化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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TLC・薄層クロマトグラフィーのRf値、吸着剤、展開法、検出について

薄層クロマトグラフィー・TLCとは

薄層クロマトグラフィー(thin-layer chromatography, TLC)はガラス板やアルミニウム箔などの支持体の上に微粒子担体を均一に塗布して固定相とし、適当な溶媒を移動相として、物質を展開、分離するクロマトグラフィーである。

主に有機物質を対象に合成反応の追跡やカラムクロマトグラフィーの分画の成分の簡便な検出などに使われている。

吸着剤(微粒子担体)について

吸着剤としてシリカゲルやアルミナなどが市販されている。その粒径は5~40 μm程度のものが多い。吸着剤としては、他にセルロース、ケイ酸マグネシウム、珪藻土、ポリアミドなども用いられる。

シリカゲルは分子量100~1000程度の炭化水素から水溶性化合物まで広範囲の試料に適用できる。シリカゲルの表面にはSiーOH基が存在し、この基が試料物質と水素結合を形成し、その結合力によって分離が行われる。

アルミナの場合は吸着や分配によって分離が行われる。

吸着剤に硝酸銀や亜硫酸水素ナトリウム、ホウ酸などの試薬を加えて分離しにくい物質の分離を改善できることがある。添加物を含む薄層プレートを作製する場合は、添加物の水溶液を吸着剤に加えてスラリーを作る方法がある。

固着相には検出のための蛍光指示薬を含有するものが使用されることが多い。

薄層プレートの活性化について

吸着剤を塗布したプレートは10~20分間室温で放置し、固着剤を固化させる。その後、適当な乾燥棚に入れて100~120℃で30分~1時間かけて活性化する。

活性化したプレートは、シリカゲルなどの乾燥剤を入れた保存箱中に保存し、使用直前に取り出す。作製してから長時間経過したプレートは活性度が落ちているので、再活性化してから用いる。

 試料の付け方

0.1~1 %程度の溶液に試料を調製する。その後、ガラス製キャピラ
リーを用いて約1 μLを薄層表面にスポットする。スポットはプレートの下端から1.5~2 cm、側端から1~1.5cm 内側に鉛筆などで印をつけ、薄層に傷をつけないように注意して試料溶液をスポットする。スポットの径は2 mm以内にするとよく、小さい方がよい。

希薄な試料溶液を対象とする場合は、一つの場所に繰り返し試料溶液をスポットする。その場合は、ドライヤーなどを用いて前のスポットを乾かしてから次のスポットを行うことで、スポットの系が大きくならないようにすることができる。

展開溶媒について

展開溶媒は溶出力のデータなどを参考に選択する。また、既存物資の分離の場合は、吸着剤と展開溶媒の組み合わせのデータを参考に選択する。

展開法について

TLCでは、薄層を構成する粒子間の毛細管現象を利用して展開を行う。そのため、上昇法が一般的に用いられる。他にも、下降法や、水平法などがある。

展開槽は、様々な形のものが市販されており、用途に応じて適切なものを選択する。

再現性よく分離を行うためには、展開槽内を展開溶媒によって充分に飽和させるとよい。そのため、展開槽に展開溶媒を入れてから、30分間放置して展開槽内を溶媒蒸気で飽和させる。

検出・Rf値について

溶媒が薄層プレートの上端近くまで上昇したら薄層プレートを展開槽から取り出し、溶媒の先端に印をつける。その後、ドラフト中で赤外線ランプなどを用いて溶媒を揮散させる。つぎに紫外線や発色試薬により分離した成分を検出する。

紫外線による検出法は254 nmや366 nmなどの紫外光を照射することにより検出する。蛍光指示薬を含むTLCプレートを使用した場合は緑色の蛍光を発色するが、試料に紫外吸収があるとその部分の蛍光が消光されて青黒く見えることを利用し検出を行う。スポットの位置は鉛筆などでなぞっておくことで、後でも確認をしやすくするとよい。

発色試薬は試料が紫外吸収をもたないときに利用されることが多い。発色試薬は噴霧もしくは含浸させることでプレート上で発色させる。発色試薬としては、ヨウ素やリンモリブデン酸、pーアニスアルデヒドなどが使用される。

検出試薬を噴霧して分離した後に加熱が必要な場合は、ドラフト内で赤外線ランプやホットプレートを用いて加熱するとよい。

試料は移動度(Rf値)が、同定の目安になる。

Rf = (試料をつけた位置(原点)から着目するスポットの中心までの距離) / (原点から溶媒の浸透前端までの距離)

Rf値はカラムクロマトグラフィーにおける保持時間や保持体積に相当する物質固有の値である。そのため、本来は同じ物質を同じ条件で分離すると同じ値となる。

しかしながら実際はRf値はばらつくことが多い。その主な原因としては、展開溶媒の移動速度が展開槽内の展開溶媒蒸気の飽和度の違いや展開槽外部の温度の違いによる影響を大きく受けることや、固定相の活性を均一に保つことが難しいためである。

文献値などのRf値は物質の同定の目安と考えるとよく、Rf値だけで物質を同定することは難しい。

試薬の標準品などが市販されている場合は、試料と標準品を同じ薄層プレート上で同時に分離を行ったり、試料と標準品を同じ場所に重ねてスポットして分離をするとよい。

そのため、標準物質のスポットと標準物質と試料の混合物のスポット、試料のスポットの3つのスポットを行うことがある。