有効核電荷とスレーターの規則について
有効核電荷とは着目している電子が感じる中心原子核の電荷である。
有効核電荷を求める方法として、スレーターの規則 (スレーター則、Slater's rule) がある。
スレーターの規則は、ある軌道上にある電子が、他の電子の遮蔽効果を考慮したうえで感じる核電荷、つまり有効核電荷を近似的に求める経験則である。
スレーターの規則による有効核電荷の求め方
有効核電荷を考える原子の原子番号を、後述する遮蔽定数の総和を[S]とすると、有効核電荷は次の式で求めることができる。
遮蔽定数の総和[S]については、次の規則によって原子の各電子の遮蔽定数を考え、その遮蔽定数の総和を計算する。
まず電子の軌道を次のようなグループに分類する。
[1s] [2s 2p] [3s 3p] [3d] [4s 4p] [4d] [4f] [5s 5p] [5d] [5f]・・・
1:すべてのグループについて、着目する電子より右側のグループ(外側の軌道のグループ)の電子は遮蔽に寄与しない。
2:[ns np]の電子に対する遮蔽定数
それぞれの電子について次のように遮蔽定数を見積もる。
同じグループの電子:0.35 (例外として1sは0.30)
n-1のグループの電子:0.85
n-2以下のグループの電子:1.0
3:[nd] [nf]の電子に対する遮蔽定数
それぞれの電子について次のように遮蔽定数を見積もる。
同じグループの電子:0.35
左側のすべてのグループの電子:1.0
スレーターの規則による有効核電荷の計算例
ここで、例としてナトリウムの2p軌道の電子と3s軌道の電子の有効核電荷を計算する。
まずナトリウムは原子番号はである。また電子配置は1s22s22p63s1である。
ナトリウムの2p軌道の電子の有効核電荷
2p電子に対する遮蔽定数を考えるため、3s電子は遮蔽に寄与せず無視する。
[2s 2p]の電子の数は着目する電子を除くと7個であるため、同じグループの電子の遮蔽定数は次のようになる。
n - 1である[1s]のグループの電子の数は2個であるため、n - 1のグループの電子の遮蔽定数は次のようになる。
よって、 有効核電荷は次のように求めることができる。
ナトリウムの3s軌道の電子の有効核電荷
同じグループは他に電子が存在しない。
n - 1である[2s 2p]のグループの電子の数は8個であるため、n - 1のグループの電子の遮蔽定数は次のようになる。
n - 2である[1s]のグループの電子の数は2個であるため、n - 2のグループの電子の遮蔽定数は次のようになる。
よって、 有効核電荷は次のように求めることができる。
スレーターの規則以外の遮蔽則
スレーターの規則で求められる有効核電荷は分光学的実験から得られた値との一致はあまり良くはないことが知られている。しかしながら、規則が単純であり、大まかな傾向は充分に再現できるため、現在でもよく使われている。
より精度の高い値が得られるモデルとして、クレメンティ-ライモンディ遮蔽則(Clemeti-Raimondi rules)などもあるが、より複雑な計算が必要となる。