走査型トンネル顕微鏡とは
試料表面に鋭くとがった針 (探針、プローブ) を1 nm以下に近づけて、試料と探針の間に流れるトンネル電流が一定になるようにし、原子レベルの試料表面の立体像を観察する顕微鏡のことを走査型トンネル顕微鏡 (Scanning Tunnelling Microscope, STM) という。
一般的に、縦方向で0.01 nm、横方向で0.1 nmの解像度がある。また、開発された当初は真空中で測定が行われていたが、溶液中でも測定が行われるようになり、in situ測定が可能であるという利点がある。一方で、表面の化学分析や組成分析が出来ないことや、観察面積が狭いという欠点もある。
走査型トンネル顕微鏡の原理について
探針と試料との距離が1 nm程度になると、探針を構成する原子と試料表面の原子の波動関数が重なる。そのため、両者間に電位差をかけると、トンネル電流が流れる。
このトンネル電流はWKB近似では次のように表すことができる。
ここで、は試料の状態密度関数、は探針の状態密度関数、はトンネル遷移確率、は試料と探針の距離、は電子のエネルギーである。
また、を電子の質量、を試料と探針の平均の仕事関数、を換算プランク定数とすると、は次のように表すことができる。
この式からトンネル電流の大きさは試料と探針の距離に敏感であり、指数関数的に応答することがわかる。
実際に、探針と試料との距離が1 nm程度の場合、数 mVの電位差をかけると1 nA程度のトンネル電流が流れる。トンネル電流は、探針と試料の距離に敏感であり、探針と試料の距離が0.1 nm程度増減すると、トンネル電流の値は一桁変わる。
そのため、探針を試料上で走査 (スキャン) して、トンネル電流を測定し、トンネル電流が一定になるようにフィードバックをかけて探針と試料の距離を一定に保つ。これによって、原子レベルでの表面の凹凸を観測することが可能である。
探針は圧電素子で駆動させており、電圧により上下左右に走査可能である。
実際には、探針を構成する原子と試料表面の原子の波動関数の重なりを追跡しており、幾何学的凹凸を直接見ているわけではない。電気的、または機械、光学的に得られた情報をコンピューターなどで処理を行い凹凸の情報としている。そのため解釈には注意が必要である。
走査型トンネル顕微鏡で測定可能な試料
測定可能な試料は、導電性をもつ試料に限られる。
実際に、金属表面に吸着された原子や分子、高温超伝導体や半導体結晶の表面構造、DNAの二重螺旋、ウイルスの構造などの観察が行われている