化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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マイクロ波合成と伝導加熱・誘電加熱について

マイクロ波合成とは

混合酸化物などの固体材料をつくる際にマイクロ波 (マイクロウェーブ) が使われるようになった。マイクロ波とは、波長の範囲が約1 mから1 mm、周波数の範囲が300 MHz から300 GHzの電波をさす。

マイクロ波合成では、主に反応速度を速くするためにマイクロ波を使用する。

電子レンジは身近なマイクロ波を利用する装置の一つということができる。そのため、家庭用電子レンジを改造したものを用いて合成をしたという例もあるが、最近では条件を制御できるマイクロ波合成用のオーブンが開発されている。

マイクロ波による伝導加熱と誘電加熱

固体や液体におけるマイクロ波の交流電場の作用による加熱は伝導加熱と誘電加熱の2種類がある。

まず、液体や固体中では、分子やイオンは自由に回転ができない。そのため、気体のような回転状態の遷移によるマイクロ波吸収によっては加熱は起きない。

しかしながら、固体や液体内を自由に動ける荷電粒子がある場合、マイクロ波の交流電場の影響を受けてこれらの粒子が動いて交流電流を生み出す。この荷電粒子の動きに対する抵抗が熱として周囲にエネルギーを与える。これが伝導加熱 (conduction heating) である。

また、仮に自由に動ける粒子がない場合でも双極子モーメントをもつ分子がある場合は、電場はこれらの双極子モーメントを配列するように作用する。これは誘電加熱 (dielectric heating) を引き起こす。一般的に、食品が加熱される原因は、水分子にこの効果が作用するためである。

全ての電磁波と同じように、マイクロ波の電場も、ある周波数で振動している。固体内の電気双極子は瞬間的にその配列を変えるわけではなくある時定数τをかけて変化する。振動電場が非常にゆっくりとその方向を変える場合、その変化に要する時間がτよりも大きくなる。そのため、双極子は変化についていくことができる。この場合、双極子が再配列するたびに微量のエネルギーが周囲に熱として伝わるが、この加熱効果は非常に小さい。

逆にマイクロ波の電場があまりにも速く振動すると、双極子は充分に対応できず、再配列は起こらない。つまり、マイクロ波の周波数 (電場の正負の変化の速度) がτと同程度の場合には、双極子の再配列は電場の変化よりも少しだけ遅れて起こる。そのため、固体はマイクロ波を吸収することとなる。この吸収されたエネルギーが熱に変わる。

このマイクロ波が吸収するかどうかの過程に影響する物理量が誘電率であり、これが双極子の配列の程度や吸収されたエネルギーの熱変換効率を左右する誘電損失を決める。

固相合成にマイクロ波を利用する場合には、少なくとも1つの反応物質がマイクロ波を吸収する必要がある。条件があえば、固相反応の速度と、律速的な拡散速度の両方がマイクロ波によって加速されることで、反応速度は加速される。