化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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格子エンタルピーとボルンハーバーサイクル

格子エンタルピーとイオン結晶の構造安定性

定温、低圧におけるイオン結晶の構造安定性は、結晶構造が各イオンから形成される際のギブズの自由エネルギー変化の大きさに依存する。しかしながら、格子形成は非常に発熱的であり、エントロピー項は相対的に無視できる。そのため、エンタルピー変化の大きさでイオン結晶の構造安定性を議論することができる。

格子エンタルピー \Delta H^0_Lはイオン結晶が気相イオンに分解する反応の標準エンタルピー変化で次の式に関連して定義することができる。

 \mathbf{ MX(s) \rightarrow M^+(g) + X^- (g) }

ここでsは固体、gは気体、Lは格子を表す。

この格子エンタルピーはボルンハーバーサイクルを用いて各段階のエンタルピー変化の値から間接的に見積もることができる。

例としてKClのボルンハーバーサイクルを示す。

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KClのボルンハーバーサイクル

 

つまり、単体からのイオン結晶標準生成エンタルピー変化(\Delta H_f^0)、固体元素単体の昇華エンタルピー、気体元素分子の乖離エンタルピーに対応する原子化エンタルピー変化 \Delta H^0_{atom}、陽イオン生成に必要なイオン化エンタルピーと陰イオン生成に必要な電子獲得エンタルピーに対応するイオン化エンタルピー変化 \Delta H^0_{ion}を用いて閉じたサイクルを形成する。

サイクル1周りのエンタルピー変化が0になることを利用して、次の式のように格子エンタルピーが求められる。

 \Delta H^0_{atom} + \Delta H^0_{ion} - \Delta H^0_{L} -  \Delta H^0_{f}=0