化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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NMRのシフト試薬・常磁性添加試薬とは

シフト試薬・常磁性添加試薬

核磁気共鳴 (NMR) 測定では、試料中に常磁性物質が混入すると、シグナルの幅が広くなったり、化学シフトが大きく動いたりする。

これを利用し、化学シフトを大きく動かすことで重なったシグナルの分離を行うことができ、スペクトルの見かけの分解能が向上する。このようなシグナルの分離をよくする目的で使用される試薬をシフト試薬もしくは常磁性添加試薬という。

常磁性物質の中でも、Eu3+、Pr3+、Yb3+などのランタノイド系金属は、線幅を広げずに化学シフト差だけを広げることが知られている。多くのシフト試薬は、ランタノイド系金属イオンに、配位子として有機配位化合物が結合したものである。ランタノイドの\beta-ジケトン錯体や鉄のフタロシアニンキレートなどがシフト試薬として知られている。こういったシフト試薬は、それぞれ市販されている。

シフト試薬は、試料中の分子の全てのシグナルの化学シフトを変化させるわけではない。

常磁性金属イオンは、複合体をつくることができる酸素などを含む求核性官能基の近くに存在する。そのため、この求核性官能基の近くのシグナルは大きく化学シフトが変化する。これは擬コンタクトシフトといわれる機構で起こる。

そして、官能基から離れるほど、シフト試薬のシフトへの影響は小さくなる。

そのため、シフト試薬の添加量を徐々に変化させることによって、シグナルの帰属を効率的に行うことができる。

シフト試薬と鏡像異性体 (エナンチオマー)

また、シフト試薬は、光学活性体の区別に利用されることもある。

光学活性な有機配位子を含むシフト試薬を用いることで、NMR測定によって、エナンチオマーの混合物を区別できる場合がある。そのためシフト試薬が、鏡像体過剰率 (エナンチオマー過剰率、e.e.) を求めるために使われることもある。