不活性電子対効果について
立体化学的不活性電子対効果(stereochemical inert pair effect)と不活性電子対効果は熱力学的6s不活性電子対効果(thermodynamic 6s inert pair effect)に区別することができる。
立体化学的不活性電子対効果について
非共有電子対が分子やイオンの形に影響を与えるとき、その非共有電子対は立体化学的に活性であるという。逆に、非共有電子対が分子やイオンの形に影響を与えないとき、その非共有電子対は立体化学的に不活性であるという。
周期表の族の下にある最も重い元素では立体化学的に不活性な共有電子対がみられる。
そして周期表の族の最も重い元素の原子価殻のs電子対が分子内で非結合的な性質を持つ傾向を立体化学的不活性電子対効果という。
これは原子価殻電子対反発モデル(VSEPRモデル)を考える際に重要となる。
熱力学的6s不活性電子対効果について
周期表の下の方の13族元素は、第二イオン化エネルギーと第三イオン化エネルギーが増加する。そのため、13族元素のうちガリウムやタンタルでは+1の酸化状態で安定性が上がる。同じような効果は14族の鉛、15族のビスマスでもみられる。
熱力学的6s不活性電子対効果の要因は相対論効果によって説明される。その相対論効果は相対性理論と量子力学を組み合わせて説明される。
粒子の質量は、速度を、光速を、静止質量をとすると次の式で与えられる。
1電子系では、原子のボーアモデルで考えると電子の速度は、原子番号を、電子の電荷を、真空の透過率、プランク定数をとすると次の式で与えられる。
このときボーア半径は次の式で与えられる。
よってが増加したとき、1s軌道の半径は約20%収縮する。このことを相対論的収縮という。他のs軌道も同様に影響を受ける。
つまりs軌道の相対論的収縮があるということは、原子番号の大きい元素で、s電子と核の引力による余剰のエネルギーがあり、これにより6s電子のイオン化エネルギーが高くなっている。これが熱力学的6s不活性電子対効果の要因である。