化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

学振の申請書を書くときに審査員について確認しておきたいポイント

博士課程に進学する学生であれば、日本学術振興会 特別研究員(DC1・DC2)(通称 学振、がくしん)の申請書を申請すると思います。
学振の申請書を提出する資格がある人が、申請をしない理由はないので、絶対に申請をするべきです。この申請書を完成に近づける中で確認しておきたいポイントを紹介します。

審査員の分野を確認する

書面審査セットといわれて、パッと単語の意味と内容がわからない人がいれば、審査区分について理解が不十分な可能性が高いです。
審査区分のサイトページ https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_sinsa-set.html (2023年2月時点)を確認しましょう。

https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_sinsa-set.html DC1(pdfファイル)より引用

書面審査セットとは、申請書の審査の際の審査員のグループ分けのことです。
たとえば錯体化学に関する研究テーマであれり、書面審査セット 化学2 で応募することを想定します。この化学2の審査区分を見ると、錯体化学の専門の審査員だけでなく、無機化学、分析化学、グリーンサステイナブルケミストリー、環境化学の専門の審査員が審査する可能性があることが分かります。

申請書を完成させる前に、どの審査区分で応募するかを改めて確認しておきましょう。そして、これによって、どの程度の専門用語を使えるかを確認することができましょう。当然、審査員はその分野の専門家ですが、分野が違うことで意味を理解してもらえない専門用語もあります。

書面審査セットを確認することで、どのレベルの専門用語まで理解してもらえるかを正しく意識することができます。

審査員は100部を審査すると想定する

一人の審査員が審査する申請書の数は、おそらく数十~百程度になることが想定されます。周りに審査を経験した人がいれば聞いてみるといいかもしれません。

さて、ここからが大事な推測です。

非常に忙しい大学教員などの審査員が、どの程度の時間を審査に使うことができるか?、そして、1部読むのに何分を使うか?です。

例えば1部読むのに1時間をかけていた場合、申請書を読むだけでおおよそ100時間です。はたして、そこまで時間をかけて読んでもらえるかを考えてみてください。

この記事の筆者の想定では、1部あたり10~20分程度ではないかと想定します。もちろん審査結果の迷う当落線上のような申請書があれば見返すといったことはあるかもしれません。

ここで大切になることは審査員は人間であり、パソコンやAIなどではないということです。つまり、申請書を読む速度を物理的(機械的)に拡張することで、高速化させるといったことは不可能であり、申請書を読む速度に限界があります。ここを想定しましょう。

一般的に日本人の1分間の平均読書速度は1分間あたり400~600文字程度と言われています。
審査員は、申請書を読むことに慣れているのでもっと早く読むと考えるか、何部も審査すると集中力も落ちるから、もう少し落ちると想定するかは、あなた次第ですが、ここでは1分間あたり500文字とします。

すると、おおよそ1部あたりの審査時間の想定を考えると5000~10000文字程度に目を通してもらえると想定できます。
例えば、ある程度の数の図などを加えて、10000文字の申請書を仕上げたとして、一通り読んでもらえるかどうかが怪しいということになります。また実際には、申請者が仕上げる申請書とは別に、指導教員などが執筆する評価書も加わります。

当然、何回も読み返すことで、スゴさを理解してもらうような申請書は非常に相性が悪いです。もちろん安直に4000字の申請書にすると全部読んでもらうことができ、評価が高くなるかというと、そういったことはないでしょう。

また学振のコツとして周りの人に読んで評価してもらうという方法があります。非常に重要ですが、レビューをお願いした相手が親切に一字一句丁寧に目を通し、数十分から1時間かけて読んだ場合と10~20分で審査員が読んだ場合では、印象などが変わる可能性もあります。
こういった点では、研究分野が少し違うような初見に近い人に、まず10分で目を通してもらって、その時の評価や感想をもらうという手法が、実は丁寧にレビューしてもらうだけよりも有効かもしれません。

こういった点も意識しながら、学振の申請書の推敲を重ねることで、よりよい申請書が作成できるのではないでしょうか?