ファヤンスの規則(Fajan's rules)について
ファヤンスの規則(ファヤンス則)とは1923年にFajansによって提案された経験則である。ファヤンスの規則は、誘起される分極の大きさを推定する指針を規則としてまとめたものであり、化学結合のうち共有結合性の度合いやイオン結合性の度合いを議論するときに使われる。
ファヤンスの規則では、分極に影響を及ぼす因子は次の3つにまとめられている。
- 高い電荷をもつ小さい陽イオンは分極能をもつ(分極を起こす力が強い)
- 高い電荷を持つ大きい陰イオンは分極しやすい
- 外側のd殻に電子をもつ陽イオン(遷移金属イオンの一部および12族の金属イオン)は希ガス電子配置をもつ類似の陽イオン(12族金属イオンを除く典型金属イオン)よりも分極を起こす力が強い
分極について
まずは、ここでの分極や関連する用語について考える。ここでの分極とは電荷の分布に偏りがあることである。
分極率について
分極率は電場の中に位置する原子の変形のしやすさを表す。
原子やイオンの空軌道エネルギーが最高被占軌道エネルギーに近い電子分布は変形しやすい。よって、分極率が大きくなる。
分極能をもつ
"分極能をもつ"とは、原子やイオンが隣接する原子や陰イオンの電子分布を効果的にひずませることができる能力をもつということである。
分極について整理したところで、ファヤンスの規則それぞれについて説明していく。
高い電荷をもつ小さい陽イオンは分極能をもつ
イオンが小さいため電荷が狭い領域に集中する。またその電荷が高いほうが分極を起こさせる力が強いためこのようになる。このことを考える方法として、陽イオンの電荷をイオン半径で割った値を比較する方法がある。
例として起分極力はLi+>Na+>K+の順に減少する。また、Li+<Be2+<B3+の順に増大する。
高い電荷を持つ大きい陰イオンは分極しやすい
陰イオンの分極率は、イオンが含んでいる電子の数およびそのイオン半径の増加に伴って大きくなる。これは、一般に電子が原子核から遠い位置にあるほど、また核電荷からよく遮蔽されているほど、その電子の軌道はひずみやすくなるためである。
外側のd殻に電子をもつ陽イオンは希ガス電子配置をもつ類似の陽イオンよりも分極を起こす力が強い
d軌道はs軌道、p軌道よりも核の陽電荷を遮蔽する効果が小さい。外側のd殻に電子をもつ金属イオンはs殻、p殻を一番外側にもつ金属イオンよりも高い有効核電荷をもつ。その結果、起分極力も大きくなる。例えばAg+はNa+よりも大きな起分極力をもち、共有結合性の高い化合物をつくる傾向がある。