化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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反磁性・常磁性・強磁性・反強磁性について

磁性と磁気双極子・磁気双極子モーメントについて

物質の磁気的性質(磁性)は、原子や分子の軌道を電子がどのように占めているかに影響される。

磁性はグーイ(Gouy)の天秤と呼ばれる装置やスクイド(SQUID)と呼ばれる装置で磁化率を測定することで知ることができる。

正負の磁極の対のことを磁気双極子という。磁気双極子モーメント(\mu)はその物質中の不対電子の数(n)と次の関係があることが知られてる。

\mu = \sqrt{n(n+2)}

反磁性について

ある物質に外部から磁場を加えたとき、この外部磁場とは逆向きの磁気双極子が誘起されるような磁性を反磁性(diamagnetism)という。

物質中のすべての電子が電子対を形成し、不対電子をもたない物質では、外部磁場がかかると原子核のまわりの電子対がこれを打ち消す方向に軌道運動するため反磁性を示す。

常磁性について

不対電子をもつ分子やイオンは永久磁気双極子としてふるまう。この磁気双極子間にはたらく磁気的相互作用が非常に小さい場合や、温度が高く熱エネルギーが磁気的相互作用よりも大きい場合は、外部磁場がかかっていない場合磁気双極子は熱振動によって無秩序な方向を向いている。

この物質に外部磁場をかけると、永久磁気双極子は外部磁場と同じ方向を向いて並ぼうとする。そのため、外部磁場を強めるような磁化が起こる。外部磁場がなくなると、すぐにまた無秩序な状態に戻ろうとする。このような磁性を常磁性という。

NO2のような奇数個の電子をもつ分子やO2のような縮重した最高非占軌道をもつ分子などは常磁性物質である。

不対電子に起因する永久磁気双極子は電子対に外部磁場がはたらいて生じる誘起磁気双極子よりモーメントが一桁大きい。そのため、常磁性による磁化は、反磁性による逆方向への磁化よりも大きい。

常磁性物質では反磁性の寄与があるため、この反磁性の寄与を補正した常磁性物質の磁化率(X_m)、絶対温度(T)から次の式によって磁気双極子モーメント(\mu)を求めることができる。

\mu = 2.84 \sqrt{X_m T}

強磁性とキュリー温度について

固体中の永久磁気双極子間にはたらく磁気的相互作用が強く、この相互作用によってすべての磁気双極子が同じ方向を向いて整列している場合、外部磁場がなくても非常に強い磁化が現れる。このような磁性を強磁性(ferromagnetism)という。

永久磁石は強磁性体である。

強磁性体は温度を上げていくと、ある温度で熱エネルギーが磁気的相互作用に打ち勝ち、それより高温では常磁性体に変わる。この強磁性体が常磁性体に変わる温度(転移温度)をキュリー温度という。

反強磁性とネール温度について

強磁性とは逆に、固体中で隣り合った永久磁気双極子同士が互いに反対向きに並んだ場合、磁化は0となる。このような磁性を反強磁性(antiferromagnetism)という。

反強磁性体も、強磁性体と同様に温度を上げていくと、ある温度で熱エネルギーが磁気的相互作用に打ち勝ち、それより高温では常磁性体に変わる。この反強磁性体が常磁性体に変わる温度(転移温度)をネール温度という。