化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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イオン半径比と配位数の関係

イオン半径比と配位数

一般的に1価のイオン性化合物MXの全クーロンポテンシャルエネルギーE_cは次の式で表すことができる。

 E_c = - \frac{ N_A e ^2 }{4 \pi \epsilon _0 R}A

ここで、N_Aはアボガドロ定数、Aはマーデルング定数、{tex: R]はイオン間距離である。この式から考えると、A/R比が大きくなる構造が安定であることがわかる。MX化合物のマーデルング定数は配位数が大きくなるほど大きくなる。しかしMの半径r_Mが小さくなると、MとXが接触できなくなるため、配位数を下げてRを小さくしたほうが有利となる。

イオン結晶において、半径r_Xの陰イオンが互いに接触し、かつ半径r_Mの陽イオンとも接触するためのr_Xr_Mの比率は配位数によって異なる。

陽イオンを中心として、その周囲に陰イオンが配位する部分構造を取ると、陰イオンは陽イオンに対して配位多面体を構成する。多面体の辺(稜)の距離の1/2が陰イオン半径r_X、多面体の中心から頂点への距離が陰イオン半径と陽イオン半径の和r_X + r_Mとなる。

CsCl型構造では配位多面体が立方体、NaCl型構造では配位多面体は正八面体、ZnS型構造では、正四面体となる。

それぞれの多面体の中心から頂点への距離は \sqrt{3} r_X, \sqrt{2}r_X, \frac{\sqrt{6}}{2} r_Xである。 

よって、陽イオン半径と陰イオン半径の比 \frac{r_M}{r_X}はCsCl型構造では

 \frac{ \sqrt{3}r_X-r_X } { r_X} = \sqrt{3}-1

NaCl型構造では、

 \frac{ \sqrt{2}r_X-r_X } { r_X} = \sqrt{2}-1

ZnS型構造では、

 \frac{ \frac{\sqrt{6}}{2} r_X-r_X } { r_X} = \sqrt{6}/2-1

となる。

一般的にこれらの半径以下になると、陽イオンと陰イオンが接触しなくなり、不安定化するため配位数が下がる。つまり、小さな陽イオンは小さな配位数をとるという傾向がある。そして陽イオンの半径が大きくなり、陽イオンと陰イオンの半径比が増大すると、配位数が大きくなる。

しかしながら、配位数と半径比の関係はこれだけで説明できるほど単純ではない。

具体例としてアルカリ金属のハロゲン化物は塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム以外は、常温ではNaCl型構造をとる。そのため半径比から配位数を見積もるという方法はあまり有用ではない。