行われています。男性、女性が共に、その能力を最大限発揮できる環境を整えていくことは、様々な社会問題の解決のためにも必要な課題でしょう。
そもそも、大学の理系の学部に通ったことのある学生は、同じ学部や学科の男女比率だったり、教員の男女比率などから、なんとなく分かっているように、基本的に多くの理系分野は男性の割合が多いのも事実です。特に、物理系や機械系、情報系などは顕著に男子学生が多いケースも目にします。ただし、大学にもよりますが、薬学系など男女比率がほぼ同じくらいの学部や、看護系など女性の割合のほうが多い理系の分野もあります。
ちなみに研究者への進路を進む学生も多い、博士後期課程に注目しますと、女性の割合は
博⼠後期課程在籍者数に占める⼥性割合(理学系 20%、⼯学系 19%、農学系 36%、医・⻭・薬学系合わせて 31%、⼈⽂科学系 53%、社会科学系 37%(2020 年度)
参考文献1 : (⽂部科学省「令和2年度学校基本調査」より算出)
と、理系の女子博士学生は、少ないのが実態です。
そして、この数値なども参考にしたうえで、現在は以下のような数値目標が示されています。
・⼤学における⼥性研究者の新規採⽤割合:2025 年度までに、理学系 20%、⼯学系 15%、農学系30%、医学・⻭学・薬学系合わせて 30%、⼈⽂科学系 45%、社会科学系 30%
・ ⼤学教員のうち、教授等(学⻑、副学⻑、教授)に占める⼥性割合:早期に 20%、2025 年度までに23%(2020 年度時点、17.7%)参考文献1より
ここで数値目標を見たところで、気になるデータを別文献より示します。
①教授
2020年5月1日現在、教授等に占める女性の割合は国立大学全体で、10.8%である
②准教授
2020年5月1日現在の割合は国立大学全体で、17.7%である
参考文献2より (国立大学協会 国立大学における男女共同参画推進の実施に関する第 17 回追跡調査報告書のデータより)
つまり、まとめると、女性の教員の割合が、現状として少ないなかで、女性の教員の割合を上げるという数値目標が掲げられています。
そして、さらに、大学全体から各大学へスケールダウンして、女性研究者や女性教員の割合を増やすという数値目標を設定したり、そのための方針や取り組み、ルールが打ち出されているわけです。
例えば以下のような目標が各大学で掲げられています。
採用した教員に占める女性比率を30%まで高めることを目指していく。
【数値目標:採用した教員に占める女性比率30%】引用: 東京大学 : 一般事業主行動計画 | 東京大学男女共同参画室
全学の女性教員比率(特定教員を含む)を2027年度に20%とする。
2027年度に全学の女性教員比率(特定教員を含む)を20%とする目標値を設定します。引用 : 京都大学 : アクションプラン(2022年度~2027年度) | 京都大学
学生の方は、自分の在籍している大学で、そのような取り組みがあるかを確認してみてもいいかもしれません。
学生を取り巻く環境
さて、ここまでの数値目標を見てお気づきの方もいると思いますが、数値目標は割合(%)で設定されています。少し考えると分かるように、単純な女性の教員の人数ではなく割合というのが、要注意ポイントです。
女性の教員の割合が少ない現状から、女性の教員の割合を増やすには、
- 女性の教員を積極的に採用する
を実行するのは、1つの手段です。
さらに、
- 男性の教員の採用を控える
- 男性の教員の人数を減らす
といった取り組みでも、女性の教員の割合は増やせますね。
さらに、女性の大学教員を増やすためには、その前のステップである可能性が高い女性の研究者の人数を増やす取り組みも行われることでしょう。
さて、大学教員や研究者の就活も、学生の企業への就活とは内容が大きく異なるとはいえ、公募などの条件を見て、書類を準備して、応募し、書類の審査や面接などを経て採用されるというフローは比較的似ています。
そして、女性の研究者や女性の教員の割合を増やそうとした結果、企業への就活でいう募集要項に以下のような文言が書かれているケースが生まれます。
- 採用時に、業績や能力が同等と認められる場合には、積極的に女性を採用します
- 本公募は女性限定公募です
- 女性の積極的な採用に取り組んでいます
本当かどうかを確認したい方は、JREC-IN Portal などで公募検索できますので、実際に検索してみてください。備考などの欄に書いてあることもあります。
ただしこれは、おそらく分野によっても違いがありますし、こういった文言を書いていない公募も、もちろんあります。
またこれは全く別の課題ですが、大学の研究室などに在籍していると、そもそも大学教員の公募が少なかったり、公募があっても任期付きなど、待遇面などでの不安や懸念があるケースもあります。
つまり、最低でもここから先の数年は、理系の男性は、特に大学での研究者や、教員として採用されるには、圧倒的に不利です。そもそも厳しい大学教員への採用という道を、わざわざ選ぶのは諦めましょう。
最後に伝えたいこと
筆者の意見になりますが、上のような内容を読んで、将来で採用で不利になる可能性が高いなんて、大学の研究者や教員になるのは不安だと感じるのであれば、間違いなく諦めたほうがいいです。これはほぼ全員が同意すると思いますが、現状において大学の研究者や教員は、決して楽な進路や仕事ではありません。
これは、別に男女の採用比率の話に関わらずという意見ですが、特に大学の研究者や教員として生き抜いていこうと覚悟を決めているのであれば、男女問わず周りの研究者よりも圧倒的な能力や業績を積み上げていく必要があります。採用には大学内外の政治的な思惑などが絡むこともありますが、周りの女性の研究者よりも、明らかに業績や能力が上だと示して、周りの誰もが、「あなたが採用で落とされるなんておかしい」と感じるだけの状況を作っていくのが、まずは必要なのではないでしょうか。
この記事が、本気で覚悟を決めている学生の後押しになれば幸いです。
参考文献
参考文献1 : 第6期科学技術・イノベーション基本計画
第6期科学技術・イノベーション基本計画 - 科学技術政策 - 内閣府
参考文献2 : 国立大学における男女共同参画推進について-アクションプラン(2021年度~2025年度)
本記事では、引用した数値データなどが、孫引きになっている点はご容赦ください。